第二言語習得において、インプットとアウトプットとではどちらがより重要なのでしょうか?「インプット仮説」で知られるスティーブン・クラッシェン氏は、理解可能なインプット(Comprehensible Input)を与え続けることのみが第二言語習得につながるとしました。このクラッシェン氏が唱えた「理解可能なインプット」の重要性を認めつつ、そのインプット効果は習得対象となる言語を相互の交流の中でアウトプットすることでより促進されると主張したのが、マイケル・H・ロング氏が提唱した「インタラクション仮説(相互交流仮説)」です。そこで、ここではインタラクション仮説について詳しくご紹介していきます。
マイケル・H・ロング(Michael H. Long)とは?
インタラクション仮説を提唱したマイケル・H・ロング氏はアメリカの言語学者です。バーミンガム大学を卒業後にロンドン大学で第二言語としての英語について学び、その後はエセックス大学で応用言語学の修士課程、UCLAで応用言語学の博士課程を修了し、現在はメリーランド大学カレッジパークの教授を務めています。ロング氏は1991年に「フォーカス・オン・フォーム」と呼ばれる、コミュニケーションや意味理解を中心とする活動のなかで語彙や文法構造などの言語形式に注意の焦点を向けさせるという新たな指導概念を提唱したことでも知られています。
ロング氏は、第二言語習得において相互交流が重要だという考え方を1980年代初頭から提唱しており、1996年に公表した”The role of the linguistic environment in second language acquisition.”により広く認められるようになりました。相互交流を重視するロング氏の「インタラクション仮説」は言語教育の指導法とも結びつき、一方的に言語形式を伝えるだけの授業形式ではなく相互の交流が必要となるタスクベースの指導法が広まるなど、言語教育の現場においても大きな影響を与えています。
インタラクション仮説とは?
ロング氏が唱えた「インタラクション仮説(相互交流仮説)」とは、第二言語習得は対象言語を用いたフェイスtoフェイスの相互交流によって促進されるとする仮説です。ロング氏は、クラッシェン氏が唱えた「インプット仮説」と同様に「理解可能なインプット(comprehensible input)」は第二言語習得において重要だとしましたが、それに加えてこの「理解可能なインプット」の効果は学習者が「negotiate for meaning(意味の交渉)」をしなければいけない環境に置かれることでさらに大きく促進されると主張しました。
「negotiate for meaning」とは、分かりやすく説明すると、誰かと第二言語で対話をしている最中に片方の言ったことが相手に伝わらなかったとき、お互いに言い換えをしたり話す速度を緩めたりして意味を理解しようと努力(交渉)することを指します。この「negotiate for meaning」は「インタラクション仮説」において重要な概念であり、ロング氏は相互交流のなかでお互いに理解しようと努力することで生まれる様々なコミュニケーション戦略が、理解可能なインプットの効果を増大させると主張しました。
また、相互交流の中で学習者はしばしば対話者からネガティブなフィードバックを受けることがあります。これには、自分の言葉が相手に伝わらなかったり、相手が理解できなかったときに言葉や形式を正してもらったりといったフィードバックが含まれます。これらのフィードバックにより、学習者は自身がまだ完全に習得できていない文法や言葉などを認識することができ、学習者は対話者からより多くのインプットを得ることもできます。
さらに、相手の言うことが理解をできなかったときは会話を止めたり、ゆっくり話したりしてもらうことで、インプットに時間をより多くの時間をかけることができ、結果として新しい言語形式がよりよく理解できるようになります。そして、こうした相互交流のおかげで学習者は自分が持っている知識と実際の会話で聞こえてくる言語との差に気づくことができるというのがロング氏の考えです。
まとめ
いかがでしょうか。ロング氏の主張は、相手との対話の中で得られるフィードバックや新たなインプット、気付きが第二言語習得を促進するという意味でインプットとアウトプットの両方の重要性を認めています。
このインタラクション仮説は実際の英語学習者の視点から見てもかなり納得感のあるものではないでしょうか?インプットが重要であることは間違いありませんが、実際にその知識をリアルな英会話の中で実践し、「自分の英語が伝わらない」「相手の言っていることが理解できない」という経験を積むことで、発音、文法、単語など自分の英語の何が原因で相手に正しく意味が伝わっていないのかがより明確になります。また、自分が間違った英語を言ったときに、相手に尋ね直してもらったり、正しい英語で言い直してもらったり(リキャスト)することで、それ自体が新たなインプットとなり、新たな言語習得にもつながります。
対象言語による相互交流を重視するインタラクション仮説は言語指導の現場にも影響を与えており、教科書などで一方的に文法などを教授する指導ではなく、学習者にタスクを課し、相互交流が必要な状態を作り出すことで学ばせるタスクベースの指導方法など、第二言語習得を促進する教授法にも活かされています。
インタラクション仮説を実際の英語学習に当てはめるうえで重要なことは、ただ単に相互交流の機会を増やせばよいということではありません。ロング氏も主張するように相互交流以前にインプットは重要であり、十分なインプットがないままに英会話のトレーニングだけを続けているのは効率的とは言えません。また、せっかく英会話によって相手からネガティブなフィードバックが得られたり、自身の英語の足りない点(文法、発音、単語など)が明確になったりしたとしても、それを次のインプットやアウトプットに活かさなければ意味はありません。英会話スクールやオンライン英会話で対話のトレーニングをするときは、ぜひそのことを意識して取り組むようにしましょう。
【参照サイト】Interaction hypothesis
【参照サイト】Michael H Long -University of Meryland
【参照サイト】Michael Long (academic)
【参照サイト】An Introduction to Conversational Interaction and Second Language
Acquisition
English Hub 編集部
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