「綺麗な英語」は誰が決める?応用言語学の専門家に聞く、発音との向き合い方

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コミュニケーションの場面で相手に与える印象を左右する要素として、多くの人が意識しているのが、言葉の発音です。

「ネイティブスピーカーのような綺麗な発音だね」と言われれば、英語学習の努力が認められたと嬉しくなる一方、発音が原因で言いたいことが上手く通じなかった悔しい経験を持つ人も少なくないでしょう。発音に対する自信の有無は、英語でのコミュニケーションに積極的に臨めるかどうかにも関わるポイントです。

そもそも、世間一般で言われる「綺麗な英語」とは何なのか。外国語として英語を学ぶ私たちは、どんな目標を持って英語の発音を磨くべきなのか。発音について改めて考えてみると、さまざまな疑問が浮かび上がってきます。

そこで今回は、英語の発音との向き合い方について、応用言語学の研究者であり、オンライン英会話「スパトレ」の監修を務める白井恭弘教授にお話を伺いました。

話者プロフィール:白井恭弘教授

ケース・ウェスタン・リザーブ大学認知科学科教授。オンライン英会話「スパトレ」のプログラムを監修。専門分野は、第一・第二言語習得論、言語教育。学術誌First Language, Frontiers in Psychologyの共同編集者、International Review of Applied Linguistics in Language Teaching, Journal of Cognitive Scienceなどの編集委員。英語学習法の書籍としては異例の販売総数累計10万部超え『外国語学習の科学』、『英語はもっと科学的に学習しよう』、『外国語学習に成功する人、しない人』など多数の著作。

インタビュー目次

応用言語学の専門家に聞く、英語の発音との向き合い方

人間は、言葉の発音やなまりを敏感に感じ取る

──コミュニケーションを取る上で、言葉の発音はどのような役割を果たしていますか。

私たちは、英語のような外国語だけに限らず、母語を使う際にも発音やなまり(※1)の違いを感知しています。なぜなら、どの言語をどのような発音で話すかは、自分が属するグループやアイデンティティを決定づける重要な要素の一つだからです。

ある実験では、子どもが「友達になりたい相手」を選ぶように言われた際、自分と同じ人種かどうかよりも、言語やなまりの共通点を重視する傾向がみられたという興味深い研究結果が明らかになっています(※2)。

つまり、私たちは、小さな子どもの頃から相手が話す言葉の違いを敏感に感じ取っているのです。「誰が自分と同じグループなのか」を知るための指標として、言語の発音やなまりを重要視する傾向は、人間が生まれながらにして持っている性質といえます。

その上で、私たちがなぜ特定の発音をよいと思ったり、悪いと感じたりするのかについては、認知科学の分野でも多くの研究が行われています。

※1:本記事内で使用されている「なまり」という用語は、中立的な立場から、特定の集団が使う言語に共通する音声的な特徴を指します。
※2:Kinzler, K. D., Shutts, K., DeJesus, J., & Spelke, E. S.(2009). Accent trumps race in children’s social preferences. Social Cognition, 27, 623-634.

言語の「価値」を決めているのは、社会的・経済的な要素

──そもそも、なぜ「綺麗な発音とそうでない発音」のような区別が存在するのでしょうか。

発音やなまりに対する評価は、言語とは関係のない社会的・経済的な要素から生じるものです。本来、言語学的には、方言なども含めて「どの言語が美しいか、価値が高いか」という区別は存在しません(※3)。

それにもかかわらず、私たちは、社会的・経済的な要因から特定の言語やなまりに対する「価値の高さ」を感じているのです。

日本語の場合、数ある方言の中でも、東京方言である「標準語」が最も高く評価される傾向があります。また、外国語である英語に関しては、学校で教えられているアメリカ英語が最もスタンダードなバラエティーとして認識されています。

とはいえ、標準語に対する評価の高さは、その言葉が話されている地域の経済的・文化的な影響力の大きさによってたまたま決まっているだけであって、言語的な価値そのものはすべて平等です。

※3:白井恭弘(2013)『ことばの力学〜応用言語学への招待〜』岩波新書

絶対的な「標準英語」は存在しないという現実

──社会的に高い価値があると考えられている「標準英語」とは、どんなバラエティーのことを指しますか。

英語には、アメリカ英語、イギリス英語、オーストラリア英語などのさまざまなバリエーションがあり、そもそも絶対的な標準というものは存在しません。日本でスタンダードだと思われているアメリカ英語の場合も、各地域の方言の存在を考慮すると、その実体は千差万別です。

絶対的な基準がない中、私たちは、学習教材の内容やメディアを通じてよく耳にする英語を元に、「標準に近いもの」のイメージを頭の中で作り上げています。

多くの学習者は、いわゆる「標準的なアメリカ英語」と全く同じバリエーションを習得しなければならないかのように感じているでしょう。しかし、実際のところ、私たちはある意味で「実体のない標準」を英語学習のターゲットにしているのです。

特定の発音やなまりに対して抱く無意識の偏見

──なまりの強い英語を話すことには、ネガティブな影響もあるのでしょうか。

世界中どこの国でも、その土地の言葉を上手く話せない場合は、他の人たちと異なる扱いを受ける可能性があります。言語に基づく差別はなくすべきですが、発音やなまりに対して抱くイメージは直感的なもので、英語では“implicit bias(無意識の偏見)”とも呼ばれます。

いくら「自分は差別などしない」と主張している人でも、特定の地域のなまりを聞いた時に、「あまりスマートではなさそう」などとネガティブな第一印象を受けることがあるように、私たちは知らず知らずのうちに言語に対する偏見を持っているのです。

また、言語による差別とは別の問題として理解しておかなければならないのが、標準からあまりにかけ離れた発音は、聞き手にとって理解が難しいこともあるという実情です。

そこで重要になってくるのが、理解可能な英語かどうかを示す指標の“intelligibility(インテリジビリティ)”です。近年では、英語の発音スキルを評価する際、これまで主流だった“nativelikeness”、つまり「ネイティブスピーカーの発音にどれだけ近いか」という指標よりも、理解可能性を表すインテリジビリティに重点を置いた研究が増えています。

具体的にどのような発音が理解されやすいのか、誰にとっての理解しやすさを測るのか、といった点については、今まさに研究が進められているところです。

完璧さに固執せず、英語の通じやすさを高める努力を

──日本の英語学習者は、どんな目標を持って英語の発音を磨いていくべきだと思いますか。

外国語として英語を学ぶ日本の学習者が目指す発音は、相手にとっての分かりやすさを示すインテリジビリティを基準とすべきなのではないでしょうか。

外国語学習の醍醐味は、言葉を介したコミュニケーションで相手と通じ合うことにあります。

日本語なまりの英語の言語的価値自体が低いわけではありませんが、「日本人なのだからカタカナ英語の発音でよい」とまで割り切ってしまうと、相手に伝わりづらい英語になってしまう可能性も考えられます。

「ネイティブスピーカー並みの発音でなければいけない」などと極端な目標を立てる必要はないので、あくまでも実用的なアプローチとして、標準に近い発音の方が相手に通じやすいという認識の上で、学習に取り組むことが大切かと思います。

──インテリジビリティを高めるための発音学習に取り組む上で持っておくべき心構えはありますか。

応用言語学の中では、“language learner(言語学習者)”と“language user(言語使用者)”という概念があり、この二つはある程度分けて考えるべきだとも言われています。

言語学習者としては、自分が目指す発音のバラエティーに近づく努力を惜しまない。それと同時に、言語使用者として、今持っている言語能力でいかに相手とコミュニケーションを取るかを考えることが大切です。

実際、英語のネイティブスピーカーと全く同じレベルの発音を習得するのは非常に難しいでしょう。目標に近付く努力をしつつも完璧さを求めず、恐れることなく自分が持っているバラエティーの英語を話すというバランス感覚が重要だと思います。

第二言語習得研究の知見を活かした英語学習プログラム「スパトレ」

──英語の通じやすさを高めるという考え方は、白井先生が監修されているスパトレ(※)のプログラムにも反映されていますか。

スパトレのプログラムでは、インテリジビリティの観点から「理解可能な英語であるか」を重視し、受講生の方が相手にとって聞き取りやすい英語が話せるように、講師がしっかりとアドバイスをします。

自分の現状の発音で英語が通じるのかどうか、学習者自身が把握できていないケースも多いので、この講師からのフィードバックがインテリジビリティ向上の鍵となります。

また、スパトレのトレーニングには、発音面以外にも、効率よく英語を習得するためのノウハウが反映されています。新しく導入する授業や教案のチェックなど、私自身がトレーニング開発のプロセスに入り込んでアドバイスをしていることもあり、第二言語習得の原則に沿った効果的なカリキュラムが設計できていると思います。

オンライン英語トレーニングサービス「スパトレ」
スパトレは、第二言語習得論や認知心理学、脳科学の研究結果を活用した効果的な英語トレーニングをオンラインで受講できる学習サービスです。自習の段階でアウトプットに必要な知識をインプットし、一人では難しい発音や理解度のチェックを講師とともに実施する学習スタイルで、効率的に英語力を身につけます。

編集後記

社会において大きなパワーを持つ「標準英語」のイメージから、英語学習の目標を「ネイティブスピーカーのように話すこと」と考えている人も多いでしょう。

さまざまな英語のバリエーションがある中、自分なりの目標を定めた上で、理想の発音に近付くための努力をどこまでするかは学習者個人の自由です。しかし、「発音が下手だから話すのが恥ずかしい」と、コミュニケーションに対して後ろ向きになってしまっているのであれば、「ネイティブスピーカーの発音こそが綺麗なもの」という画一的なイメージを改める必要があるかもしれません。

英語レベルを問わず、私たちは誰もが「言語学習者」と「言語使用者」の二つの側面を持っています。実際に英語を使う場面では、現状の習熟度がどうであれ、今持っている知識とスキルをフル活用し、一人の言語使用者として積極的にコミュニケーションに臨むことが求められます。

「綺麗な英語・そうでない英語」といった価値観だけに縛られず、相手とスムーズに意思疎通を図ることを最優先の目標として捉えれば、発音学習に取り組む際の気持ちも前向きなものに変わっていくはずです。

スパトレ 概要

サービス名 スパトレ
URL https://sptr.jp/
運営会社名 スパトレ株式会社
無料体験 7日間無料
※スパトレの無料体験期間は、会員登録をした時間より7日間となります。1月1日の午前10:00にクレジットカード情報を登録した場合、基準となる時間から7日後の、1月8日の午前10:00に無料期間が終了し、有料期間がスタートします。
プラン別料金 【スパトレプラン】
・月額5,980円
・1日1回25分のトレーニング
【マンスリーサポートオプション】
・月額3,300円
・マンスリーテスト、日本人とのコーチング各1回25分ずつ
教材費用 必要に応じて市販教材を購入(5,000教材に対応)
授業時間単位 25分
対応時間帯 24時間
利用ツール スカイプ
レッスン形式 マンツーマン
講師 フィリピン人講師、日本人コーチ

※表内に記載の料金はすべて税込です。
※サービス内容・料金に関する最新情報は、スパトレのウェブサイトをご参照ください。


【参照サイト】スパトレ公式サイト
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