世界で年間300万人以上の人が英語力証明のために受験するIELTS(International English Language Testing System:アイエルツ)。かつてはイギリスをはじめとする欧州の大学・大学院への進学目的でスコアを取得するテストというイメージがありましたが、近年では米国でもTOEFL同様、多くの大学でIELTSのスコアが受け容れられており、受験者層は広がりを見せています。
日本でも受験者が年々増加し、注目を集めているIELTSですが、TOEICやTOEFLに比べれば出版されている関連書籍の数も多いとは言えず、「限られた時間でどう対策すべきかがわからない」といった声も聞かれます。
そこでEnglish Hubでは学習者が抱きがちなIELTSについての疑問点を洗い出し、語学試験対策に強いことで知られる「バークレーハウス語学センター」を訪ねました。ここからは、IELTS指導の第一人者として、これまでに500名を超える学習者のIELTS対策をサポートしてきたという講師の正木 伶弥先生に、「TOEFLではなくIELTSを受験するメリットは?」「IELTSで効率的にスコアアップを達成するには何をすべき?」といった質問に、まとめてご回答いただきます。
ロンドン大学クイーン・メアリー校卒業。専攻は、ビジネス・マネジメント。豊富な海外生活経験や、資格試験受験経験から日本人が最も苦手とする「スピーキング・ライティング」に特化した独自の学習法「Mメソッド」を開発。大手IT企業のCEOや役員への英語コーチング、IELTSに特化したe-learning教材開発を手掛け、IELTS試験対策本の出版を目指して執筆中。CELTA/IELTS 9.0/英検1級/TOEFL iBT120点満点取得後、IDP公式IELTS教員研修修了(日本第1号)。
目次
1. IELTS(アイエルツ)とは?
IELTSとは、どんな人が受けるテスト?
正木先生:IELTSには「アカデミック・モジュール」「ジェネラル・トレーニング・モジュール」という2つの形式のテストがあり、それぞれ受験者の目的は異なります。
アカデミック・モジュールは海外大学へ進学するためなどの留学目的、ジェネラル・トレーニング・モジュールは英語圏への赴任や転居に伴う就労ビザの取得といった目的でIELTSスコアを必要とする人が主な受験者です。
アカデミック・モジュールとジェネラル・トレーニング・モジュールを受ける人の割合は世界的に見て8:2程度と言われています。日本ではその差がより際立ち、アカデミック・モジュールの受験者が大多数を占めるようです。
TOEFLと比較してIELTS受験のメリットとは?
正木先生:前提として、TOEFLとIELTSの難易度に大きな差はありません。同じ人が両方のテストを受けた場合、どちらかが大きく有利だったという話はあまり聞きません。どちらを受験するべきかは究極的にはテスト形式の好みと言えます。
IELTSは「コミュニケーション能力を問う」ことを重視しているテストであり、スピーキングテストを試験官と1対1の自然な対面式で受けられる点が利点です。TOEFLのスピーキングはPCに向かって一人で話すスタイルなので、抵抗がある人もいるでしょう。
また、英語4技能をきっちり分けて勉強してきた日本の学習者には、リスニング、リーディング、スピーキング、ライティングがきれいに分かれたIELTSの形式に、なじみがあるのではないでしょうか。TOEFLではたとえば音声を聴き、それについての記事を読み、そのあとに意見を書くような問題が出題されます。ライティングの試験でありながらリスニングやリーディングが含まれるという形式に、戸惑う人も多いようです。
TOEFLのアドバンテージとしては、まず全国で広く受験できる点が挙げられます。IELTSについては、受験地が大きな都市に集中しているため、近隣での受験が難しい地方もあるでしょう。
またライティングについては、先程お話ししたような複合的な問題が特に苦手でなければ、TOEFLの方がスコアは取りやすいと言われています。ただし、TOEFLの方が時間的プレッシャーの中での情報処理能力を求められるので、その点も向き不向きの分かれ目です。
海外大学への入学に必要なIELTSスコアは大体どれぐらい?
正木先生:大学や学部によって必要なスコアは変わってきますが、一般的な目安としては、交換留学で5.0~5.5、学部留学で5.5~6.0、大学院で6.0~7.0程度です。
学部別では、文学や言語学に比べると、ビジネスや経済に関する学部で求められるスコアは高い傾向があるようです。
バークレーハウスでIELTSに向けて学ぶ受講生は、現状5.0程度のスコアを6.0以上に引き上げたいという方が多いです。
IELTSスコアを他の英語力判定テストのスコアに換算すると?
正木先生:IELTSのスコアとTOEICスコアは性質が異なり、あまりうまく換算できませんが、英検であればかなり正確に換算できます。
英検2級から準1級がだいたいIELTS5.5~6.0程度、英検1級がIELTSの7.0程度と考えてよいと思います。
2019年に導入されたComputer-delivered IELTS(※)のメリットとは?
※Computer-delivered IELTS(以下、CDI):コンピューターで受験するIELTS。リスニング、リーディング、ライティングのテストについてコンピューターを使って実施。
正木先生:CDIは、結果が返ってくるのが早いというメリットがあります。ペーパー形式なら大抵2週間待たなければならないところ、CDIでは1週間で結果が出ます。
さらに、CDIではリスニングテストに、きれいに聞こえるクオリティの高いヘッドホンが使用できます。また、ライティングではコピー&ペーストやカット&ペーストの機能ができることや、ワード数がリアルタイムで自動的にカウントされることが大きなアドバンテージです。
一方で、CDIと比べた場合のペーパー形式のIELTSのアドバンテージとしては、テスト中に余白などにメモを取る作業が楽である点や、スクリーン上に比べて視覚的に設問の全体像や情報量が把握しやすいという点が挙げられます。また、手書きの方がなじみがあるという理由でペーパーテストを好む受験者もいます。
IELTS対策を始める前に知っておきたいこと
IELTSのスコアを0.5アップさせるには、どれぐらいの期間と勉強量が必要?
正木先生:もちろん個人差がありますが、(技能別ではなく)オーバーオールでスコアを確実に0.5上げたい方には、当校の目安ではだいたい20時間分のレッスン、1.0なら40時間分のレッスンを受講してもらいます。
ただし、これまでほとんどIELTSを受けたことがない人の場合、形式を知って慣れるだけで急にスコアが伸びることがあります。逆に、すでに十分な対策をしてきた人のスコアをさらに上げるのは大変です。もともとスコアが7.0以上であれば、5.0だったスコアを上げるより難しいはずです。
ライティング、スピーキングについては、練習相手がいるかどうかといった学習環境の違いによっても上達速度は変わってきます。
IELTSはどれぐらいの間隔で受けるべき?おすすめの受験ペースは?
正木先生:おすすめの受け方は、2週連続で受けて3ヶ月後にまた2回受けるという受験パターンです。これは、最初は緊張するためか、テストに慣れた2週目の方が高いスコアの出る受験者が多いからです。毎日受けたり毎週のように受ける人もいますが、体力も消耗するので、個人的にはあまりおすすめしません。
3. スキル別・IELTS対策におすすめの勉強法
IELTS4技能別テストの中で日本人のスコアが伸び悩みがちなのは?
正木先生:4技能の中では、やはり文章を自分で作り出さなければならないスピーキングとライティングを苦手とする学習者が多いようです。
IELTSのスピーキング、ライティングでは自然な英語力を見ているので、ひな形を暗記して臨んでも良いスコアは得られません。完璧に準備してきても、試験官に「覚えてきた」ことが伝わると、スコアに換算すらしてくれないのです。日本では、スピーキングテスト直前まで懸命に自作のフレーズを暗記している受験者が多いのですが、たどたどしい英語になめらかなスピーチが部分的に加わったりすると、試験官にはすぐに文章を暗記してきたことがわかってしまいます。
間違えないことがとにかく大事だと考えて、少しでも自信がないと言いたいことがあっても敢えて挑戦しない人が多いようです。実際は、完璧で間違いのない簡単な文章より、誤りがあっても難度の高い構造の文章に挑戦した方が評価されます。
スピーキングテストで試験官は、質問をするだけで回答の仕方をリードしてはくれず、自分でイニシアチブをとって技能を披露する機会を探らなければなりません。日本ではこの点に慣れていない受験者が多いと感じます。自信が無くてもやってみる意識を持ち、たくさん話すことが大切です。
多くの学習者が見落としがちなポイントや強化すべきスキルとは?
正木先生:日本の学習者は文法については高1までに習ったことがしっかり身に付いていれば充分。それ以上のことに時間を割く必要はありません。語彙も高校生のときに覚えた単語までで大丈夫です。
先ほどもお話しした通り、間違えを恐れて文が短くなってしまう人が多いようですが、とにかくたくさん話すことが大切です。ライティングならミニマムのワード数に達しないとスコアには大きく影響します。
また、「結論を最初に伝える」「ひとつの段落には、ひとつのアイデア(言いたいこと)しか入れない」といったストラクチャーのルールやパターンを知っておくことが非常に大切です。
独学では対策しづらいスピーキングテスト、自習時間にもできる対策は?
正木先生:スピーキングの練習をするときは、「必ず」録音し、あとから自分で聞いてみてください。
YouTubeで好きな有名人の字幕付きインタビュー動画を探し、視聴するのもおすすめです。その英語を真似てみて、それを録音して、あとから比較します。IELTSのスピーキングテストではフォーマルな英語ではなく、自然な普段通りの英語を求められるので、こういった練習が向いています。
ただし、予想外の質問に対処する力は独学で鍛えるのは難しいので、人と対面でやりとりしながら養う必要があります。最近のIELTSでは予想できないような変わったトピックが出題されることがあります。自分でトピックを選べるのではなく、相手に主導権がある状況での会話練習も欠かせません。
リーディングテスト対策にはどんな教材や英文が最適?
正木先生:初級者なら、まずは基礎文法と単語を学校英語のテキストで復習することが大切です。
中級者は、IELTSのリーディング教材を解きましょう。難しければ、時間無制限で辞書を使って読めるだけ読んでいきます。
IELTSスコア7.0以上の上級者なら、教材ではなく「Newsweek」「The Economist」といった雑誌や、本が楽しめる段階です。The EconomistはIELTSの問題に使われることが多いようです。本は、ライティングテスト対策にも活かせるものを選ぶとよいでしょう。その意味で最もおすすめのジャンルは、データを扱い、説得力のある形で主張を展開するものが多い「経済史(Economic History)」です。
おすすめのIELTS対策教材はありますか?
正木先生:IELTSでは過去問というものが出版されていませんが、市販されている中では統括団体であるCambridgeの「IELTS Practice Tests」シリーズが本番のテストに一番近く、おすすめです。
4. IELTSをスクールで学ぶなら、コース選びのポイントは?
IELTS対策をする上で、スクールでなければ学べないこととは?
正木先生:語学を学ぶ上で、自分の問題点や誤りを把握するのは難しいものですが、スクールでは講師から細かく指摘を受けることができます。これは4技能すべてにおいて言えることですが、簡単に〇や×の付けられないスピーキング、ライティングではその点が顕著です。
ネイティブの友だちと話す機会があったとしても、文法の誤りを細かく指摘してはくれません。たとえば時制を間違えても、日本人の英語に慣れている人なら言いたいことを理解してくれるでしょう。でもテストでは、一つひとつが見られています。
また、自分ひとりでは学習のモチベーションが維持できないという理由でスクーリングを選択する方も多いようです。
松本氏:スクールでは学習スケジュールや課題の管理から、効率的な勉強方法の指導までを受けることができます。スクールに通い始めて、それまで独学で進めていた学習法の誤りに気付いたという方は、少なくありません。
IELTS対策コースを選ぶ際に、チェックすべきポイントは?
正木先生:IELTS対策コースを開設するスクールには、ネイティブ講師が教える教室、日本人講師が教える教室、ネイティブ講師と日本人講師がどちらも在籍する教室があります。
初級者が短期で効率よくスコアアップするには、日本語でわからない箇所を質問したり、解説を受けたりできる環境が大切です。日本人講師がいれば、概念的な説明や複雑な文法解説は日本語で受けることができます。逆に上級者であれば、日本語で説明を受ける必要はないので、ネイティブ講師からすべてを英語で教わることも可能です。また上級者に限らず、もし時間をかけてじっくり長期的に学ぶ余裕があるのであれば、ネイティブ講師からすべて英語で説明を受けながら学ぶのも良いと思います。
スクール内にIELTSのスコアの付け方を熟知している講師がいるかどうかも、知っておきたいポイントです。その点は、IELTS運営団体のBritish Council、IDP、Cambridgeのいずれかでトレーニングを受けた認定講師や、IELTS試験官経験者がいるかどうかをチェックすることで見極められます。
セミナーや短期集中形式のレッスンでもスコアアップは可能?
正木先生:可能です。
バークレーハウスでは、一番短期のもので合計8時間で0.5~1.0上げることを目指すレッスンを開講しています。正直言って、これだけの短期間で根本的な英語力を上げるのは不可能です。でもスコアを0.5上げるというのは別の話です。問題形式によって失点していたところをなくす、スピーキングやライティングで見られているところを確実にする、といった取り組みで0.5、うまくいけば1.0のアップが可能です。
ただし、そういったコツをつかむだけで戦えるテストではないので、それだけでスコアが3.0上がるということはないと思います。
IELTSを学べる他のスクールと比較したバークレーハウスの強みとは?
松本氏:バークレーハウスのIELTSコースのほとんどが、プライベートレッスンです。そのため、個人に合わせてレッスンを適宜カスタマイズできるのが大きな特徴です。受講生によって、弱点のあるセクションは異なるものです。個人レッスンなら、弱い技能を重点的に強化できます。教授経験豊富な講師が、受講生のレベルや状況に合わせて学習プランをアレンジします。
また、たとえば文法解説は日本人講師、スピーキングテスト対策はネイティブ講師というように、状況に合わせて最適な講師からレッスンを受けられます。
正木先生:短期コースについては、ここまで短期でIELTS対策ができるスクールは他にないのではないでしょうか?目前に迫る期日までにスコアを上げる必要がある場合、他にチョイスがないという人もいるでしょう。(採点時に)何が見られているのかを正確に把握しているスクールでなければ、ここまで短時間で成果を上げることはできません。その正確さが売りであり、他校には負けない自信があります。
5. IELTS対策に取り組む学習者へのメッセージ
最後に正木先生より、IELTS対策に取り組む学習者へのメッセージをいただきました!
正木先生:IELTSのスコアが大きく伸びるということは、本当に英語力が伸びているということです。そして英語力だけではなく、たとえばロジカルシンキング、情報処理、頭の体力など、色々な力が伸びているはずです。対策はつらいかもしれませんが、IELTSスコアのためだけにがんばっているのではなく、これを越えればもっと広い世界が見られるのだと考え、モチベーションを維持してがんばってください!
6. インタビュー後記
今回は、IELTS受験を検討中の方、IELTSスコアアップに向けて勉強中の方が抱きがちな疑問点に、IELTS指導経験10年以上、IDP公式IELTS教員の正木伶弥先生が一つひとつ丁寧に回答してくださいました。
正木先生のお話から、限られた時間でターゲットスコア獲得を目指すには、まず自分自身の弱点を把握し、IELTSの性質を知った上で、何に注力すべきかを見定めて対策に挑むことが大切だとわかります。
自分自身でできる取り組みもたくさんある一方で、プロの視点から学習者の弱点を指摘し、スコア向上への最短距離を示してくれるスクールへ通うアドバンテージも見逃せません。
この記事で自分らしいIELTSとの向き合い方が見つかったら、受験に向けてできることから始めてみませんか?
English Hub 編集部
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