「英語の発音に自信がある」と言い切れる学習者は、多くはないでしょう。発音に課題があると、聞き手に意図がスムーズに伝わりづらくなります。また、発音に自信が持てないと、英語を話すこと自体に消極的になってしまう人もいるかもしれません。今回は、スピーキング力だけでなくリスニング力にも影響を及ぼす「音声化」スキルについてご紹介します。
音声化とは?
スピーキングのプロセスには「概念化」と「文章化」に続き、「音声化」と呼ばれるものがあります。「音声化」は、言いたい内容を基に単語や文法知識を用いて作った文章を、実際に声に出して発話するプロセスにあたります。
- 概念化:言いたいことを思い浮かべる
- 文章化:単語や文法知識を用いて文章を作る
- 音声化:作った文章を声に出して発話する
日本人学習者が抱える「音声化」の課題
「概念化」のプロセスで価値ある内容を思いつき、続く「文章化」の段階で正しく文を組み立てられたとしても、最後の「音声化」に問題があると、それだけで聞き手に思いが伝わらなくなってしまうこともあります。ここからは、音声化に関して多くの日本人学習者に共通する課題をみていきましょう。
1. 余計な母音をつけてしまう
1つ目の課題としては、英語を発音するときに「余計な母音をつけてしまう」ということが挙げられます。
大学で教鞭を執り、英語学習に関する書籍も多数執筆している野中泉氏は、著書『英語舌のつくり方 ――じつはネイティブはこう発音していた! (CD book)』の中で、「余計な母音の追加」を日本人が英語を話すときの最大の欠点として挙げ、その弊害を以下のように述べています。
余計な母音を加えると意味が通じなくなり、リズム感も損なわれ、英語らしくなくなる、と百害あって一利なしです。
オンライン予備校「スタディサプリ」での「神授業」などで知られる関正生氏も、「余分な母音を入れずに子音だけで発音すると、各段に英語らしくなります」と、著書『CD付 世界一わかりやすい 英語の発音の授業』の中で述べています。関氏は、日本人が英語を発音する際に余計な母音を入れてしまう原因について、以下のように説明します。
日本語は全部「子音+母音」で構成されています(「ん」だけは子音のみ)。
たとえば「く」なら [k+u] です。
したがって、つい日本語のクセで余計な母音を入れてしまうのです。
相手に分かりやすく伝えようとしてはっきりと発音すると、逆に「英語らしい音」から離れてしまうという原因は、この余計な母音にあると考えられます。英語の子音を発音する際には、日本語式の発音習慣を踏襲しないように意識する必要があります。
2. 英語の「音声変化」を知らない
2つ目の課題としては、英語の「音声変化」が挙げられます。ネイティブスピーカーが英語を話すときには、「脱落(※)」や「連結(※)」といった様々な音声変化が起きています。しかし、この音声変化のルールについては、中学や高校の授業ではこれまでほとんど教えられてきませんでした。そのため、多くの日本人学習者は音声変化についての知識が不足しています。
音声変化を伴わずに話すと、英語が本来持っている音の滑らかさが失われます。ネイティブが話す英語の音からは大きく離れるため、多くの人にとって聞きづらいものになってしまいます。
また、音声変化が身についていないことが原因で、「相手の発音を聞きとれない」ということもあります。たとえば、「アポを設定する」という意味の「set up an appointment」という表現は、文字で読めば難なく理解できる人も多いでしょう。しかし、発音される場合には、複数の音声変化が重なって「セラパナポイメン」のような音になるため、リスニングだけでは瞬時に理解できないということが起こります。
他にも、前置詞や助動詞、所有代名詞など「機能語」と呼ばれるものは、強調したい場合などを除き、基本的に「弱形」で発音されます。弱形では、たとえばwillは「ウ」、ourは「アー」のような音で発音されます。「弱形」「強形」の表記は辞書にも載っていますが、意識したことがないという学習者は少なくないでしょう。
「自分が認識している英語の音」と「聞こえた音」を一致させることができないと、読めばすぐに理解できるような簡単な表現でも聞きとれないということが起こります。会話中に相手の発言をきちんと理解できなければ、適切に応答することはできないため、コミュニケーションが円滑でなくなってしまいます。
相手に伝わる発音を身につけるためにも、相手の発言を理解できるリスニング力をつけるためにも、音声変化のルールを体系的に理解する必要があります。
※脱落:本来あるはずの音が、一定の条件のもとで発音されなくなること。
※連結:単語の最後の子音と、続く語の先頭の母音がつながって発音されること。
音声化スキルを鍛える方法
大人になってから発音を矯正することは難しいと考え、諦めてしまう学習者は少なくありません。しかし、いくつかのポイントを意識して練習すれば、大人になってからでもネイティブの発音に近づくことは可能です。ここからは音声化スキルを効果的に鍛える方法についてみていきましょう。
音声変化のルールを理解する
効率的に英語の発音を改善するためには、まずは前述した音声変化のルールを押さえることをおすすめします。音声変化のルールを理解した上で発音練習を行うことで、手本の英語音声と自分の発音に差がある場合にもその理由を特定しやすくなり、またルールに倣って発音の改善もしやすくなります。
音声変化のルールを分かりやすくまとめた書籍には、『マンガでわかる最速最短!英語学習マップ』があります。第二言語習得研究の知見を基にしたトレーニングで知られる英語のパーソナルジム「ENGLISH COMPANY(イングリッシュカンパニー)」によって書かれた本書では、音声変化が「いつ」「どういったルールに基づき起こるのか」ということが明示されています。
発音が改善されると、それに伴いリスニングのスキルも向上します。英語字幕付きで映画を観たり、歌詞を見ながら洋楽を聴いたりしているときに「どうしてこんな発音になるんだろう?」と感じていた箇所も、音声変化のルールを知ると、きっと腑に落ちるものが多く出てくるでしょう。
シャドーイングのトレーニングを行う
音声変化のルールを理解した状態で、英語音声の「シャドーイング」を行うと、効率的に発音を改善することができます。
「シャドーイング」とは、英語の音声を聞きながら、音声のすぐ後に真似て復唱するトレーニングです。同時通訳者のトレーニングとしても取り入れられているもので、元の音声の「影(シャドー)」のように、音の後ろにぴったりとついてリピートをするため、シャドーイングと呼ばれています。シャドーイングのトレーニングを行うことで、課題でも取り上げた子音を含む単語の発音や音声変化、英語の自然な抑揚を習得することができます。
シャドーイングに使用する題材は自由ですが、英文のスクリプトを確認できるものを選ぶようにしましょう。自分にとって興味がある分野の話題を扱ったものや、「身につけたい」「真似したい」と感じる発音のものを選ぶと、学習の動機づけにも繋がります。
シャドーイングのトレーニングを行う際には、自分の音声をスマホの録音機能や動画機能を使って録音するようにしましょう。音声をバックに発音している時は発音できているような気がしても、実は言えていないということはよくあります。録音した音声と元の音声を比較し、発音に差があると感じる箇所は、元の音声に近づけるよう繰り返し練習します。「音声のスピードに遅れてしまう箇所」や、「英文スクリプト通りに読んでいないように感じる箇所」では、前述の音声変化が起こっている可能性が大きいので、その都度ルールと照らし合わせます。
元の音声がどのように発音しているか分からない場合には、音声の再生速度を0.3倍速程度に落とすと、発音を確認しやすくなります。(再生速度の変更は、パソコンの速度調整機能や、無料の速度変換アプリなどで行うことができます。)また、元の音源が速すぎて全体を通してスピードについていけないと感じる場合には、最初は0.7倍速などで練習し、徐々にスピードを上げていくとよいでしょう。
まとめ
今回は、スピーキングの最後のプロセスにあたる「音声化」について取り上げました。音声化のスキルを鍛えることで、スピーキング力とともにリスニング力を向上させることができます。また、発音に自信がつくと、英語学習全般に対して前向きな気持ちで取り組みやすくなります。英語全般に対して苦手意識があるという方は、今回ご紹介した方法を通して、まずは発音を改善するところから学習を始めてみてはいかがでしょうか。
【参考書籍】『CD付 世界一わかりやすい 英語の発音の授業』関 正生 著
【参考書籍】『英語舌のつくり方 ――じつはネイティブはこう発音していた! (CD book)』野中 泉著
【参考書籍】『マンガでわかる最速最短!英語学習マップ』StudyHacker ENGLISH COMPANY、 ナナトエリ著
English Hub 編集部
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