第二言語習得研究ではインプットとアウトプットの重要性をめぐり、様々な議論が続けられています。クラッシェンが提唱した「インプット仮説」や、その仮説に異を唱えたスウェインの「アウトプット仮説」などがよく知られています。
インプットとは「聞く・読む」ことで、言語についての情報を取り込むこと。また、アウトプットとは「話す・書く」ことで、取り込んだ情報を発信することです。
日本人が英語を話せないのは「アウトプットの不足」が原因という意見もありますが、そもそも正しいインプットが行われており、そのインプット量が十分なのかと言われると、実はそうでもありません。英語を上達させるためには、どちらか一方ではなく、インプットとアウトプットのバランスを考えることが大切です。
そこで今回は、第二言語習得研究から考える「インプットとアウトプット練習の最適なバランス」についてご紹介します。
- インプットとアウトプットが果たす役割
- アウトプットの重要性
- インプットとアウトプットの最適なバランス
インプットとアウトプットが果たす役割
言語習得において、インプットとアウトプットはどのような役割を果たしているのでしょうか。
クラッシェンが唱えたインプット仮説では、「理解可能なインプット」を十分に与えることが第二言語の習得に最も効果的だとされています。理解可能なインプットとは、現在の言語能力(i)よりも少しだけ上のレベル(+1)のインプット(i+1)のことを指しています。具体的には、一部だけ聴き取れない箇所があるリスニングや、一部だけ意味が分からないところがあるリーディングのようなトレーニングが効果的だということです。インプット仮説においては、アウトプットではなくインプットのみが第二言語の習得に有効であり、アウトプットの重要性については語られていません。
一方、スウェインが唱えたアウトプット仮説は、「理解可能なインプット」の必要性を認めた上で、アウトプットも重要であると主張しています。なぜなら、言語習得を促進させるためには、「聞くこと」と「話すこと」の相互作用が必要だと考えたからです。そのため、インプットされた情報を「発話すること」を重視しています。また、アウトプットは以下のような機能も担っています。
- 気づきの機能:アウトプットすることで「自分の言いたいこと」と「言えないこと」のギャップに気づき、新たな知識を得たり、これまで得た知識を強化したりする機会になる。
- 仮説検証の機能:アウトプットにより自分の中間言語の仮説が検証でき、誤りがあれば中間言語の法則を修正する機会になる。(中間言語とは、習得過程のある一時点において学習者が作り上げる言語の構造的な規則体系のこと。母語と学習言語の間に存在し、習得段階に応じて変化していきます。)
- メタ言語的機能:アウトプットにより学習した言語について意識的な振り返りを促し、アウトプットを制御するだけでなく、言語の知識を内面化させる
第二言語習得研究において、インプットの重要性を否定する研究者はいません。なぜなら、インプットの量がアウトプットの量を決めるからです。十分に情報が与えられなければ、それを発信・発話することはできないということです。
アウトプットの重要性が分かる「受容バイリンガル」
次に、十分に与えられた情報をアウトプットしなければ、「理解する」だけにとどまってしまう「受容バイリンガル」の例をご紹介します。
一般に「バイリンガル」とは二つの言語を自由に使いこなす人のことを指しますが、現実には二言語の間に優劣が生じることが多く、その優劣の差が大きい人を「受容バイリンガル」と言います。正確に言うと、「一方の言語は理解できて話せるが、もう一方の言語は理解できるが話せない」バイリンガルのことです。
受容バイリンガルは、両親が日本語を話し、学校では英語などの現地語を話す海外の日本人子弟などによく見られます。幼いうちは母親と過ごす時間が長いため日本語を話しますが、学校に行き始めれば主要な言語は現地語に変わります。そのため、親が日本語で話しかけても、子どもはインプットの必要性は感じても話す必要性を感じなくなり、いつしか日本語のアウトプットの機会は失われ、結果として受容バイリンガルになってしまうのです。
この例から、インプットのみでは「聞いて理解する能力」は身についても「話す能力」は向上しないということが導き出されます。
また、米国パデュー大学の脳科学に関する研究では、情報を何度もインプットするよりその情報を何度もアウトプットすることで情報の長期安定が保持できると報告されています。つまり、脳科学的にもアウトプットが重要だということです。
インプットとアウトプットの最適なバランス
第二言語の習得にはインプットに加えアウトプットも重要だということが分かりましたが、実際の英語学習ではどのように両者のバランスを取ったらよいのでしょうか。
日本人の英語力改善には「アウトプットを増やす」という意見もありますが、第二言語習得研究では、基礎的な能力がない初期段階でアウトプットを強制することをすすめていません。なぜなら、十分に文法や知識が理解できていない段階で無理にアウトプットをしようとすれば、単語や文法が上手く使えずに「変な英語」になってしまうからです。また、その「変な英語」が脳に残り、身についてしまう恐れもあります。
「変な英語」を身につけないためにも、学習を始めたばかりの初期段階ではインプットに重点を置いて基礎を固め、レベルの向上に従ってアウトプットの量を増やしていくのがベストです。インプットも単に単語や文法を覚えるのではなく、英単語の意味は日本語に訳さず英語で覚えるなど、英語を英語で考える「英語脳」を鍛えながら進めるのがコツです。そのような練習を積み重ねることで、アウトプットの準備が整っていきます。
まとめ
今回は第二言語習得研究から、インプットとアウトプットの最適なバランスについて考察しました。英語を効率的に学習するためには、学習段階に合わせた両者のバランスが重要です。また、機械的に暗記するのではなく「英語脳」を鍛えるインプットがアウトプットの準備には有効です。日本で暮らしていても英語脳を鍛えることはできるので、ぜひチャレンジしてみてください。また、レベルが向上してアウトプットの量が増えても、間違いを恐れずに話すことをおすすめします。間違いは覚えるためのワンステップにすぎないのですから!
reisuke
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