第二言語習得研究の分野における第一人者の一人である言語学者のスティーブン・クラッシェン氏は、1970年~80年代にかけて「モニターモデル」と呼ばれる第二言語習得に関する5つの仮説を提唱しました。ここでは、そのうちの一つ「情意フィルター仮説」について詳しく説明したいと思います。
情意フィルター仮説(The Affective Filter hypothesis)とは?
情意フィルター仮説とは、感情的な要因がいかに第二言語習得に影響を及ぼすかを説明したもので、「不安」「自信のなさ」「動機付けの弱さ」といったネガティブな感情(情意フィルター)は、第二言語の習得を難しくしてしまうという仮説です。
クラッシェン氏は、「インプット仮説」のなかで重要性を主張した「理解可能なインプットは第二言語習得に「必要」だが、それだけでは「十分」ではなく、習得者がインプットに対して「開かれて」いる必要があるとしました。情意フィルターは理解可能なインプットを活用する妨げとなり、情意フィルターが高まるとインプットが言語習得装置(Language Acquisition Device)に達することができず、習得が起こらないと説明しました。
クラッシェン氏は情意フィルター仮説の中で第二言語習得の成功に関わる感情として「Motivation(動機付け)」「Self-confidence(自信)」「Anxiety(不安)」の3つを挙げており、「動機」と「自信」はあればあるほど情意フィルターは低くなり言語習得に成功しやすくなる一方で、「不安」が強いと情意フィルターは高くなり、スムーズな言語習得の妨げとなるとしています。
これは英語学習者の実感値としても理解できます。そもそも英語学習に対する動機付けが低いとなかなか英語は習得できませんし、「失敗してしまうかもしれない」「間違えるのが恥ずかしい」といった不安な気持ちが先に来てしまって英会話がうまくできなかったという経験を持っている方も非常に多いのではないでしょうか。
情意フィルター仮説に対する批判
第二言語習得においてはクラッシェン氏が主張するように感情的な要因が大きく影響するという点については大方の合意が取れている一方で、この情意フィルター仮説に対しても批判は存在しています。
例えば、クラッシェン氏は情意フィルターが第二言語習得の妨げとなるとしていますが、逆に「失敗したくない」「恥をかきたくない」という不安な気持ちがより強い英語学習に対する動機づけや正確な英語に対するこだわりを生み、結果として第二言語習得の助けとなるという見方もあります。これは、「情意フィルター」そのものには良いも悪いもなく、大事なことは学習者がそのフィルターをどのように言語習得に活かすかであるという意見にもつながります。
まとめ
いかがでしょうか?クラッシェンが提唱した情意フィルター仮説は、「不安」や「自信のなさ」といったネガティブな感情が第二言語習得を妨げるというものでしたが、逆にこれらの感情を学習の動機に変え、より高みを目指すこともできます。英語を早く身につける上では間違えを恐れずにどんどんと積極的に使うことが重要であることは言うまでもありませんが、一方で間違えをよしとせず、常に正しい英語を覚えようとする努力も決して無駄にはならないのも事実です。ぜひ「情意フィルター」を意識しながら、自分の感情をプラスの方向へと活用していきましょう。
【参照サイト】Principles and Practice in Second Language Acquisition
English Hub 編集部
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