【映画に学ぶ英会話 5】2018年話題作から使える英語表現をセレクト<スピルバーグ監督編>

2018年もそろそろ終盤ですが、今年も様々な話題作が公開されました。『ブラック・パンサー』や『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』といったスーパーヒーロー映画が世界的大ヒットを記録した一方で、ミュージカルの『マンマ・ミーア2』や女性キャスト中心の『オーシャンズ8』のような映画が注目を集めたのも記憶に新しいでしょう。

今回は2018年に話題を集めた作品群のうち、名監督スティーブン・スピルバーグによる『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』と『レディ・プレーヤー1』の2作にフォーカスし、ぜひ知っておきたい英語表現をご紹介したいと思います。かつて『E.T.』や『インディ・ジョーンズ』など大ヒットを連発したスピルバーグですが、その創作力は衰えを見せていません。これを機にハリウッドを代表するヒットメーカーの最新作2つを振り返ってみましょう。

1.『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(The Post):「言いにくいことを切り出す」方法

本作は70年代のアメリカを舞台に、ヴェトナム戦争の真実を報道しようとするジャーナリストたちの奮闘を、実話に基づいて描いた社会派映画です。原題の “The Post” は、ニューヨークタイムズ紙と並んでアメリカを代表する全国紙であるワシントン・ポスト紙(以下「ポスト紙」)を指します。主人公は、ポスト紙の女性経営者キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)と、彼女の部下で親友でもある記者のベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)の二人です。リークされた戦争の実態を報道しようとするブラッドリーと、自社の経営危機と戦いつつ理念を貫こうとするグラハムの苦悩が軸となって話が展開します。

当時のアメリカ政府はべトナムでの実態を国民から隠蔽していたため、それを報道することは政治的に危険な行為でした。ジャーナリストとしての義務に忠実であろうとするブラッドリーも、それがポスト紙の存亡に関わることを十分に認識しています。それゆえ彼は、真実に関わる危険な報道をグラハムに提案をする際、次のような「回りくどい」話し方で切り出します。

  • ブラッドリー: So, can I ask a hypothetical question?
    (とりあえず「仮定的な質問」をしてもいいかな?)
  • グラハム:Oh dear, I don’t like hypothetical questions!
    (なんてこと、「仮定的な質問」はきらいなのよ!)
  • ブラッドリー:Well, I don’t think you’re gonna like the real one, either.
    (「本当の質問」が気にいるとも思えないな)

まず、“hypothetical” (仮定的な、仮説的な)という言葉を押さえておきましょう。“hypothetical”の名詞形は “hypothesis” で、まだ確証されていない「仮説」を意味します。したがって “hypothetical question” は、「とりあえず仮説を立てて聞く質問」と解釈できます。ここでブラッドリーが聞きたいのは「ポスト紙で真実を報道することができるか」というセンシティブなことなのですが、それを直接、尋ねるのではなく「仮定として、できるだろうか」という言い回しをしているわけです。

以上に見られるように、 “hypothetical” という言葉は、「ストレートに聞いては気まずい」質問を聞く際に便利な表現です。次の例を見てください。

  • “This is just a hypothetical question, but do you think he’s telling the truth?”
    (とりあえず聞いてみたいだけなのだけど、彼が真実を言っていると思う?)

また、副詞形の “hypothetically” を用いて、次のような言い回しもできるでしょう。

  • “Hypothetically speaking, what would you do if you failed the exam?”
    (「仮に」って話だけど、試験に落ちたらどうするの?)

さらに、「実際にはありそうにない」ことについてコメントする際にも役に立ちます。

  • A : “Is it possible to win lots of money in Las Vegas?”
    (ラスベガスで大儲けすることは可能かな)
  • B : “Hypothetically, yes. But don’t dream of it.”
    (仮説としてはできるだろうけど、そんな夢は見ない方がいいわよ)

以上の例から分かるように、”hypothesis” という堅い響きの言葉でも、文脈次第では発話にニュアンスをつけるためにとても便利です。ネイティブスピーカーから見れば、日本人の英語の質問は「直接的」すぎることが多いようです。”hypothetical” という言葉を活用することで、そう感じさせない問いかけが可能になります。「聞きにくいこと」または「ありそうもないこと」について話すときには、ぜひここでご紹介したフレーズを使ってみてください。

2.『レディ・プレーヤー1』 (Ready Player One):効果的なプレゼン方法

硬派なドラマであった『ペンタゴン・ペーパーズ』と比べると、少し遅れて公開されたこちらの作品は、荒廃した未来社会を舞台に「オアシス (OASIS)」という仮想現実のなかで奮闘するティーンたちを描いた娯楽作品です。「オアシス」を独占しようとする邪悪な大企業と、それを阻止しようとするゲーマーの若者たちの戦いが、目を見張るようなCGIとともに展開されます。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ジュラシック・パーク』など、過去の名作へのオマージュがふんだんに盛り込まれ、スピルバーグが往年のエンターテイメント路線に回帰した作品とも言えるでしょう。

ここでは、主人公のウェィド(タイ・シェリダン)が冒頭でオアシスについて紹介するナレーションにフォーカスしてみましょう。

“This is the OASIS. A whole virtual universe. You can do anything, be anyone, without going anywhere at all.”
(これがオアシスだ。すべてが仮想の世界。どこにも行かなくたって、何でもできる、誰にでもなれる)

このナレーションでは、観客がオアシスについて知っておかねばならないことが、わずか3文で簡潔に表現されています。日本では、英語で説得力のあるトークをしたいとき、「難しい言葉を使い、but や in addition などでつなぎつつ、長い文で」語るケースが多いようです。このため、日本人の英語プレゼンテーションは冗長になりがちです。

しかし、実際にビジネスなどで英語が使われる現場では、多くの場合「シンプルで短い」表現が好まれる傾向にあります。先ほどのナレーションが「日本人的」な英語ではどうなるかを見てみましょう。その上で、オリジナルと比較してみます。

  • “The world you are seeing is what is called OASIS. OASIS is a universe that is entirely virtual, and nothing is real in it. In OASIS, people can do anything, such as driving a sports car, and they can be anyone, such as becoming a hero. In addition, they don’t have to go anywhere outside the OASIS. On the contrary, they can do everything there.”

いかがでしょうか。両者とも言っていることはほぼ同じですが、後者の「長々とした」説明を聞くよりも、前者の簡潔な表現のほうが「言いたいこと」がはるかに効率的に伝わることがわかると思います。例えば日本人の英語で多用されがちな “people” の代わりに “you” を使うことで、メッセージがよりダイレクトに伝わってきます。これはプレゼンをする際などに重要なテクニックです。「余計なことを削ぎ落とすことで、メッセージが力強くなる」という英語のロジックを押さえておきましょう。

ここで、たとえば「新車の紹介」なら、どのように話を始めればいいのかを考えてみましょう。

  • “This is our new model. It’s faster. It’s sleeker. It’s more fuel-efficient. You wouldn’t need other cars anymore.”
    (これが弊社の新型モデルです。より速く、より端正に、より燃費良く。もう他の車は必要ありません。)

比較級 (faster, sleeker, more fuel-efficient) を用いていますが、「比較対象」が旧型モデルであることは明らかなので、 “faster than the old model” などと付け加える必要はないわけです。

もうひとつのポイントとして、英語のプレゼンに慣れないうちは、先ほどの「日本人的」ナレーションのように、「テクニカルな情報を散在させてしまう」ケースが多いようです。しかし英語では、「概略→細部」という順序に沿って話を進めることが基本です。まずは「最重要の事柄」を述べ、それから必要に応じて細部に入るようにしましょう。

まとめ

今回の記事では、現代のハリウッドでもっとも影響力のあるスティーブン・スピルバーグの最新作2本を参照しつつ、「言いにくいことを切り出す」テクニック、そして「効果的なプレゼン方法」について考えてみました。いずれの場合でも、ニュアンスのある英語を話すために特別なテクニックや、ややこしい話し方をする必要がないことがお分かりいただけたかと思います。こういったポイントを押さえておくことで、「日本人的な英語」から脱却することができるでしょう。生の英語がどのように話されているかに注意を払い、簡潔かつ説得力のある話し方を身につけましょう。

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茂呂  宗仁

茨城県生まれ、東京在住。幼少期より洋画に親しみ、英語へのあこがれを抱くようになる。大学・大学院では英文学を専攻し、またメディア理論や応用言語学も勉強。学部時代より英米で論文発表も経験。留学経験なくして英検1級、TOEIC970、TOEFL109を取得。現在は英会話講師兼ライター・編集者として活動中。

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