英語学習者は必見。第二言語習得に必要な4つのプロセスとは?

英語を学んでいる方であれば誰しもが「一日でも早く英語を話せるようになりたい」と考えていると思いますが、それでは実際に人間はどのようなプロセスを踏むことで母国語以外の言葉を話せるようになるのかについて一度でもしっかり考えたことがあるという方はどれだけいるでしょうか?

人間が第二言語を習得するプロセスについてしっかりと理解することができれば、ただがむしゃらに勉強するよりも効率的に英語を習得できるようになります。そこで、今回は第二言語習得のプロセスについてご紹介したいと思います。

第二言語習得における4つのプロセス

第二言語習得のプロセスにおける研究は数多くありますが、その中でも代表的なのがミシガン州立大学の名誉教授で第二言語習得の専門家として知られるSusan M. Gass(1997, 2013)が提唱したモデルです。

Gassは、第二言語の学習者がインプットをアウトプットに転換できるようになるまでの間には「Noticed Input(気づき)」→「Comprehended Input(理解)」→「Intake(内在化)」→「Integration(統合)」という4つのプロセスがあるとしています。

<インプット(Input)>
 ↓
1. 気づき(Noticed Input)
 ↓
2. 理解(Comprehended Input)
 ↓
3. 内在化(Intake)
 ↓
4. 統合(Integration)
 ↓
<アウトプット(Output)>

まずここで大前提として理解すべき点は、「人はインプットなしにアウトプットすることができない」ということです。また、インプットがあったとしてもその後の「気づき」→「理解」→「内在化」→「統合」というプロセスを通じてはじめてアウトプットができるようになるため、そのプロセスのどこかに課題があれば、当然ながらインプット量に対するアウトプット可能な量は減っていくということになります。つまり、学習効率がよくないということです。

そのため、第二言語習得のプロセスに基づくと、アウトプットの力を高めるためにはこの4つのプロセスのどこに課題があるのかを特定し、その課題に対応したトレーニングを強化することが重要であることが分かります。そこで、ここでは各プロセスの詳細について見ていきます。

1. 気づき(Noticed Input)

最初のステージは「気づき」です。人は毎日無意識のうちに大量の情報をインプットしていますが、そのすべてを記憶しているわけではありません。例えばリスニング練習の一環として英語のラジオを聞いていても、つい意識が違うところにいってしまい、気づくと話の内容が何も頭に残っていなかったということはよくあります。これは英語が単に「聞こえている(Hearing)」状態であって、「聴いている(Listening)」状態ではありません。

第二言語習得を効率的に行うためには、まずはこの無意識のインプットの状態から、学習対象にしっかりと注意を向けて意識的にインプットを行う必要があります。人は注意を向けることではじめて「気づき(Noticed Input)」が生まれ、気づきにより知覚された情報は「短期記憶」として保持されます。

2. 理解(Comprehended Input)

短期記憶に保持されたインプットは、次のプロセスで「理解(Comprehended Input)」へと進みます。Gassは細かく分けるとこの理解にも二段階があるとしており、一段階目は単に情報の意味だけを理解している状態で、二段階目はその情報の形式や機能といった構造までしっかりと理解している状態となります。

例えば、英語でラジオを聞いているとき、一定のリスニング力さえあれば、一字一句の細かい文法までは分からなくても単語ベースの聴き取りだけで何を話しているか大体の意味を掴むことはできます。これが一段階目の浅い理解です。

しかし、実際に聴いた内容を説明してくださいと言われると、この単語には「the」と「a」のどちらをつけるべきなのか、単数形と複数形のどちらを使えばよいのか、など言葉の形式や機能までより深いレベルで理解していなければ対応することができません。この深いレベルまで理解が到達していると、学習者はインプットした情報の全てを正確に把握することができていなくても、仮説が立てられるようになります。

例えばアメリカのドラッグストアなどで買い物をすると、レジで店員から「Do you want a bag?(レジ袋は必要ですか?)」と聞かれることがあります。店員からネイティブスピードでこの言葉を言われると、英語のリスニングに自信がある人でも最初は「ジュワナバッ?」ぐらいにしか聞こえず、「???」となってしまいます。

しかし、何度も買い物をしてそのたびに同じようなやり取りを繰り返すことで、たとえ訛りが強い店員にあたってしまい、全てを正確に聞き取ることができなくても、レジで会計をしているというシーンと断片的に聞こえてきた音から推測することで、今は「Do you want a bag?」と聞かれたのだな、と仮説を立てられるようになります。このような認知プロセスは「仮説形成(Hypothesis formulation)」と呼ばれています。

3. 内在化(Intake)

次のプロセスは「内在化」です。内在化は、理解したインプットを自分自身の中間言語(母語と習得対象言語との中間にある学習過程の言語)へと取り込むプロセスとなります。内在化においては、すでに習得している中間言語と、新しくインプットされた情報との間で比較を行います。これは、理解(Comprehended Input)のプロセスにおいて立てられるようになった仮説を検証する作業(Hypothesis testing)となります。

例えば先ほどのレジの例でいえば、仮に相手の言ったことがはっきりとは聴き取れなかったとしても、断片的な音を頼りに「Do you want a bag?」と訊かれたのだと仮説を立てて、それに対して「Yes, please」と答えることができます。結果として店員がしっかりと商品をレジ袋に入れてくれれば、自分の仮説は正しかったと検証することができます。こうしたプロセスを通じて、人はインプットを内在化していくことができます。

4. 統合(Integration)

最後の「統合」のフェーズでは、取り込んだ情報を「長期記憶」に保持します。気づきの段階で「短期記憶」しただけの情報は、理解し、内在化しないとすぐに忘れてしまいます。しかし、新たなインプットを深く理解し、内在化を通じて自分の中間言語体系を新たに再構築することで、人はその情報を自動的に処理できるようになり、瞬間的に使いこなせるようになります。

先ほどのレジの例でいえば、「今店員は何と言ったのか?」と考えたり仮説を立てたりする必要なく、瞬間的に「Yes, please」と回答できる状態です。インプットされた情報はこの統合フェーズで「長期記憶」に保持されることではじめてアウトプットに活用できるようになります。言い換えれば、アウトプット力を高めるとは、長期記憶に保持される量を増やすということでもあります。

第二言語習得プロセスに基づくトレーニング

いかがでしょうか。人間が第二言語をインプットからアウトプットに転換するまでには上記で説明したように4つのプロセスが存在しており、そのプロセスごとに最終的にアウトプット可能な量は掛け算のように減っていきます。

イメージとしては、仮に最初のインプット量が1だとすると、最終的にアウトプットに活用できる量は 1(インプット)× 0.8(気づき)× 0.8(理解)× 0.8(内在化)= 0.5(統合)と減っていくような感覚です。つまり、第二言語を効率的に習得するためには、インプットの量を増やしつつ、各プロセスの掛け算もできるかぎり高める必要があるということです。具体的には、プロセスごとに下記の点を意識する必要があります。

  1. インプット量を増やす
  2. 意識を集中させる
  3. 理解可能なインプットを増やす
  4. 仮説検証の機会を増やす

まずはじめに必要なことは、インプット量を増やすということです。インプット量が10倍であれば、その後のプロセスが同じ効率だったとしてもアウトプットできる量は10倍増えることになります。また、インプットをするときは、できる限り意識を向けて「気づき」があるインプットにすることが重要です。例えばリスニングのトレーニングをするときは、ただ漫然と聞き流すのではなく、音声にしっかりと意識を傾けることが重要です。

そして、次の「理解」のフェーズではクラッシェンが唱えた「インプット仮説」が参考になります。クラッシェンは、インプットにおいては自分の言語習得レベルよりも僅かに高いレベルの「理解可能なインプット(Comprehensible Input)」が重要だとしました。自分の理解レベルをはるかに超えた難解なリーディング教材やリスニング教材を利用するよりも、少しだけ難しいと感じるレベルの教材を利用したほうが、より効率的に「理解」が進むということです。逆に、新たにインプットすべき内容がない簡単すぎる教材を使っていても効率はよくありません。インプットにおいては自分のレベルに合った教材を選ぶことがとても重要になります。

そして、深めた「理解」を「内在化」するうえでは、ロングが唱えた「インタラクション仮説」が参考になります。ロングは、クラッシェンの「理解可能なインプット」は、対話者と相互に交流し「自分の言葉が伝わらなかった」「自分の意図と異なる意味で理解された」などのフィードバックを得ることでより促進されると唱えました。

これは、相手からのフィードバックを受けることで、自分の中にある中間言語と、目標とする第二言語との間にあるギャップに気づきやすくなるためです。この「インタラクション仮説」に従えば、内在化プロセスを強化するためには、インプットだけではなくインプットにより形成された仮説を検証できる機会を増やすことが有効であることが分かります。

逆に、せっかく理解を深めたとしてもこの「内在化」のプロセスが不十分だと、せっかくインプットした情報を「統合」し、「長期記憶」に保持することができず、アウトプットに活用することはできません。

まとめ

いかがでしょうか?上記をまとめると、第二言語習得においては「理解可能な教材を通じてできるかぎりインプットを増やし、学んだ内容をしっかりと試すこと」が重要だということが分かります。これらは一見当たり前のようにも聞こえますが、上記のプロセスに沿って今の自分の英語学習にはどのプロセスが最も欠けているのかを見直すことで、より学習効率を上げるためのヒントが見つかるはずです。ぜひ第二言語習得のプロセスを意識して英語学習に取り組みましょう。

【参照サイト】Susan Gass
【参照サイト】Second Language Acquisition: An Introductory Course

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English Hub 編集部

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