【映画に学ぶ英会話 2】 使ってみたい会話表現をイギリス映画からピックアップ

イギリス英語のエレガントな響きに憧れる英語学習者は多いのではないでしょうか。これは日本の学習者に限ったことでなく、例えば英語ネイティブであるアメリカ人でも、イギリス英語に惹かれる人は少なくないようです。イギリス発のヒット映画『ラブ・アクチュアリー』には、モテない英国人男性がアメリカに行った途端、一夜にして数人のガールフレンドをゲットしてしまう、というエピソードがありました。これは極端な例かもしれませんが、イギリス風の話し方が世界中でステータスシンボルのように扱われているということがよくわかるのではないかと思います。

イギリス英語と言えば「発音」が取り上げられがちですが、ここでは「特徴的な言い回し」に着目してトピックを進めます。数あるイギリス映画の名作、話題作から、それぞれ19世紀、20世紀、21世紀を舞台にした3本を選び、そこから「使える表現」を紹介しますので、ぜひ日常の英会話にイギリスらしいエッセンスを加えてみてください。

英国風に「感想を述べる」には?-『プライドと偏見』(19世紀)より

19世紀は英国文化が花開いた時代です。ブロンテ姉妹やチャールズ・ディケンズなどといった文豪が多数登場し、その作品は20世紀以降多数映像化され、今も根強い人気を保っています。その中でも他の追随を許さない人気を誇るのが、ジェーン・オースティンによる一連の作品でしょう。

オースティンは作品中で、19世紀イギリスにおけるロマンスや結婚のありかたを取り上げました。彼女の作品の中で最も人気のある『Pride and Prejudice』は、頑固で気難しい若き富豪ダーシー氏と、貧しい家の出身ながらも活発で聡明なエリザベスの間のロマンスを描き、1995年にはBBCによってコリン・ファース主演のTVシリーズ(邦題『高慢と偏見』)として、2005年にはキーラ・ナイトレイ主演の映画(邦題『プライドと偏見』)として映像化され、いずれも好評を博しました。ここではそのどちらにも登場する「形容詞」に焦点をあて、イギリス風の「感想の述べ方」を学びましょう。

ダーシーは、友人のビングリーが主催した舞踏会で、初めてエリザベスと彼女の姉妹たちに出会います。ビングリーは長女のジェーンに一目惚れしますが、社交生活が大嫌いなダーシーは会話に乗り気ではありません。このシーンでビングリーとダーシーが交わす会話からは、イギリスらしいコメントの仕方が見て取れます。

次の映像では、BBC版TVシリーズからこの場面がご覧いただけます。

ビングリーとダーシーの次の会話に注目してみましょう。

ビングリー : “Look! There’s one of her [Jane’s] sisters. She is very pretty too. I dare say very agreeable.”
(見ろよ、ジェーンの妹がそこにいる。彼女もとても可愛いじゃないか。愛想もよさそうだ)

ダーシー : “She is tolerable, I suppose. But she’s not handsome enough to tempt me.”
(彼女は許容範囲内ではあるよ。しかし興味を持てるほど綺麗ではないな)

下線を引いた形容詞は、どちらも語尾が “—able” で終わっています。『Pride and Prejudice』では、 “—able” で終わる形容詞が、「人の性格について感想を述べる」際に頻繁に使われます。“amiable” (付き合いやすい)、 ”disagreeable” (気の食わない)などもその例です。

普段の英会話では、何かに関して感想を聞かれたら、えてして “It’s good.” や “I don’t like it” などの「好き/嫌い」という2パターンの返答に終始しがちではないでしょうか。『Pride and Prejudice』で多用される一連の形容詞をマスターすれば、このマンネリを脱することができるはずです。

  • A:“How did you like the food he made?”
    (彼が作った料理はどうだった?)
  • B:“It was…tolerable.”
    (まあ…許せる出来ではあったかしら)

上記の例では、一般的には “It was okay.” や “It wasn’t too bad.” で済む会話に、あえて “tolerable” を使うことで、よりニュアンスのある感想が表現できました。さらに “barely tolerable” などと言うと「ギリギリ許容範囲=大したことがない」という意味になります。使える形容詞の幅を広げることで、会話に知性を感じさせることができるので、ぜひトライしてみてください。

英国風に「アドバイス」-『アラビアのロレンス』(20世紀)より

20世紀初頭、大英帝国は世界の大部分を支配していました。その歴史的背景の中、混乱の渦中にあるアラブ社会で活躍した軍人、T. E. ロレンスを主役として描いたのが『アラビアのロレンス(Lawrence of Arabia)』(1963) です。4時間近い超大作ですが、大英帝国の歴史や世界観に興味のある方には必見の作品です。また、蜃気楼が初めて映像にとらえられた映画でもあります。近年は4K リマスター版Blu-rayも発売され、砂漠を舞台とした美しい映像をより堪能できるようになりました。

作品中、ロレンスは型破りの奇人だと仲間から思われています。特に、彼がマッチの火を二本の指で消すシーンでは、感嘆した同僚のウィリアム・ポッターが、真似をして火傷をしてしまいます。ポッターの “What’s the trick then?” (じゃあコツはなんなんだ? )という質問に、ロレンスは次のように答えます。

“The trick, William Potter, is not minding that it hurts.”
(コツとは、ウィリアム・ポッターよ、痛いことを意識しないことさ)

このセリフは、近年のSF映画『プロメテウス』(2012) の中で、M・ファスベンダー演ずるアンドロイドが人間らしさを学ぶために用いていたので、記憶に残っている方もいるでしょう。

アドバイスとなると、つい “I recommend…” を多用してしまう英語学習者は多いようですが、ここでは “trick” という言葉を使い、よりイギリス風の洗練されたアレンジを加えてみましょう。

次の例は、Aがある男性に片思いをしているという設定です。

  • A:“I am giving up. No matter what I try, he doesn’t seem to care.”
    (もうあきらめるわ。何をやっても彼の気を引けないの)
  • B:“Don’t despair yet. The trick is not showing that you are interested in him!”
    (まだ絶望しないで。コツは彼に気のある素振りを見せないことよ)

Bのアドバイスは、“You shouldn’t show your true feelings.” などと言うより、知的で「権威のあるもの」のように聞こえます。”The trick is [not] …ing ~.” という表現は、料理のアドバイス (“The trick is adding a little sugar here.” 「コツは砂糖を少し加えること」) など幅広い場面で使えます。早速今日から会話に活用してみてください。

英国風の「No」-『007/カジノ・ロワイヤル』(21世紀)

「Yes/No 疑問文」は、日常会話で頻繁に使われます。しかし、答えは通常イエスかノーになるため、返答した途端に会話が途切れる、ということが少なくありません。次の例を見てください。

  • A:“I want to go to this new vegetarian restaurant. Are you coming with me?”
    (新しいベジタリアンレストランに行きたいんだけれど、一緒に来る?)
  • B:“No, I want to eat meat. Sorry.”
    (いいえ、肉が好きなんです。ごめんね。)

この会話をもう少し気の利いたやりとりにするために、2006年に公開されたスパイアクション映画『007 / カジノ・ロワイヤル』からのセリフを紹介したいと思います。

英国スパイのジェームズ・ボンドを主人公とする007シリーズは、1962年のショーン・コネリー主演作に始まり、最新作の『スペクター』(2015)に至るまで24作が作られています。イギリス映画の中でも「ハリー・ポッター」と並び最も人気のある長寿シリーズです。特に『カジノ・ロワイヤル』では名優ダニエル・クレイグがボンド役に交代し、作品世界に新たな深みが生まれました。

007シリーズで有名なセリフに、ボンドが飲み物を注文する際の

“Vodka martini. Shaken, not stirred.”
(ウォッカ・マティーニを。かき混ぜずに、シェイクして。)

があります。YouTubeでこのセリフを検索すると、様々な作品からのバリエーションを見ることができます。しかし『カジノ・ロワイヤル』では、シリーズの慣習化を防ぐため、次のような大幅な変更が施されました。

ボンド:“Vodka martini.”
(ウォッカ・マティーニを)

バーテンダー:“Shaken or stirred?”
(シェイクするか、かき混ぜますか?)

ボンド:“Do I look like I give a damn?”
(俺が気にするような人間に見えるか)

※ここで “give a damn”は、かなり強い表現なので、親しい知人以外には使わないほうがよいでしょう。

この会話で注目してほしいのは、ボンドがバーテンダーの質問に直接は答えていないことです。そのかわりに “Do I look like…?” という表現を用いることで反語的に「そんなこと聞くな」というニュアンスを出しています。これを先ほどの会話に応用してみましょう。

  • A :“Are you coming with us to the vegetarian restaurant?”
    (あのベジタリアンレストランに私達と一緒に来る?)
  • B :“Do I look like I can enjoy only vegetables?”
    (私が野菜だけで満足できるように見える?)

ここでは、イエス/ノーを使わずに「野菜オンリーのメニューをエンジョイできる人間に見える?」と逆に問い直すことで、反語として「私は肉が好き」という主張をしています。さらに例を挙げます。

  • A: “Do you know who the Chancellor of Germany is?”
    (ドイツの首相は誰だか知ってる?)
  • B:“Do I look like I read world news?”
    (私が世界のニュースを読む人間に見える?)

ここでは反語に加え、「世界のニュースを読む」=「世界情勢に詳しい」という比喩が使われています。これにより、「世界情勢にうといので、誰だか知っているはずがない」ということを表現できます。

単なる「Yes/No 疑問文」に対しても、“Do I look like…?” を用いて返答することで、こなれたムードのある会話が可能になります。イギリス風のウィットを用いた気の利いた返答をマスターしましょう。

まとめ

今回は、イギリス映画で使われている表現方法を3パターンとりあげ、日常の英会話への応用を考えました。アメリカ英語に比べ、イギリス英語ではより凝った表現が用いられる傾向があります。そのため、英語での表現力に伸び悩みを感じている方は、ぜひ積極的にイギリス映画に触れてみてください。目からウロコが落ちるような言い回しが学べるかもしれません。加えて、イギリス風の表現を使うと「知的」で「洗練された」イメージを自己演出することが可能です。せっかく英語を学ぶならば、ただ文法や発音に注意を払うだけでなく、ユーモアや気品のある表現ができるようになることをぜひ目指しましょう。

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茂呂  宗仁

茨城県生まれ、東京在住。幼少期より洋画に親しみ、英語へのあこがれを抱くようになる。大学・大学院では英文学を専攻し、またメディア理論や応用言語学も勉強。学部時代より英米で論文発表も経験。留学経験なくして英検1級、TOEIC970、TOEFL109を取得。現在は英会話講師兼ライター・編集者として活動中。