「なぜ日本人はこんなに英語が苦手なのか?」英語学習に苦労している方であれば、一度はこのような疑問を持ったことがあるという方もいるのではないでしょうか。確かに、日本には中学・高校・大学と真面目に英語を学んできたにも関わらず、全く英会話ができないという人は少なくありません。なぜ、日本人はこれほどまでに英語に苦手意識を持ち、誰もが苦労しているのでしょうか。ここでは、第二言語習得研究の観点から、なぜ日本人は英語が苦手なのかについて解説したいと思います。
そもそも本当に日本人は英語が苦手なのか?
日本人が英語を苦手とする理由について考える前に、まず明確にしておくべきことがあります。それは、「そもそも本当に日本人は英語が苦手なのか」という問いです。ここでは、日本と海外との比較を基に、日本人の英語力について見てみます。
日本人のビジネス英語力は?Business English Index(BEI)
まずは、米国カルフォルニアに拠点を置くGlobal English社が公表しているBusiness English Index(BEI)と呼ばれるビジネス英語力に関する国際指標の調査結果を見てみましょう。このBEIは世界78ヶ国、13万人以上を対象に各国の人々のビジネス英語力を調査したもので、日本も参加しています。
(出所:Heightened Urgency for Business English in an Increasingly Global Workforce)
BEIでは、ビジネス英語力をBEGINER(1~3)、BASIC(4~6)、INTERMEDIATE(7~8)、ADVANCED(9~10)の10段階に区分しているのですが、下記2013年の調査結果を見てみると、日本は10段階中4.29で、全体のうち下位に属しています。アジア諸国の数値を見てみると、中国が5.03、台湾が5.08、韓国が5.28、香港が5.39となっており、隣国の中では日本が一番低くなっています。そして、最近はオンライン英会話の講師や語学留学先としても人気が高いフィリピンは7.95と、シンガポールやインド、北欧諸国といった英語教育の先進国を抑えて堂々の1位に輝いています。なお、アメリカやイギリスなど英語を母国語とする国のBEIが低いのは、これらの国には移民をはじめとしてネイティブスピーカーではない人々も含まれているためです。
アジアでは下から4番目!?日本のTOEFL平均スコア
続いて、英語力に関する代表的な国際指標の一つ、TOEFL iBTのスコアについても見てみましょう。下記は、TOEFLが公表している2015年の各国別のスコア平均のうち、アジア諸国のデータのみに絞ったものとなります。少し分かりづらいですが、5列あるスコアのうち、左からリーディング、リスニング、スピーキング、ライティングとなり、一番右端が合計スコアとなります。合計スコアを比較してみると、日本は71で、ラオス、タジキスタン、アフガニスタンに次いで下から4番目となっています。
(出所:Test and Score Data Summary for TOEFL iBT® Tests(January 2015– December 2015 Test Data)
TOEFLの平均スコアは、各国ごとにテストを受けている母集団が異なるのだから単純な比較は意味がないという見方もありますが、少なくとも日本でTOEFLテストを受験している層のメインは海外留学を希望する大学生かMBA留学を目指している社会人だと思われますので、日本人全体を母集団としたときよりはかなりハイレベルの母集団となっているといえます。そのハイレベルの母集団ですらアジアでは下から4番目というのはなかなか厳しい現実です。
上記のようにBEIとTOEFL iBTの国別比較を見てみると、確かに「日本人は英語が苦手」だというのは事実と言ってもよいでしょう。なぜ日本人はここまで英語が苦手なのでしょうか。次は、第二言語習得研究の観点から、その理由について説明していきます。
第二言語習得研究から考える、日本人は英語が苦手な3つの理由
第二言語習得研究の観点からは、日本人が英語を苦手とする理由として主に下記の3つが考えられます。
- 日本語と英語の言語間距離
- 英語学習に対する動機付け
- インプット・アウトプット機会の少なさ
それぞれのポイントについて詳しく説明していきます。
1. 日本語と英語の言語間距離
日本人が英語を苦手とする理由として第二言語習得の観点から最もよく語られることが多いのは、ずばり「日本語」と「英語」は言語としてあまりかけ離れているから、という理由です。専門的には「言語間距離」が遠いという表現をします。日本語と英語とでは、文字(かな・カナ・漢字とアルファベット)、発音の仕方、文構造に至るまであらゆることが異なります。
例えば、日本語はいわゆる「SOV型(主語+目的語+動詞):私は+英語を+学ぶ」の文型をとりますが、英語では「SVO型(主語+動詞+目的語):私は+学ぶ+英語を」といったように目的語の前に動詞が来ます。この語順は言語によってそれぞれ規則があり、例えば欧州の言語ではフランス語、イタリア語、スペイン語などは全てSVO型ですが、ドイツ語はSOV型となります。世界的に見てもSOV型の言語はSVO型の言語よりも数が少なくなっています。
また、日本語と英語では言語を発するときの舌の使い方、発音の仕方が異なるため、LとRの発音の違いが聞き取れないといった日本人特有の問題も起こります。さらに、言語はその裏にある文化的背景や社会的背景も強く影響されますが、その点でも日本と英語圏では違いが大きく存在しています。
この日本語と英語の言語間距離については、アメリカ国務省機関のFSI(Foreign Service Institute:外務職員局)が1985年に公表したデータも参考になります。FSIがまとめた、英語を母語とする者にとっての各言語の習得難易度を三段階で分類した表によると、日本語は最も難易度が高いカテゴリー3(ネイティブ英語話者にとって習得がとても難しい言語/88週間・2200時間の授業が必要/学習時間の半分をその国で過ごすことが望ましい)に属しており、さらに日本語はカテゴリー3に属する中国語や韓国語といった言語の中でも最も習得が難しい言語とされています。
このように、日本語と英語はそもそも言語としての距離が遠いので、日本人は他国の人々と比較して英語習得のハードルが高いのです。そのため、日本人が英語を習得しようと思った場合、英語と言語間距離が近い欧州諸国の学習者よりも、より時間をかける必要があるということです。また、逆に日本語と言語間距離が近い韓国語や中国語などは英語よりも習得がしやすい傾向があります。
2. 英語学習に対する動機付け
日本人が英語を苦手とする二つ目の理由は、日本人は英語学習に対する動機付けが弱いというものです。第二言語習得と動機付けに関する先駆的な研究としては、ウエスタン・オンタリオ大学教授のガードナー氏らによる研究が挙げられます。ガードナーらは、英語学習者の英語を学びたいという志向は「Integrative(統合的な動機付け)」と「Instrumental(道具的な動機付け)」の2つに分類できるとしました。
統合的な動機付けとは、学習対象となる言語の話者の文化や言葉を理解し、その文化に親しみたいという欲求から来る動機付けとなります。例えば大好きなハリウッド女優が話している英語を理解したい、韓国ドラマが好きなので韓国語を覚えたい、といった動機づけです。それに対して道具的な動機付けとは、よりよい報酬や仕事を得るため、入学試験に通過するため、といった動機付けのことを指します。つまり、英語は何か違う目的を達成するための「道具」であるという動機付けです。このいずれの動機付けが優れているかについては議論が分かれるところもありますが、一つ言えるのは、日本人はこの英語学習に対する動機付けがいずれも弱いという点です。
例えば、日本で暮らしている限り、街を歩いていてもテレビを見ていても英語を話す人に出会うことはほとんどありません。これは、日本人は統合的な動機付けが起こりにくい環境で暮らしているということです。また、日本においてはこれまでは英語が話せなくても就職で困るということはありませんでしたし、その逆に英語が話せることで大きく得をするということもありませんでした。道具的な動機付けも弱い状況だったのです。分かりやすく言えば、「日本人が英語を苦手としているのは、英語を学びたいと思う機会も学ぶ必要もなかったから」ということです。
しかし、この動機付けについては徐々に状況は変わり始めています。まず、最近では日本を訪れる外国人観光客の数は急激に増加しており、特に東京や大阪などの都市部では日本人が外国人と接する機会はかつてないほどに増えています。また、ビジネスの現場においてもグローバル化に伴い社員に英語力を求める企業は確実に増えており、業界や職種によっては英語力が報酬やキャリアに大きく影響する時代が到来しています。
3. インプット・アウトプット機会の少なさ
最後の理由は2つ目の理由にも通じる話ですが、日本で生活している限り、英語を「読む」「聞く」といったインプット、そして「書く」「話す」といったアウトプットをする機会が非常に少ないため、結果として英語の学習効率が上がらないという理由が挙げられます。これも当たり前の話なのですが、シンプルに言えば「トレーニングが足りないから使えない」のです。
第二言語習得研究では、言語習得においては「インプット」が非常に重要な役割を果たすということが分かっています。十分なインプットをしないまま少ない単語やボキャブラリー、文法知識、間違った発音などで闇雲に「書く」「話す」といったアウトプットの練習をしていても、一向に英語は上達しないのです。
一方で、第二言語を習得するためにはインプットだけでは十分ではなく、アウトプットも重要だと考えられています。これは、日本人の両親が海外で子供を育てた場合などによく見られる「受容性バイリンガル」という現象で説明されることがあります。「受容性バイリンガル」とは日本人の両親が海外で子供を育てる際などによく起こる現象で、自宅では両親と日本語で会話し、学校などの外では一日の大半を英語で会話して過ごすという環境で生活した子供が、両親からの日本語の質問に英語で返事をするようになり、両親の話す日本語は理解できるが、日本語を話すことはできないという状況になってしまう現象のことを指します。
この受容性バイリンガルの現象から分かることは、インプットは第二言語習得には不可欠だがそれだけでは十分ではなく、合わせてアウトプットをする必要もあるということです。アウトプットをすることで、「単語を知っているのに出てこない」「時制に関する知識はあるのに、いざ話すと間違えてしまう」といった形で自分の持っている知識と実際にアウトプットできる知識とのギャップに気づくことができます。また、アウトプットの必要性に駆られることで、必然的にインプットの質も上がります。これは、ただテレビを見てリスニングするだけの場合と、話を聞いた後に返答が求められるシーンでのリスニングでは、傾聴時の集中力が大きく変わってくることを考えれば実感値としても分かるのではないでしょうか。
日本人の場合、そもそも日常生活のなかで英語に触れる機会は非常に少ないため、インプット量も足りない上に、インプットした知識を声や文字として正しく引き出すためのアウトプットのトレーニングも圧倒的に足りていないため、必然的に英語を習得するのは難しいのです。
しかし、日本の場合は一般的に中学・高校などの英語教育では文法・単語・リーディング・リスニングといったインプット中心の学習を行っているため、学生時代にしっかりと英語の勉強に真面目に取り組んできた方であれば、既に一定程度のインプットは完了しています。そうした方の場合にはインプットに取り組むよりも、アウトプットのトレーニングを重点的に行うことで、より効率的に英語が習得できるようになる可能性があります。
まとめ
いかがでしょうか。第二言語習得の観点から考えると、日本人が英語を苦手とする理由はシンプルに言えば「英語と日本語は違いすぎる」「英語を学ぶインセンティブがない」「英語をインプット・アウトプットする機会が少ない」という3つに集約することができます。このうち、一つ目についてはどうしようもありませんので、他国の学習者以上に時間をかけて努力する以外に方法はありません。しかし、逆に2つ目、3つ目の理由については自ら意識的に環境を整えていくことで英語の学習効率を高めることができます。いずれの理由も当然といえば当然のことなのですが、まずはその「当たり前」の事実をしっかりと認識するところが、効率的な英語学習の出発点となります。ぜひ覚えておきましょう。
English Hub 編集部
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