商談先の会社や、待ち合わせのレストランなど、行ったことのない場所を訪れるとき、私たちの多くは「目的地までのルート」や「交通手段」を事前に調べてから出発します。しかし、英語学習となるとどうでしょうか?「英語を話せるようになりたい」という、大まかな目標(=目的地)はあっても、そこに到達するために「どのルートで」「どのような手段をとるのか」まで明確にできているケースは、決して多くはないでしょう。
「英語ができるようになりたいけれど、何から手をつければよいか分からない。」「英会話を始めてみたけれど、ネイティブの先生の言葉が聞き取れず、発言の機会も思うように持てない。レッスン時間を有効に使えていない気がする。」そんな英語学習者の方にぜひ手に取ってほしい一冊が、今回紹介する「マンガでわかる最速最短!英語学習マップ」です。
この本を記したのは、英語のパーソナルジム「ENGLISH COMPANY(イングリッシュカンパニー)」。2015年のサービス開始以来、受講者のTOEICスコアをわずか3ヶ月で400点アップさせるなど、その実績が話題を呼び、現在受講待ちが600名超えと、まさに「入りたくても入れない」驚異的な人気を誇ります。(同書籍の著者である田畑翔子さんへのインタビューはこちらをご覧ください。)
本書では、ENGLISH COMPANYでの指導の軸となる「第二言語習得研究」の知見を基に、「最短ルートで」「確実に」英語を身につけるための理論とともに、具体的かつ実践的な学習メソッドが紹介されています。特に、忙しい日々の中で学習時間を捻出し、成果を出すことが求められるビジネスパーソンにとっては、必読の内容と言えるでしょう。
英語力のフェーズ別!科学的に正しい勉強法
本書から得られる最大の収穫は、第二言語習得研究の知見に基づいた「自分に合った勉強法」が明確になることです。「自分がいまどのような状態で、なにをしなければならないのか」を知ることが、英語学習をはじめるにあたって大切であり、そうでなければ適切な学習法を用いることはできないと、ENGLISH COMPANYを運営する株式会社恵学社代表・岡健作氏は本書の冒頭で強く述べています。
「自分に合った勉強法」を選ぶ基準
英語の必要性がますます身近なものとして叫ばれる今日、書店やインターネット上にはさまざまな勉強法があふれています。しかし、それらの膨大な情報の中から自分にとって適切な勉強法を選ぶ「基準」というものは、ほとんど示されていません。そのため、多くの学習者が「なんとなく」自分に合いそうだと感じる勉強法を選んでしまい、その結果、学習が長続きしない、もしくは思うような結果が出ずに挫折をしてしまうという問題が本書では指摘されています。
「著名人のおすすめ勉強法」は効果的?
たとえば、著名な人物の勉強法を紹介した書籍などは、多くの学習者が興味を惹かれやすく、つい手に取りたくなるものです。しかし本書では、誰にでも無条件であてはまる学習メソッドというものはないのだということが、はっきりと述べられています。なぜなら、ある人にとっては正しかった方法論も、「自分の学習フェーズ」に合っていなければ効果がないからです。人によって目標も違えば、現在地(=現状の英語力)も違う中で、「特定の誰か」が成功しただけである個人的な学習法に頼るのは正しいアプローチではないということが、体系的な学問である第二言語習得研究との比較を用いて明らかにされています。
自分の現在地(=英語力)と目的地(=目指す英語力)を把握する大切さ
誰にでも効果的な勉強法が無いとすると、「自分に合った勉強法」とはいったい何なのでしょうか?本書によるとそれは、「自分の課題」を解決できる方法です。これは、非常にシンプルでありながら、意外と多くの方が見落としてしまうポイントではないでしょうか。本書では、学習者の多くが「最終的に目指す英語力」はイメージするものの、現在地の把握が疎かになってしまっている点が指摘されています。
「英語を話せるようになるには、とにかくアウトプット」は正しい?
たとえば「英語を話せるようになりたい」と思ったとき、まだ基礎力がない状態でも、いきなり英会話(=アウトプット)からスタートしてしまう学習者は少なくありません。しかし、それは「現在地」が考慮できていない、あまりにも非効率な方法だと本書は述べています。その根拠として、言語習得は「インプット」をするときに起こるということが、第二言語習得研究で既に明らかになっているという事実が挙げられています。この他にも「英語は早いうちから学習するべきか?」や、「ネイティブに習った方が良いか?」といった、多くの学習者が抱く疑問についても、本書では答えが出されています。
このように、世間でよく耳にする学習方法や疑問に対して、言語習得の科学である「第二言語習得研究」の知見を根拠にした説明がなされているため、一つひとつの解答が非常に明快です。そのため、これまでに「人によって言うこと(おすすめの勉強法)が違うけれど、いったいどれが正しいの?」と悩んだ経験がある方も、納得しながら読みすすめられます。英会話を続けているものの、英語力の伸びを今ひとつ実感できないという方は、一度立ち止まって自分の現在地を確認してみることの必要性に気づかされるでしょう。
「自分の課題」とその解決策
「自分の現在地」と、そこにとどまっている理由である課題を、学習者自身で判断するのは容易ではありません。本書が非常に優れている点は、英語学習をする上での姿勢や一般的な理論の紹介にとどまらず、学習者の英語力・フェーズごとの、詳細かつ具体的な学習メソッドにまで踏み込んで提示している点です。
本書を締めくくるチャプター3『 [フェーズ別]最速最短学習法 ――「英語力マップ」でわかるあなたのレベルと取り組むべきこと』では、英語学習者を9段階ものフェーズに細かく分類し、それぞれのフェーズの英語力とその課題、次のフェーズへと進むために「いまフォーカスすべきこと」が明確に示されています。自分がやるべき具体的な勉強法を今すぐ知りたい!という方は、まずこのチャプターから目を通すのも良いでしょう。
事例から見る正しい英語学習法:リスニング編
悩み:「読めば簡単な英文が、リスニングになると聞き取れない」
本書で挙げられている、英語力・フェーズ別の課題とそれに対するアプローチ方法の一例をみてみましょう。たとえば、英文を「読めばわかる」けれど、同じ内容をリスニングでは聞き取ることができないという経験はありませんか?その状態は、本書では「フェーズ2」に分類されています。
「リスニング力を伸ばすには、とにかくたくさん聞く」は正しい?
リスニング力をつけるためには、「英語の音に慣れることが大事なので、とにかくたくさん英語を聞く」という勉強法がしばしば聞かれます。しかし、これは日本のような「EFL環境」では効率的ではないということが、本書を読むと理解できます。
「EFL」とは、English as a Foreign Languageの頭文字をとったもので、EFL環境とは、英語を母語としない人が、日本のような非英語圏で学習する環境を指します。 たしかに、英語圏の国で長期留学をするような学習環境(ESL環境)であれば、毎日大量の英語に自然と触れることも可能です。しかし、EFL環境では、日々の時間を英語学習だけに費やすことができるという方は限られているため、「毎日大量の英語を聞き続ける」というのは、現実的ではありません。このように、学習者が置かれる環境によっても、適切なアプローチは異なるということが本書では示されています。
科学的な対策:「音声変化のルールを知り、音声知覚を自動化する」
ひたすらに英語を聞くという方法の代わりに本書で提示されているのは、ネイティブが英語を話す時に起こる「音声変化のルール」を学ぶというものです。一般的に、ネイティブの話す英語は速くて聞き取れないと思われがちですが、実は話す速度だけが問題ではなく、私たちの多くが学校で習わなかった「音声変化」が大きく影響しているということが、本書を読むと分かります。
学校では習わなかった、英語の「音声変化」とは?
たとえば、put it onをネイティブが発音すると、音声変化の影響を受け、プリロンのように聞こえます。このような音声変化を知らないと、熟語自体の意味は知っていても、「持っている知識」と「英語の音」とが、リスニング時に結びつかないという事態が起こります。この音声変化のルールを体系的に学ぶことで、リスニング力は大幅に改善されると本書では述べられています。
さらに、多くの学習者にとって嬉しいことは、この音声変化の主なものはたった5つであるという事実でしょう。本書では「連結」「同化」「脱落」「弱形」「ら行化」という5つの音声変化すべてについて、いつ、どういったルールに基づき起こるのかということが明確に示されています。また、実際に音を確認できるアプリも紹介されているため、ENGLISH COMPANYのトレーニングでも指導されているこれらの音声変化について学ぶことができます。文法や語彙などの知識が身についている人ほど、既に持っている知識と音声とを結びつけることができるため、音声変化を知ることによるリスニング力アップの効果をより感じられるでしょう。TOEICテストなどで「リーディングパート以上に、とにかくリスニングが苦手」という方にとっては、特に必見です。
まとめ
本書は、壁にぶつかり悩める英語学習者にとって、信頼できる医師が症状に合わせた効く薬(=学習方法)を処方してくれるような一冊です。本書で示されている学習方法は、どれも第二言語習得研究の知見をベースとした科学的アプローチであるため、「自分のやり方は合っているのだろうか」といった不安や迷いを持つことなく、学習に取り組むことができます。まさに、「第二言語習得研究」の知識が、学習者を現在地から目的地へと導く、正確な「マップ」の役割を果たしてくれることを実感できるでしょう。実生活では、地図を読むのが好きな人と、感覚だけを頼りに道を進むのが好きな人は分かれるものですが、今英語で壁を感じている方は、ぜひ一度、地図(=第二言語習得研究の知見)を手にして、進むべき道筋を確認してみてはいかがでしょうか。
また、「第二言語習得研究」という言葉を聞くと、一見難しそうな印象を受けるかもしれませんが、本書ではさまざまなエピソードがマンガで紹介されているので、肩ひじを張らずに気軽に読むことができます。実際に英語を勉強している学習者はもちろん、英語を教える立場の方にとっても、第二言語習得研究の知見を分かりやすく学ぶことができる、手に取る価値のある一冊です。
【書籍】マンガでわかる最速最短!英語学習マップ
【参考サイト】ENGLISH COMPANY(イングリッシュカンパニー)
English Hub 編集部
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