【映画に学ぶ英会話 4】アカデミー賞受賞作に学ぶ英語表現 『ゴッドファーザー3部作』より

米アカデミー賞は、映画界において最も栄誉あるイベントの一つです。受賞作品はメディアで大きく取り上げられ、世界的なヒットにつながることもしばしばです。近年では『英国王のスピーチ』や『ラ・ラ・ランド』、『シェイプ・オブ・ウォーター』といったユニークな作品が複数部門での受賞を果たし、多くの国々で人気を博しました。

今回は、アカデミー賞を複数部門で受賞した作品の中でもとりわけ高名な『ゴッドファーザー3部作』にフォーカスし、英語圏では誰もが知るような名セリフを選りすぐって紹介します。日本でも絶大な人気を誇るシリーズで、3部作すべてがオスカー候補または受賞となった初めてのケースでもあります(3作目はノミネートのみで、受賞には至りませんでした)。マーロン・ブランドやアル・パチーノといった名優が数々の印象的な演技を残し、ネイティブの間にも「作品は見ていないけれどセリフならばよく知っている」という人が数多くいます。また、作中で使われるニーノ・ロータ作曲の『愛のテーマ』も有名です。これを機に、ぜひ世界的に有名なセリフをマスターしてみましょう。

第1作『ゴッドファーザー(The Godfather)』(1972)

【アカデミー賞 受賞部門】
作品賞・主演男優賞・脚色賞

『ゴッドファーザー』は、まずは作家マリオ・プーゾの小説として1969年に発行され、大ベストセラーになりました。それをフランシス・コッポラ監督が映像化したのが第1作目の映画です。1940年代のニューヨークを舞台に、イタリア系犯罪組織の首領(godfather)であるドン・ヴィトー・コルレオーネにマーロン・ブランドが扮し、また息子のマイケルを若きアル・パチーノが演じました。ブランドが主演男優賞を受賞したものの、ハリウッドにおける人種差別への抗議として辞退したことも有名な逸話です。

ここで、ゴッドファーザー3部作でもっともよく知られているセリフに触れてみましょう。


(※Cinemaxの過去の放映予告より)

“I’m gonna make him an offer he can’t refuse.”
(彼が断ることのできないオファーをしてみせる)

これは、映画出演を断られ、キャリアに行き詰まった知人の歌手にドンが放つセリフです(ここでの「彼」は、その歌手を鼻であしらった映画プロデューサーを指します)。この会話をもし映画プロデューサーの彼が聞いて入れば、ドンからの断ることのできない”offer”とは何を意味するのかを考え、身が縮む思いでしょう。ドン・コルレオーネの大胆で豪腕な性格が凝縮されたセリフであり、ネイティブならば一度は耳にしたことがあるフレーズなのではないでしょうか。

とはいえ、本来”offer”という言葉はもちろん「脅迫」ではなく、「申し出」を意味するので、このセリフを日常生活で使うにあたっては、次のようにアレンジすれば「can’t refuse」のニュアンスも変わってきます。以下、「勉強嫌いな子供の両親」AとBの会話です。

  • A : The test is coming up, but our daughter doesn’t study at all!
    (もうすぐテストなのに、あの子は全然勉強しないのよ!)
  • B: Okay, let’s make her an offer she can’t refuse.
    (わかった、じゃああの子が断れないような取引をもちかけてみよう)
  • A: What are we gonna do?
    (どうするの?)
  • B: How about telling her we’ll take her to Disneyland if she studies hard?
    (頑張って勉強したらディズニーランドに連れてってあげると言うのはどうかな?)

このように、実はこの表現は「扱いにくい相手に対して説得を試みる」際にとても便利です。取引先を説得するにあたって “We’re gonna make them an offer they can’t refuse.(ここではthey = 取引先)” と表現すれば、ビジネスシーンでも活用できます。

また、否定形を用いれば、次のようなバリエーションも考えられます。

  • “I want to take her out, but I can’t come up with an offer she can’t refuse!”
    (彼女をデートに誘いたいんだけれども、彼女がNOと言えないような誘い方が考えつかないよ)
  • “We can’t afford to make our customers any offer they can’t refuse. We are on a tight budget.”
    (私たちの顧客が飛びつくようなオファーをする余裕はありません。予算が厳しいのです)

以上から分かるように、ビジネスなどの真面目なシーンでも、プライベートな会話で冗談としてでも使える表現です。ぜひ暗記して使いこなしてみましょう。

第2作『ゴッドファーザー PART II (The Godfather Part II)』(1974)

【受賞部門】
作品賞・監督賞・助演男優賞・脚色賞・作曲賞・美術賞

『PART II』は、1作目の記録的ヒットを受けて制作されました。「オリジナルより優れている」とも言われている、稀に見るクオリティの作品です。前作で死亡した父ヴィトーのビジネスを息子マイケルが継ぐというプロットですが、もともとは純粋な若者であった彼が犯罪社会のなかで精神を蝕まれていく悲劇でもあり、多くの映画ファンを心酔させました。また、いまや伝説的俳優のロバート・デ・ニーロが若き日のヴィトーを演じ、初めてオスカーを受賞した作品でもあります。

この作品中のマイケルのセリフの中でも広く知られているのが、次の言葉です。これは、父ヴィトーの教えとしてマイケルが述べたものです。

“Keep your friends close, but your enemies closer.”
(友人たちとは親しくしろ、しかし敵とはもっと親密になれ)

マイケルの狡猾な知性がよく表れているセリフと言えるでしょう。このセリフを直接、引用できるようなシチュエーションは考えにくいでしょう。ただし、セリフの後半を変更すれば、以下のようなバージョンが考えられます。

  • “Keep your friends close, but your wallet closer.”
    (友人たちとは親しく、しかし自分の財布とはもっと親密に=安易にお金を貸してはいけない)
  • “Keep your friends close, but your own life closer.”
    (友人たちと親しくするのもいいけれど、君自身の生活を優先すべきだよ)

こんな風に、「友達との社交生活は大切だけれども、〜はもっと大切」とアドバイスするようなときに便利な表現型であることがわかると思います。誰かに助言する機会があれば、このセリフを応用してみてはいかがでしょうか。

第3作『ゴッドファーザー PART III (The Godfather Part III) 』(1990)

3作目となり、老境にさしかかったマイケルの苦悩を描くのが『PART III』です。批評家からは高く評価され、アカデミー賞でも作品賞、監督賞を含む7部門にノミネートされましたが、惜しくも受賞をのがしてしまった作品です。コッポラ監督の娘で、現在は『ロスト・イン・トランスレーション』や『マリー・アントワネット』などで監督として高い評価を得ているソフィア・コッポラが、マイケルの娘メアリー・コルレオーネ役として映画初出演をしたことでも話題となった作品です。

本作では、ドンとしての地位から引退を考えているマイケルが、甥であるヴィンセント(アンディ・ガルシア)を正式な後継者として認め、様々なアドバイスを与えます。その中でもよく知られているのが以下のセリフです。

“Never hate your enemies. It affects your judgment.”
(敵のことを嫌ってはいけない。お前の判断力がくもってしまう。)

これは、マイケルの信条として上で触れた “keep your enemies closer” とも共鳴することの多い言葉でしょう。ここでは「命令文 + It affects your…」の形を使いながら、応用のしかたを考えてみましょう。その際 “affect” という動詞が、「(悪い意味で)影響を与える」という意味で使われることを頭に入れておいてください。

  • “Don’t drink too much. It affects your health.”
    (飲みすぎるなよ、健康に悪いぞ)
  • “Don’t play video games too much. It affects your eyesight.”
    (あんまりTVゲームばかりしていないで。目に悪いわよ)

通常は “It’s bad for your…” と言いがちなところですが、あえて “affect” という動詞を用いることで、より簡潔にメッセージを伝えることができます。『ゴッドファーザー』シリーズで使われている有名なセリフは、みな「言わんとすること」が「力強いスタイル」で表現されているのが特徴です。セリフの内容だけでなく、それがどのような文型で述べられているかに注意を払うことで、一層ゆたかな表現力を身につけることができるでしょう。

まとめ

今回の記事では、アカデミー賞の歴史の中でも伝説的な作品である『ゴッドファーザー』3部作からセリフを厳選し、日常生活での応用を考えてみました。マフィアや犯罪者が主な登場人物を構成する作品ですが、内容を少し変えるだけで日常の英会話でも十分活用できるセリフが満載であることがおわかりいただけたと思います。英語で自己表現するにあたって、どのようなスタイルで発言すればいいのかを学ぶために素晴らしいお手本だといえるでしょう。壮大で複雑なドラマですが、これを機にぜひ「英語力を鍛える教科書」としても見直してみませんか?

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茂呂  宗仁

茨城県生まれ、東京在住。幼少期より洋画に親しみ、英語へのあこがれを抱くようになる。大学・大学院では英文学を専攻し、またメディア理論や応用言語学も勉強。学部時代より英米で論文発表も経験。留学経験なくして英検1級、TOEIC970、TOEFL109を取得。現在は英会話講師兼ライター・編集者として活動中。