英語学習を始める際、まず気になるのが、「どれくらいの時間をかければ英語を話せるようになるのか」という点です。目安となる学習時間の基準があれば、具体的な勉強計画を立て、より積極的に英語力の向上に取り組む後押しにもなります。
この記事では、英会話の上達のために必要な学習時間の目安について掘り下げて解説します。
「英語を話せる」とはそもそもどんなレベル?
英語学習のゴールに関して、「英語がペラペラになりたい」「ネイティブスピーカーのように英語を話したい」などという表現をよく耳にします。
長期的な目標としてこのような理想を掲げることは有効な動機付けとなり得ますが、特に英語学習をはじめたばかりの初心者の目標としてはハードルが高すぎるうえ、内容の具体性にも欠けています。
目標設定においては、スキルアップにつながる具体的な指針となり、かつ達成可能なものを選ぶことが重要です。
現実的に考えてみると、日常英会話の場面で求められる英語力は、必ずしもネイティブスピーカーと同等のレベルである必要はないでしょう。むしろ、自らの発言の中で文法的な誤りがあったとしても、その場に応じたコミュニケーションの目的が達成できれば問題ない、という場面も多くあります。
また、相手の話の詳細な部分まですべて正確に聞き取れなかった場合でも、発言の主要なポイントを理解したうえで適切な質問を投げかけることで、スムーズな意思疎通は十分に可能です。
このようなレベルまで英語力を高められれば、多くの人は「英語を話せるようになった」という実感と自信を得られるはずです。
英語母語話者と同等の言語力には達していなくとも、日常生活やビジネスシーンなどの幅広い場面で英語を使ってコミュニケーションが取れる程度の英語力は、言語運用能力指標のCEFR(セファール)でいうB2レベルが目安となるでしょう。
まず目標にしたいCEFR B2レベルの英語力
CEFR(セファール)は、言語の習熟度を6段階(A1、A2、B1、B2、C1、C2)で評価する国際的な指標です。最難関のC2レベルは、母語話者と同等程度の言語の熟達度と考えられており、B2は上から3番目のランクにあたります。
CEFRでは、B2レベルの語学力を持つ人が「学習言語を使ってできること」について、下記の通り具体的に示しています。
自分の専門分野の技術的な議論も含めて、抽象的な話題でも具体的な話題でも、複雑な文章の主要な内容を理解できる。母語話者とはお互いに緊張しないで普通にやり取りができるくらい流暢かつ自然である。幅広い話題について、明確で詳細な文章を作ることができる。
CEFRでA1~A2レベルに達するために必要な英語の基礎は、小学校から高校までの授業ですでに多くの人が学んでいます。
2017年度に文部科学省が実施した英語力調査によると、全国の高校3年生約1万人が受験したスピーキング試験の結果、CEFR A1レベルのスピーキング力を持っていると評価された生徒の割合は87.2%、A2レベルは11.7%でした(※)。
つまり、高校までの学校教育で英語を学んだ人たちの多くは、すでにA1~A2レベルのスピーキング力を持っており、そこからB2レベルに達するまで2~3段階のランクアップが必要であることがわかります。
※参照:文部科学省|平成29年度 英語力調査結果(高校3年生)
CEFR B2レベル到達に必要な学習時間の目安
CEFRレベルごとの必要学習時間の推定
ケンブリッジ大学英語検定機構では、CEFRの各レベルに達するまでに必要な学習時間の目安を下記のように推定しています。
CEFR Level | Guided Learning Hours |
C2 | Approximately 1,000-1,200 |
C1 | Approximately 700-800 |
B2 | Approximately 500-600 |
B1 | Approximately 350-400 |
A2 | Approximately 180-200 |
A1 | Approximately 90-100 |
ここでいう“Guided learning hours”とは、英語レッスンの受講に加え、与えられた課題などに取り組むために使う時間を指します。
この表に基づくと、現在A1レベルの英語力を持っている人がB2レベルに達するには、およそ400~500時間程度の学習時間が必要となります。
ただし、言語の習得にかかる時間は個人の状況によって大きく異なる可能性があり、この推定はあくまでも一つの目安です。実際に必要な時間を見積もる際は、言語習得のプロセスに影響を与えるその他の数多くの要素についても考慮する必要があります。
言語習得のスピードに影響を与える要素
言語習得のスピードに大きな影響を与える要素の一つとして、言語間距離の概念が挙げられます。言語間距離とは、複数の言語を比較した際の違いの程度を指し、母語と学習対象言語の言語間距離が大きいほど習得の難易度が高くなるといわれています。
米国国務省の外交官養成機関であるFSI(Foreign Service Institute)は、日本語を英語から最も「距離の遠い」言語の一つとしてカテゴライズしています。
FSIの研究によると、英語を母語とする人が日本語を習得するまでの必要学習時間(※注1)は、およそ2,200時間です。一方、英語と言語間距離が近いオランダ語の場合は、約600時間での習得も可能とされており、母語と学習言語の組み合わせによって必要な学習時間に大きな差が生じることがわかります。
日本語を母語とする人が英語を学ぶ際は、言語間距離の大きさに起因する習得の難しさが加わります。前述した、CEFRのA1からB2レベルに達するまでの推定時間についても、言語間距離の影響を考慮し、約400~500時間という目安にさらに追加の時間を加味する必要があるでしょう。
※参照:U.S. Department of State|Foreign Language Training
英語習得の効率アップのために学習者自身ができること
言語間距離のほかにも、学習環境や過去に別の外国語を学んだ経験など、英語力の向上に影響を与える要素は数多く存在します。そのなかでも、英語習得の効率を高めるために学習者自身がコントロールできることとはなんでしょうか。
ここでは、学習量、学びの質、継続力という3つの観点から、具体的な戦略について紹介します。
1. 費用を抑えながら学習量を最大化する
オンライン英会話サービスの活用
英語学習にかかる費用をできるだけ低く抑えたいなら、オンライン英会話レッスンの受講と自主学習を組み合わせて学習量の最大化にコミットする方法がおすすめです。
オンライン英会話サービスは通学型のスクールと比べて料金が安く、場所や時間を問わずいつでも受講できる点が大きな魅力です。なかには月額料金を支払うことでレッスンが受け放題となるサービスもあるなど、英会話の機会を集中的に確保したい方に特に適しています。
ただし、オンライン英会話のレッスンは1回あたり25分間が一般的であり、レベルアップに必要な数百~千時間ほどの学習時間をクリアするには、毎日1~2回受講したとしても数年単位で時間がかかります。
そのため、レッスンの受講のみで必要な学習時間を満たそうとするのではなく、レッスン外での自主学習も継続し、スピーキング練習と座学をバランスよく取り入れながら学習量を増やしていくとよいでしょう。
- こんな人におすすめ
・英語学習にかかる費用をできるだけ抑えたい人
・多くの英会話レッスンを受けるための時間的投資を惜しまない人
2. 英語学習のプロフェッショナルの指導を受けながら学びの質を高める
英語コーチングスクールの受講
複数の教育・研究機関が語学力のレベルアップのために必要な学習時間の目安を示していますが、学びの質を高める工夫によって学習効果を最大限に高めることで、より短い時間での英語の習得も可能と考えられます。
そのためには、画一化されたカリキュラムを順番にこなしていくのではなく、苦手分野の分析と克服に重きを置いたうえで、「今の自分にとって本当に必要なこと」にピンポイントでアプローチする方法が効果的です。
学習者の英語力に対する分析力の高さと課題解決のための豊富なノウハウを強みとする英語コーチングスクールでは、英語習得に関する専門知識を持ったプロのコーチやコンサルタントが学習者にアドバイスを提供します。
オンライン英会話や通学型の英会話スクールと比べて受講料金は高いですが、一人ひとりに適したトレーニング方法の提案や、学習の進捗管理、定期的な英語レベル診断なども含めた手厚いサポートを受けることができ、学びの質を最大限高めるための仕組みが整っています。
- こんな人におすすめ
・英語教育のプロフェッショナルによる指導の下で、明確な戦略を持って学習を進めたい人
・一定期間、英語学習の優先度を高めてコミットする意欲がある人
3. 英語を学ぶ動機づけを強化して継続力を高める
英語試験や海外留学への挑戦
「何をやってもなかなか続かない」という方は、学習メソッドそのものだけでなく、英語学習の優先順位を高める方法についても考える必要があります。
比較的取り組みやすいのは、英語試験に申し込み、「この日までに勉強をしなければいけない」という期限を決めてしまうやり方です。途中で試験を受けること自体を断念したり、まったく準備をしないまま試験に臨んだりするのは、受験料が無駄になるという意味で誰しも避けたいものです。定期的に英語試験にチャレンジすれば、具体的な目標なしで学習に取り組むより、「何としても勉強しなければ」と自分自身を奮い立たせやすいでしょう。
また、費用と時間を工面できる場合は、語学留学を通じて「どうしても英語が必要な環境」に飛び込んでみるのも一つの手です。数週間~数ヶ月単位の短期間だったとしても、海外で生活をする中では、英語でのコミュニケーションは避けられません。
このように、英語学習が必要となる状況を自ら作る工夫も大切です。
- こんな人におすすめ
・何かを継続することに対しての苦手意識が大きい人
・期限を決めて自分を追い込むことで力を発揮できるタイプの人
個人間の差異はあれど、一定の習熟度に達するために必要な学習時間の目安があるということは、学習者のモチベーションを後押しする要素の一つになるのではないでしょうか。
行く先がわからないまま努力を続けるのは難しいものですが、目標とする学習時間を定めたうえで勉強に臨めば、その過程の中で着実にゴールに近づいている実感が得られるはずです。
学習者自身が工夫次第でコントロールできる3つの要素についての考え方も参考にしながら、ぜひ自分に合った学習戦略を立ててみてください。
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