英語力を高めるためのトレーニングには大きく分けるとインプットとアウトプットの2種類があります。インプットとは、単語や文法の記憶やリーディング、リスニングなど英語で情報を頭に入れるトレーニングのことを指し、逆にアウトプットとはライティングやスピーキングなど、自ら持っている知識やスキルを運用し、発信するトレーニングのことを指します。
よく日本人が英語を話せないのはアウトプットの練習が足りないからだと言われます。たしかに、日本の英語教育はインプット中心でアウトプットの機会が少ないため、リーディングやリスニングは得意でもライティングやスピーキングは苦手という日本人は数多くいます。
一方で、ライティングやスピーキングができるようになるためにはアウトプットの練習だけをしていればよいのかというと、実は全くそうではありません。むしろ、第二言語習得の研究において共通して語られるのはインプットの重要性です。
その先駆けとも言えるのが、クラッシェンが唱えた「インプット仮説」です。クラッシェンは、第二言語の習得にはインプットのみが効果的であり、特に「理解可能なインプット」(自分のレベルよりも少しだけレベルが高いインプット)が重要だとしました。このクラッシェンが唱えた仮説については後に「インタラクション仮説」や「アウトプット仮説」など様々な仮説により反論されていますが、いずれの仮説も「インプット」の重要性自体を否定しているものではありません。
そこで、今回は第二言語習得の観点から考える「インプット」の重要性と、効果的なインプットのトレーニング方法についてご紹介します。
第二言語習得から考えるインプットの重要性
英語力を高めるうえでは、なぜインプットが重要なのでしょうか。第二言語習得の観点から考えると、その理由としては大まかに下記3つが挙げられます。
- インプット量がアウトプット量を決める
- 中間言語とのギャップに気づくことができる
- 予測文法が身につく
1. インプット量がアウトプット量を決める
最初に理解しておきたいのは、そもそも人は「インプットしたものしかアウトプットできない」ということです。第二言語習得研究の世界では、人間は「インプット→気づき(Noticed Input)→理解(Comprehended Input)→内在化(Intake)→統合(Integration)というプロセスを経てはじめてアウトプットができるようになると考えられています(詳細は「英語学習者は必見。第二言語習得に必要な4つのプロセスとは?」を参考にしてください)。
アウトプットの力を高める方法は、インプットの絶対量を増やすか、インプットした情報を引き出す能力を高めるかのいずれかしかありません。アウトプットのトレーニングは後者の能力を高めるうえでは効果的ですが、そもそものインプット量が少ないと、いくら引き出す力を伸ばしてもアウトプットの力には限界が来てしまうのです。
2. 中間言語とのギャップに気づくことができる
第二言語習得研究においては、人が第二言語を習得する過程で使用する不完全な言語のことを「中間言語」と呼んでいます。例えば、発音や文法、単語の選択が間違っていたりする状態の言語のことを指します。インプットのトレーニングを行うメリットは、この自分自身の現時点での語学力である「中間言語」と、習得を目標とする「第二言語」とのギャップに気づくことができるという点です。正しいインプットを大量に浴び、中間言語との違いを認識できる機会が多くすればするほど、人は自分の中間言語を修正できるようになります。
3. 予測文法が身につく
インプットのトレーニングもたらす3つ目のメリットは「予測文法」が身につくという点です。「予測文法」とは、特定の文章を見たり音声を聴いたりしたときに、次にどんな言葉が来るのかを予測する力のことを指します。例えば、ある程度英語を学んだ方であれば、「I am afraid..」という言葉を聞いた瞬間に、次は何か悪い話が来るなということを予測することができます。また、海外のカフェで注文をするたびに「For here? or to go?(店内か、テイクアウトか)」と何度も訊かれれば、例え全ての単語がしっかり聞き取れなかったとしてもその意味を予測できるようになります。
このように、人は言葉を聞いたり読んだりするときに次にどんな内容が来るのかを常に仮説を立てながらインプットしており、同時にその仮説を検証するという作業を繰り返しています。大量のインプットを通じて予測文法を身につけることができれば、インプットのスピードも上がりますし、インプットした情報の意味の理解により多くの意識を傾けることができるようになり、リーディング力やリスニング力は高まります。
インプットによる効果的な英語学習法
上記で説明したように、インプットは第二言語習得において多くの重要な役割を果たしています。それでは、具体的にインプットのトレーニングを行うときは、どのような点に注意すればよいのでしょうか。第二言語習得の観点から、効果的なインプットを行うためのポイントを6つご紹介したいと思います。
- 自分のレベルより少しだけ高いレベルの教材を使う
- 自分と関わりが深いテーマの教材を使う
- 視覚と聴覚を両方使う
- 無意識ではなく意識してインプットする
- インプットした情報はしっかりと理解する
- 理解した情報を検証する
1. 自分のレベルより少しだけ高いレベルの教材を使う
クラッシェンが「インプット仮説」の中で唱えたように、インプットを行う際は「Comprehensible Input(理解可能なインプット)」、分かりやすく言うと「自分のレベルよりも少しだけ高いレベルのインプット」を行うことが重要です。リスニングでいえば、全てを完全に聴き取れる教材を何度も聴いても効果はありませんし、だからといってほとんど何も聴き取れない難解な教材を聴くのも非効率となります。自分のリスニング力では8割は理解できるけれども2割分からないところがあるぐらいの教材を選び、分からなかった2割を何度も繰り返し聴いたりスクリプトを見たりしながら確実に聴き取れるようにしていくことが重要です。
2. 自分と関わりが深いテーマの教材を使う
教材を選ぶ際は、自分の仕事や生活と関わりが深く、興味が持てるテーマの教材を使用するようにしましょう。第二言語習得研究においても「動機付け」は言語習得において重要な役割を果たしていることが分かっています。自分が「面白い」と感じるテーマや、仕事などで実際に学ぶ必要性があるテーマを教材に選ぶことで、同じ時間でもより効率的にインプットができるようになります。
3. 視覚と聴覚を両方使う
リスニングのトレーニングを行うときは聴覚だけではなく視覚も使ったほうがより理解や記憶が促進されるという研究もあります(参考:外国語リスニングにおける話者映像提示の聴解促進効果)。「産業教育機器システム便覧」(教育機器編集委員会編 日科技連出版社 1972)によれば、人が情報を知覚する割合は味覚1.0%、触覚 1.5%、臭覚 3.5%、聴覚 11.0%、視覚 83.0%となっており、視覚がもたらす影響が大きいことが分かります。そのため、リスニングのトレーニングをするときはCDやラジオなどの音声教材よりもDVDやビデオなどの動画教材を積極的に活用することをおすすめします。
4. 無意識ではなく意識してインプットする
第二言語習得のプロセスにおける最初のポイントはいかに「Noticed Input(気づき)」を増やせるかという点にあります。気づきを増やすためには、無意識のインプットを増やすのではなく、意識したインプットを増やす必要があります。例えばリスニングのトレーニングを行っているときは、ただ無意識に聞き流しているだけよりも、聴こえてくる英語の一言ひとことにしっかりと注意を傾けながら集中してリスニングを行うほうがはるかに効率的なインプットが行えます。人は意識してインプットすることではじめて情報を短期記憶にとどめることができ、次の「理解する」というフェーズに移行することができます。
5. インプットした情報はしっかりと理解する
インプットした情報はその内容をしっかりと理解することが重要です。意識してリスニングをしていれば、意味が分からなかった箇所や聴き取れなかった箇所が明確になるはずです。それらを放置するのではなく、その都度スクリプトなどを見ながらしっかりと意味と構造の理解に努めましょう。また、インプットの理解には「意味」だけを把握している浅い理解と、文法などの構造も含めて把握している深い理解の2つがあります。聴き取れた単語と単語をつなげることで意味だけは取れているのが前者の状態で、そうではなく「a」や「the」の使い分けや複数形、単数形といった文法も含めて文の構造を正しく理解できており、聴き取った内容を自分で再現できる状態になっているのが後者の状態です。リスニングであれば、インプットした情報をこの深い理解の状態に到達するまで聞きこむことが重要です。
6. 理解した情報を検証する
深い理解に到達しているということは、すでにインプットした情報に対する仮説が立てられる状態になっているということです。ここまでいけば、次は自分が立てた仮説が正しいかどうかを検証するトレーニングを行います。リスニングであれば、聴こえた文章を復唱してみて、それを実際のスクリプトと見比べてみるといった方法です。実際に見比べてみると、「the」が抜けていたり、複数形を間違えていたりといった細かいミスに気づきます。こうしたギャップを把握し、解消できるようにトレーニングを重ねていくことで、徐々に自分の頭の中にある英語のデータベースがより正しい内容へと更新され、音、意味、スペル、構造の全てがしっかりと結びつくようになり、インプットした情報を自動的に正しく処理できるようになります。
まとめ
いかがでしょうか?英語学習においていかにインプットが重要であるかがよく分かるのではないかと思います。どんなに英語上級者であっても、インプットのトレーニングを継続することは必要不可欠です。英語を早く話せるようになりたいという方は、オンライン英会話などでアウトプット中心のトレーニングを積むよりも、まずはしっかりとインプットのトレーニングを行い、十分なアウトプットができるだけのベースを身につけることをおすすめします。
【参照サイト】外国語リスニングにおける話者映像提示の聴解促進効果
【参照書籍】英語学習のメカニズム: 第二言語習得研究にもとづく効果的な勉強法
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第二言語習得研究に基づいて効率的な英語学習をしたい方へ
第二言語習得について学べば学ぶほど、第二言語習得理論に基づく科学的なトレーニングで効率的に英語学習を進めたいと感じる方も多いのではないかと思います。そこで、ここでは第二言語習得に基づく英語学習プログラムを強みとしているおすすめのスクールをご紹介します。第二言語習得研究の成果がプログラムに落とし込まれたスクールで学びたいという方はぜひ参考にして下さい。
第二言語習得研究に基づく時短英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」
ENGLISH COMPANYは、大学受験予備校でも知られるスタディーハッカーが運営する、英語のパーソナルジムです。長期留学経験者や英語指導資格保有者などの英語指導のスペシャリストが専任のパーソナルトレーナーとして受講生の英語学習をサポートし、90日間で飛躍的な英語力向上を目指します。トレーニングは「第二言語習得研究」の科学的な知見をベースとしており、日本人が受験勉強などを通じて培ってきた英語力を引き出し、実践的な英語力へと転換することを重視しています。通学なしで受講できるオンラインコースや、文法に特化した初心者向けコース、アウトプットに特化した上級者向けコースなど、レベルやニーズ、予算に合わせて様々なスタイルの受講方法が用意されている点も魅力です。TOEICスコアを大幅アップさせた受講生も多数おり、2015年5月のサービス開始以降、姉妹サービスの「STRAIL」と合わせた受講生数はすでに16,000名を超えるなど実績も豊富なプログラムなので、3ヶ月で集中的に英語力を高めたいという方には大変おすすめできるサービスです。
ENGLISH COMPANYでは、実際のトレーニングを体感できる90分の無料体験授業が、校舎(スタジオ)とオンラインの両方で提供されています。
応用言語学理論に基づいた英語学習コンサルティング「PROGRIT」
プログリット(PROGRIT)は、世界で活躍できるグローバルリーダーの育成を目的としてマッキンゼーとリクルート出身のコンサルタントが設立した短期集中型のコンサルティングプログラムです。一人一人の課題に合わせたオーダーメイドのカリキュラムと専属コンサルタントによる毎日のフォロー、修了後の継続サポートにより月90時間の英語学習時間を確保し、世界に通用するビジネス英語力を一気に身につけます。「ビジネス英会話コース」「TOEIC®コース」「TOEFL iBT® / IELTS コース」「初級者コース」から選択可能で、目的に沿ったカリキュラムを受講可能です。2~3ヶ月間という短期集中で本気で英語と向き合い、ビジネス英語を一気に仕上げたいという方にとっておすすめのプログラムです。
SLA研究に基づく1年間1000時間の学習プログラム「TORAIZ(トライズ)」
トライズ(TORAIZ)は、トライオン株式会社が運営する英語コーチング・プログラムです。受講生一人ひとりの目標に合わせて学習内容やレッスン教材をカスタマイズし、専属コンサルタントとコーチが受講をサポートします。画一的なカリキュラムを当てはめるのではなく、徹底的に個別最適化されたトレーニングを導入することで即効性を高めているのが特徴です。1年間で1,000時間分の学習をこなす「英語コーチング本科」に加え、英語上級者を対象とした「ビジネス上級プログラム」や「英語プレゼン/学会発表コース」、2ヶ月間でスコアアップを目指す「TOEIC®対策プログラム」など、仕事で英語を使う社会人向けの短期集中コースを豊富に用意。受講開始1ヶ月以内で退会した場合の全額返金保証、コースごとの受講期間延長/スコアアップ保証も完備されています。受講満足度98.2%、継続率91.7%(※)というデータからは、多くの受講生がトライズのプログラムの充実度を評価していることが分かります。
※満足度:2021年10月に受講生942名を対象に実施した満足度調査の結果。
継続率:2018年7月~2021年1月に受講を開始した方(受講開始1ヶ月以内での全額返金者除く)のうち、途中退会していない受講生の割合。
「PCPPモデル」に基づく教材で学べるオンライン英会話「レアジョブ」
オンライン英会話業界でシェアNo.1を誇り、イード・アワード2017「英会話スクール」オンライン英会話部門でも最優秀賞に選ばれているレアジョブ英会話の「ビジネス英会話コース」では、「PCPPモデル」と呼ばれる第二言語習得研究に基づいた実践的なビジネス英語テキストに基づく英会話レッスンが受けられます。PCPPモデルは、提示(Presentation)・理解(Comprehension)・練習(Practice)・産出(Production)の流れでレッスンを行うことで着実なアウトプット力を身につける学習法です。 ビジネス英会話コースではレアジョブの全講師中、トップ5%の最優秀講師だけが担当するので、テキストはもちろん講師の質も非常に高く、短期間でビジネス英語力を高めたい方に大変おすすめできるオンライン英会話です。
第二言語習得論の第一人者・白井恭弘教授による監修!「スパトレ」
スパトレは、第二言語習得論や認知心理学、脳科学の最新研究結果を活用した科学的な英語トレーニングを、1回(25分)96円、月額2,980円(税抜)という料金でオンライン受講できるサービスです。授業内容は、第二言語習得論の第一人者である白井恭弘教授が監修しています。自習のステップで知識をインプットし、一人では難しい発音や理解度の確認などを外国人トレーナーと一緒に行うというスタイルなので、効率的に英語力を伸ばしていくことができます。スパトレのトレーナーは、採用率1%という関門を突破している人材で、さらに指導方法に関する研修も積んでいるため、受講者は質の高いトレーニングを受けることができます。「科学的なトレーニングで、知識を使える英語力に高めたい」という人におすすめのサービスです。
SLAの観点から効果的な学習方法を指導!ミライズ英会話「英語コーチングプラン」
ミライズ英会話では、受け放題のマンツーマンレッスン、学習進捗管理、担当トレーナーとの定期面談がセットになったオンライン完結型の「英語コーチングプラン」を提供しています。レッスンを担当するフィリピン人講師は、全員がTESOL(英語教授法)を学んだ英語指導のプロフェッショナル。さらに、日本人トレーナーが第二言語習得論の観点に立った効果的な学習方法をアドバイスし、一人ひとりの課題克服をサポートします。何度でも受けられるマンツーマンレッスンを活用することで、インプット学習だけでなく、英語のアウトプット練習もしっかりと実践できるコーチングサービスです。
5段階の習熟度別カリキュラムで着実にステップアップ!「24/7 English」
24/7 Englishは、最短2ヶ月間のマンツーマントレーニングで効率的に英会話力を鍛えるスクールです。英語学習における悩みや苦労をよく知るバイリンガルの日本人講師が、受講生に寄り添ってアドバイスを提供します。第二言語習得研究に基づいて開発された5段階の学習プログラムでは、習熟度別に取り組むべき具体的なカリキュラムを提示。ステップアップのために必要な学習時間の目安も示されているので、常に次の目標を意識しながらトレーニングができます。自分の英語レベルに適した内容に的を絞り、無駄なく学習を進めたいという方におすすめです。


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