英語学習に取り組む中で、「自分の学習方法は正しいのか」「もっと効果的な学び方があるのではないか」などと悩んだ経験はありませんか?このような英語学習にまつわる疑問を解決する鍵となるのが、第二言語習得(SLA:Second Language Acquisition)という研究分野です。SLA研究では、人間が母語以外の第二言語を習得するメカニズムを明らかにしていくとともに、効果的な言語の学習方法の解明に向けて科学的なアプローチを行っています。
English Hubでは今回、成果につながる英語学習のポイントについて、SLA研究の第一人者であり、オンライン英会話「スパトレ」のプログラム監修を手掛ける白井恭弘教授にお話を伺いました。
ケース・ウェスタン・リザーブ大学認知科学科教授。オンライン英会話「スパトレ」のプログラムを監修。専門分野は、第一・第二言語習得論、言語教育。学術誌First Languageの共同編集者、International Review of Applied Linguistics in Language Teaching, Journal of Cognitive Scienceなどの編集委員。英語学習法の書籍としては異例の販売総数累計10万部超え『外国語学習の科学』、『英語はもっと科学的に学習しよう』、『外国語学習に成功する人、しない人』など多数の著作。
インタビュー目次
外国語習得に成功する学習者の特徴とは
Q. 学習によって英語の習得に成功した人に共通する要素はありますか?
成功する学習者の5つの特徴
外国語学習に成功する人の特徴としては、以下の5つが挙げられます。
- 学習開始年齢が低い
- 外国語学習への適性が高い
- 母語と学習対象言語の距離が近い
- 動機づけが強い
- 学習方法が効果的である
第二言語習得研究では、学習を始める年齢が言語習得の成否に影響を与えていると言われています。ただし、学習者が英語圏で英語を学ぶ場合と、日本のように普段の生活で英語に触れる機会がほとんどない国で学ぶ場合とでは環境が異なりますし、年齢要因に関しては研究者の間でもさまざまな論点で意見が分かれているのが実情です。
また、生まれつきの才能のように外国語学習に特化した適性というものが存在し、適性が高い人の方が習得に成功しやすいと考えられています。ただ、「自分には適性がないのでは」とネガティブに捉えてしまう方がいるかもしれませんが、適性の研究は最終的な習得の到達度ではなく、「学習の初期段階でどれだけ早く習得が進むか」を研究課題としている場合が多く、仮に適性が高くなかったとしても、長期的な学習を通じた外国語の習得は可能とも言われていますので、諦める必要はありません。
3点目に挙げた母語と学習対象言語の距離については、2つの言語が似ていれば似ているほど、総じて学習がしやすくなるというものです。しかし、系統的に異なる日本語と英語間の距離は遠く、ドイツ語やオランダ語を母語とする人たちが英語を勉強する場合と比べると日本人は不利だと言えるでしょう。日本語と英語の距離は、日本人であれば条件はみな同じですから仕方のないことです。
「動機づけ」と「効果的な学習方法」が鍵
先に述べた、年齢・適性・母語に関する3つの特徴は、学習者自身が後から変えられるものではありません。つまり、外国語学習に成功するために着目すべきなのは、残り2つの要素である「動機づけ」と「学習方法」です。動機づけを高めた上で、効果的かつ正しい学習方法に取り組めば、外国語の習得に成功する確率が高くなると言えます。
学習開始年齢と言語習得の関係性
Q. 大人になってから学習を始めても英語の習得は可能ですか?
大人でも英語の習得はできる
ネイティブ同様の英語の習熟度に到達するには子どものうちから学習を始める方が望ましいですが、英語を実用的に使いこなすことを目標とするなら、大人になってからでも習得は可能です。「学習開始年齢が低いほどよい」というのは、発音などの音声面や細かい文法規則の持続的なコントロールの習得に関してであり、これらの要素はあくまで英語の一部の側面に過ぎません。
学習年齢の影響についての研究がこれまで主に対象としていたのは、「ネイティブのように言語を正しく使えるか」という観点でした。しかし、今や英語は世界の共通語です。ネイティブスピーカーに比べてノンネイティブスピーカーの数が圧倒的に多い実情を踏まえると、ネイティブと全く同じレベルの英語を話すことより、英語を使って自分の意見を相手に伝えるという機能的な使い方ができる方がよほど重要だとも考えられます。
短期的には子どもより大人の学習者の習得の方が早い
「子どもは語学の天才」などと言われることがありますが、第二言語習得研究が始まってからは、“Older is faster, younger is better.(大人の方が早いが、子どもの方が優れている)”という考え方が一般化しました。英語圏で英語を学ぶ環境にいる場合、長期的に見れば子どもは最終的にネイティブのような言語の習熟度に近付く可能性が高い一方、短期的には発達した認知能力を学習に活かせる大人の方が習得が早いということです。そもそも日本のように英語を外国語として学ぶ環境下で、必ずしもネイティブのようになることではなく、英語を機能的に使いこなすレベルをゴールとするなら、大人になってから学習を始めたとしても全く問題はないでしょう。
大人が取り入れるべき効果的な学習方法とは
Q. 大人だからこそできる効果的な英語の学習方法はありますか?
背景知識を活かし、分野を絞ってインプットをする
大人は自分自身の趣味や仕事で扱っている専門分野においてすでに多くの知識を持っているので、興味がある分野の背景知識を活かしたインプットを行うのが効果的です。
例えば、テニスが好きならテニス選手や試合についてのニュースを英語で聞いたり読んだりして、その分野で使われている英単語の知識を雪だるま式に増やしていく。まずは分野を絞ったインプットによって英語力のコアとなる部分を作り上げ、次はまた違うテーマで学ぶということを繰り返せば、知識の範囲がどんどん広がって全般的な英語力が身につきます。
言語習得はインプットの理解によって起こる
言語習得はインプットを理解することによって起こり、その量が多ければ多いほど習得が促されるというSLA研究の知見があります。背景知識の存在はインプットを理解する過程で非常に重要で、すでに自分が知っている事柄と英語表現を上手くマッチさせることで理解が深まり、習得が進みます。特に趣味などは自分が興味を持っている分野なので、動機づけと関連して学習意欲の向上にもつながりやすいでしょう。
インプットの理解のためには、音声と文字の両方を使った学習も大事です。初めは英語の音声のスピードが速くて聞き取れなくても、同じ内容を文字で読めば充分に時間をかけられるので中身が理解できます。そして今度は何を言っているのかを把握した上でもう一度音声を聞く、という風にリスニングとリーディングを繰り返すのが重要です。このように、音声と文字の両方を取り入れた学習プロセスによってインプットが理解可能なものになっていきます。
インプットとアウトプットのバランスについて
Q. 日本の英語学習者はアウトプットだけでなくインプットも足りていないケースが多いのでしょうか?
理解可能なインプット(comprehensible input)の重要性
「インプット」という言葉は広い意味を持つので誤解されやすいですが、第二言語習得研究の文脈では「理解可能なインプット(comprehensible input)」を指します。全く勉強したことのない外国語をひたすら聞いているだけでは何を言っているのか分からず、適切なインプットにはなりません。英語学習の場合も、聞き取った音と意味を結びつけた上で理解可能なインプットとして処理する必要があります。
日本人の学習者に話を聞くと、単語や文法学習に多くの時間を費やしながらも、理解可能なインプットが足りていないケースが多い。単語学習などはインプットを理解するための知識を身につけるという意味でプラスにはなりますが、言語習得に必要なインプットそのものではないのです。
大量のインプットと少量のアウトプットを組み合わせる
インプットの理解によって言語習得が起こるのであれば、アウトプットはいらないのかという疑問も当然出てきますが、実際にはアウトプットも必要だと言われています。しかし、アウトプットそのものが重要というよりは、インプットの処理レベルを向上させ、質を高める役割としての効用が大きいのです。話すというアウトプットによって自分が英語で言えること・言えないことのギャップに気付けば、今度は英語を聞く際にも文法などの細かなところまで注意を向けるようになります。
人間が言葉を話す際は、自分がすでに知っていることを頭の中で組み立てて口に出しているだけなので、アウトプット自体から何か新しいものが生まれているわけではありません。聞くことなしに話すことはできないですから、たくさんの英語を聞いた上でさらに話す練習をする、という大量のインプットと少量のアウトプットの組み合わせが大事だと考えています。
スパトレで活かされている第二言語習得研究の知見
Q. スパトレ(※)のトレーニングやサービスには第二言語習得研究の知見がどのように反映されていますか?
スパトレのカリキュラムは、言語習得に必要な「インプットを理解する」という認知過程が組み込まれた設計です。意味を考えなくてもできてしまう形だけのトレーニングにならないように、第二言語習得研究の観点からも適切と判断したプログラムを取り入れています。
スパトレには、専門家である私以外にも、最新の研究内容を読むなどして第二言語習得に関する知識を身につけたメンバーが在籍しています。レッスンのモニタリングや講師向けトレーニングも実施しており、教授過程でSLAの原則に沿った内容が保証されているかを注意深く見ています。
スパトレは、第二言語習得論や認知心理学、脳科学の最新研究結果を活用した科学的な英語トレーニングをオンラインで受講できるサービスです。自習の段階でアウトプットに必要な知識をインプットし、一人では難しい発音や理解度確認などを外国人トレーナーとともに実施する学習スタイルで、効率的に英語力を身につけます。
編集後記
今回は、第二言語習得研究の権威である白井教授から、英語学習で成果を出すためのポイントについて伺いました。自分の趣味やすでに多くの知識を持っている分野に絞ってインプットをする、音声と文字の両方を使いながら理解を深めるなどのアドバイスは、これからの英語学習にすぐに活かせるアイデアではないでしょうか。外国語の習得という複雑な現象の解明に迫る第二言語習得論に改めて興味を惹かれるとともに、今後の更なる研究の発展にも期待が高まります。
【参照サイト】スパトレ公式サイト
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English Hub 編集部
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