要注意!日本人が誤りやすい英語フレーズ【ビジネス英語編】

要注意!日本人が誤りやすい英語フレーズ5選」では、「言語転移」という現象を参照しつつ、日本人が誤りやすい英語フレーズについて考えてみました。今回は、ビジネスの場面で、思わず口にしがちな英語の誤用例について見ていきたいと思います。ビジネスでは文法的に正しいだけでなく、文化的にも相手の気持を害さないようなコミュニケーションが求められます。パートナーと上手に信頼関係を築くには、洗練された英語スキルが欠かせません。ここでは、日本人である私たちが国際的なビジネスシーンで誤解を招くことなく円滑にコミュニケーションを図るために、押さえておきたいポイントを解説します。

1. “meet” と“see” を混同しない!

初対面の相手に対し、うっかり “Nice to see you” と言ってしまったことはありませんか?日本語では「お会いできてうれしいです」という意味になるので、いつ使ってもOKのフレーズだと思われがちです。しかし “Nice to see you” は「初めて会う相手」に対しては用いられません。そのかわり “Nice to meet you” と言うのが適切です。

この違いは、“meet” には「初対面で知り合う」という意味があることから来ています。それに対して “see” は、通常「(2回目以降)会う」という意味で使われます。そのため、初対面である相手に対し “Nice to see you” と言ってしまっては不自然な印象を与えかねません。両者の使い分けに注意しましょう。

また、初対面の相手に対しての「さようなら」と、すでに会ったことのある人への「さようなら」も、言い方が変わってきます。初対面の人には “ [It was] nice meeting you” と、一貫して“meet” を使いましょう。そして、2回目以降のシーンでは “[It was] nice seeing you again” などのように “see” を使わなくてはなりません。ビジネスではよい第一印象を与えることがとても大切ですので、 “meet” と “see” を混同することなく自信を持って言い切れるよう心がけてください。

以上に加えて、別れ際により深い印象を残すためには、「相手の名前+コメント」を付け加えてみましょう。

  • “It was delightful meeting you, Ms. Smith. I am looking forward to doing business with you in the future.”
    「お会いできて幸いです、スミスさん。これから共にビジネスができるのを楽しみにしています」

このような気の利いた一言で、英語話者からも信頼を得ることができます。ぜひ、単純な “goodbye” からは卒業し、相手と対等な目線で渡り合えるようなあいさつをしてみましょう。

2.「部下」をどう紹介する?「暴君ボス」だと思われないために

日本の職場では、一般的に「上下関係」がとても細かく規定されています。職場内で誰が「上の立場」で、誰が「下の立場」にいるのかがはっきりとしています。一方で、欧米文化では上下関係をそれほど気にしない傾向にあります。日本的な発想で、特に上の立場にある人が職場での厳格な上下関係をそのまま英語で表現してしまうと、違和感が生じる場合があります。

たとえば次の英文を上司にあたる人物の発言だと想像しながら考えてみましょう。

  • “This is Miss Takada. She is my subordinate.”

この発言には2つ問題があります。まず「未婚の女性=Miss」、そして「既婚女性=Mrs.」という区別は時代遅れだとする考えが、英語圏では広く浸透しており、女性には “Ms.” を統一して使うことが社会的なルールになりつつあります。そのため、英語を話すときには、日本人・外国人、男性・女性に関係なく「既婚・未婚を区別しない」ことがマナーであることを踏まえておきましょう。

さらに、「部下」のことを “subordinate”と紹介するのは適切とは言えません。この言葉には「より劣っている」という隠れたニュアンスがあるためです。部下のことを「自分より劣った人間」であると語ったかのような印象を与えてしまうかもしれません。

そのような事態を避けるためには、別の方法で上下関係をやわらかく表現してみましょう。一例としては、次のような言い換えができます。

  • “This is Ms. Takada. She works for/with me.”

これで、「横柄な」印象を与えることなく「高田さんは私の部下です」と紹介することができます。また、よりフェアな響きを持たせるために “This is Ms. Ito. She and I are working on this project together” と言うこともできるでしょう。

3.「先輩」は”my senior”?

「上司 − 部下」の関係に加えて、英語で表現するときに難しいのが「先輩 − 後輩」という日本語でしょう。欧米文化では基本、平等主義と能力主義の考え方が根強いため、「年齢の差=格の違い」という日本での慣習が通じないときがあります。そのため、少し発想を変えながら表現をしなくてはなりません。

「彼は私の先輩です」を直訳して “He is my senior” と言ってしまうと、「彼は私より年上です」としか聞こえないことがありえます。そこで、次のような伝え方を試してみましょう。

  • That’s Mr. Shimada. He’s been in this company much longer than I have.
    「あの方は嶋田さんです。彼は私よりずっと長くこの会社に勤めています」

これで、「彼は仕事について私よりずっと知っています」とほのめかすことができます。また “have … under the belt” (「〜を経験して」)という熟語を使って、以下のような表現もできるでしょう。

  • Ms. Ara is a great coworker. She has more working experience than I do under her belt, and she always helps me.
    「荒さんはすばらしい同僚です。私よりずっと職務経験が深く、いつも私を助けてくれます」

このように「年齢の差」だけで考えるのではなく、「勤務歴・経験」を尺度にすることで、よりスムーズに先輩・後輩関係を表現することができます。英語で話すときには、必ずしも年齢がプライオリティではないことを頭に入れておいてください。

4.「関係者」は英語でどう言えばいい?

日本語には「関係者」という便利な言葉があります。例えばクライアントからの難しい質問には「関係者に確認します」と返すことができるでしょう。しかし、ここでの「関係」という言葉を “relation” と直訳することはできません。人間関係での “relation” は「血縁関係」や「交際関係」を意味するので、ビジネスの場では使うことができません。

かわりに “in charge(担当して)” というイディオムを用いて、次のような言い方ができます。

  • クライアント:We’d like to know if you can give us a discount.
    「割引をしてくれるかどうかお聞きしたいのですが」
  • 回答者:I’m not at liberty to give you an immediate answer. I need to ask the person in charge.
    「私はそのご質問にすぐお答えできる立場におりません。担当の者に確認する必要があります」

ここでの “ be not at liberty to ~” という熟語は、「〜をする自由がない=立場ではない」という意味になります。あわせて覚えておくと「立場上答えにくい質問」に対処するときに重宝します。

また、「関係者以外立ち入り禁止」のような文脈では “STAFF ONLY” や “NO ENTRY” とシンプルに表記できます。その場の必要性に合わせて、柔軟に「関係者」を英語で表現してみましょう。

5. 英語で部下を注意するときに気を付けたいこと

最近では、英語話者を部下に持つ日本人も増えています。上司ともなれば、ネイティブスピーカーである部下を英語で叱責せざるをえない場面も出てくるでしょう。そんなとき、コメントがシンプルすぎると必要以上に厳しい印象を与えかねません。例を挙げて解説します。

  • Hey Joshua, you were late this morning. You can never do that again.
    「ジョシュア君、君は今朝遅刻したね。二度としないように」

ここで “You can never…” のような言い方をしてしまうと、「次に遅刻したらクビだ」と言っているよう聞こえかねません。こんな場面では「相手と対話しながら注意をうながす」スタイルが有効です。

  • 上司:Hey, it seems like you were late this morning.
    「今日は遅刻したようだね」
  • 部下:I’m terribly sorry. I failed to beat the traffic.
    「申し訳ありません。渋滞を回避できませんでした」
  • 上司: I understand the situation. Still, I would like you to be more careful from now.”
    「状況はわかったよ。でも、これからはもっと気をつけてくれるかな」
  • 部下: Got it. I will pay more attention to the traffic news.
    「はい。交通ニュースにもっと注意します」

下線部のように、ソフトで理解力を示す表現を使うことがまず大事です。さらに、部下に対して「弁明するチャンス」を与えることも、円滑な関係を保つためのキーとなります。日本文化では「弁明=悪あがきの言い訳」とされてしまいがちです。一方で英語圏の文化では「ミスの原因を説明する」ことは「今後ミスを繰り返さない」ための大切なステップと考えられています。そのため、一方的な叱責で部下のモチベーションを下げるような対応は避け、代わりに「理解」と「解決策へのうながし」が感じられるような会話を心がけてください。

まとめ

今回の記事では、ビジネスの場にフォーカスしながら、どのようにすれば日本語の発想やしきたりを英語で言い換えることができるかを考えてみました。「要注意!日本人が誤りやすい英語フレーズ5選」でも指摘したように、日本語と英語のあいだの言語間距離は大きく、また文化的な違いも多く存在します。このギャップを越えてビジネスをスムーズに進めるには、日本語からの「直訳的」な表現に気をつけること、さらにビジネスパートナーである相手の文化をあらかじめ知っておくことが大切です。文法や発音だけに気を取られることなく、「相手からは、自分はどのように理解されているのか」というポイントを常に意識しながら英語を活用してみましょう。

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茂呂  宗仁

茨城県生まれ、東京在住。幼少期より洋画に親しみ、英語へのあこがれを抱くようになる。大学・大学院では英文学を専攻し、またメディア理論や応用言語学も勉強。学部時代より英米で論文発表も経験。留学経験なくして英検1級、TOEIC970、TOEFL109を取得。現在は英会話講師兼ライター・編集者として活動中。