英会話を習得するにあたって気をつけなければならないことの一つに「言語転移 (Language transfer)」というものがあります。「言語転移」とは、たとえば母語である日本語の使われ方が、第二言語である英語の使用に影響を与えることを指します。とくに、日本語と英語のあいだの言語間距離が大きいことを考えると、日本人が英語を学ぶ上では、転移について一層気をつけることが必要でしょう。日本語では「正しい」はずの発言でも、そのまま英語にしてしまうと「誤り」だったり、さらには「失礼」に聞こえてしまったりするようなことが多々あります。
今回は、日本語で発想する際に生まれやすい「言語転移」の例を挙げ、英語学習にあたって注意すべき点を再確認します。
1. 感謝したつもりが… (“sorry” と “thank you” の違い)
まず、日本人がしばしば口にする言葉に「すみません」があります。この言葉には実は、「ごめんなさい」と「ありがとう」という2つの意味が含まれています。
たとえば日本人が相手に対して感謝の意を表したいとき、「迷惑をかけて申し訳ありません」という発想で「すみません」と表現することはよくあるのではないかと思います。しかし、英語で話すときに「すみません=ごめんなさい」の直訳である “sorry” を多用すると、相手は「なぜ謝っているのだろう?」と戸惑ってしまうでしょう。日本文化に精通していないネイティブ話者なら、なおさらです。次の場面を想像してみてください。
- ネイティブ : “Hey, you dropped your pen. Here you are.”
(ペンを落としましたよ。どうぞ。) - 日本人: “Oh, sorry.”
(ああ、すみません=申し訳ないです)
この文脈では “sorry” ではなく、 “thank you” と言ったほうがより自然であることがわかると思います。つい「すみません」に引きずられて “sorry” を連発しがちな日本人ですが、英語では “thank you” と言わない限り「感謝の意」が伝わらないことを常に頭に入れておきましょう。
2. 丁寧にアドバイスしたつもりが… (“had better” の正しい使い方)
「〜したほうがいいよ」や「〜すべきですよ」と相手にアドバイスをしたいとき、つい “had better” という表現を使っていませんか?正しい場合もありますが、これは「誰に対して」使うべきかを慎重に考える必要があるフレーズです。
- 子ども : Mom, I hate math!
(ママ、ぼくは算数が大嫌い) - 母親 : You’d better stop complaining. Math is important.
(文句を言わないの。算数は大切なのよ)
このように、 “had better” は相手が自分よりも「目下」であるか、とても親しい間柄である場合に使うことが許される表現です。逆に言えば、たとえば会社の上司に対して “You’d better come to our party” などと言っては、傲慢な口調に聞こえてしまいます。こんなときは、
- “It would be great if you come to our party.”
(パーティーに来ていただけたら、とてもうれしいです)
このように工夫をこらせば、目上の相手に対し失礼にならないよう言い換えることができます。
ちなみに “had better” は、次のように「自分」を主語にして使うこともできます。「自分の意志」を相手に伝えたいときに便利なので、ぜひおさえておきましょう。
- “I’d better go home. It’s getting dark already.”
(もう家に帰ったほうが良さそうだ、暗くなってきたし)
以上のように、相手に対して失礼な態度にならないときにのみ “had better” を使いましょう。
3. 時間のとらえ方の違い①(“by” と “until” の使い分け)
日本語では、時間の継続や期限、締め切りなどを表現する際に、「〜までに」が主に使われます。しかし英語では “by” と “until” という2種類の「〜までに」という言葉があるので、注意が必要です。
まず “by”は「〜までに…を終わらせる」といった文脈で「期限・締切」を指すときに使われます。
- “I have to finish this report by 5PM.”
(この報告書を午後5時までに仕上げなくてはならない)
この例では、「報告書を仕上げる」のは、3時であっても4時30分であっても「5時までならば大丈夫」ということになります。他にも “I will be there by 3:30” (3時半までに到着します)と言うと、着くのは「3時半までならいつでも大丈夫」なわけです。
いっぽうで “until” は、「〜のときまでずっと…し続ける」という、動作の「継続性」を意味するときに使われます。
- “I’m going to stay here until next weekend.”
(来週末までずっとここに滞在するつもりです)
ここでの「まで」は、締め切りの意味ではなく、「途切れることなくずっと滞在する」という時間の「継続」を表現していることが見て取れると思います。また、「さようなら」を言いたいときに “Until next time(<次に会うまで>さようなら)”という表現もあるので、あわせておさえておきましょう。
4. 時間のとらえ方の違い②(“later” の正しい使い方)
“See you later” と言えば、「あとで会いましょう=さようなら」という意味になります。一般に「〜後に」という意味で使われる “later”ですが、次のように「未来の出来事」を指す際に使ってしまうと誤りなので注意が必要です。
- 誤: “He will be back two hours later.”
- 正: “He will be back in two hours.”
(彼は2時間後に戻ってくるでしょう)
このように、今を起点として「〜後に」と言いたい際には “in + 時間の長さ” の形を用いるのが正解です。逆に “later” が正しく使われるのは、「過去の出来事」について語るときになります。
- “She left home, then came back three days later.”
(彼女は家を出て、3日後に帰ってきた)
日本語では「〜後に」と言いたいときに、「過去」のことなのか、それとも「未来」のことかで区別はしません。しかし、英語では「未来 = “in…”」、そして「過去 = “… later”」と言いわけなければなりません。日本語の発想に引きずられることなく、両者を適切に使い分けましょう。
5.「おすすめします」は押し付けがましい? (“recommend” は避けてみる)
日本人学習者が「〜をおすすめしますよ」と言いたいときに、しばしば用いてしまうのが “recommend” (勧める)という動詞ではないでしょうか。たとえば次のような例が挙げられます。
- “I went to Ariana Grande’s concert. It was fantastic! I recommend you listen to her music.”
(アリアナ・グランデのコンサートに行ったんだけど、本当に最高だった!あなたも彼女の音楽を聴いてみて)
この発言は、文法的には間違いではありません。しかし “recommend” には「勧告する」という隠れたニュアンスが存在します。したがって、上の発言には「彼女の音楽を聴かなくちゃダメだよ」という「押し付けがましい」響きがあると受け取られかねません。それを避けるには、まず “recommend” という言葉自体を使わずに「勧める」を表現する方法を考えましょう。たとえば
- “Taylor Swift’s new song is so great! You should give it a try!”
(テイラー・スウィフトの最新曲がとてもよかったから、ぜひちょっと聴いてみたら?) - “BTS’s concert blew me away! I know you’re not really into K-POP, but why don’t you give it a shot?”
(BTSのコンサートには感激したわ!あなたがKポップにあまり興味が無いのは知ってるけど、ちょっと触れてみたら?)
以上のように “give it a try” や “give it a shot” という「ちょっと試してみる」というフレーズを使うことで、押し付けがましくなることなく「おすすめする」を表現できます。これからは “recommend” だけに頼ることを卒業して、様々なイディオムでニュアンスのある表現を作り出してみてください。
まとめ
外国語を学習し始めて間もないときは、つい「日本語の発想」を直訳することで自分を表現しがちです。これは誰もが通らざるを得ない学習の段階ですが、冒頭でお伝えしたように「言語転移」が起こりやすいステージでもあります。ある程度の英語力が身についてきたら、自分の話し方や言葉の用い方が「その場にふさわしい」のか、そして「細かい点で正確なのか」に注意をする必要がでてきます。そのようにニュアンスのレベルまで配慮することで、より相手に対して敬意を払った、本当の意味での「正しい英語」が使えるようになります。これを機に、今まで何気なく多用していた英語表現をもう一度見直して、より「脱日本語」化された英会話を目指してみましょう。
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