英語で書かれた文章を読んで理解できる人でも、いざ話そうとすると、スムーズに文を組み立てられないということは決して珍しくありません。学習者の中には、「文法や単語の知識はあるはずなのに、どうしてこんなに喋れないんだろう?」という悩みを抱えている人もいるかもしれません。今回は、言いたい内容を英語の文に組み立てる「文章化」スキルを鍛える方法についてご紹介します。
文章化とは?
「文章化」とは、言いたい内容として自分が思い浮かべたものを、単語や文法知識を用いて文章に変換することを指します。スピーキングのプロセスを第二言語習得研究に基づいて3つに分類した際、「概念化」に続く部分にあたります。
- 概念化:言いたいことを思い浮かべる
- 文章化:単語や文法知識を用いて文章を作る
- 音声化:作った文章を声に出して発話する
日本人学習者が抱える「文章化」の課題
文章化には、単語や文法の知識が必要になります。文法に関しては、「中高6年間英語を勉強しているので、日本人の多くは英語の文法は身についている」という意見を耳にしたことがある人も多いでしょう。ではなぜ、多くの学習者は文章化を苦手と感じるのでしょうか?
ここからは、多くの日本人学習者が抱える、文章化における課題をみていきましょう。
1. 文法知識が不足している
前述のように、「日本人の多くは英語の文法は身についている」といった考えはよく聞かれます。たしかに、長文読解問題で下線部訳を答えるなど、英語の文章を「読む」ために必要となる文法力を持った人は少なくないかもしれません。しかし、実はスピーキングの際にはリーディング時以上に高いレベルの文法力が求められます。
英語の4技能は、受容スキル(レセプティブスキル)と産出スキル(プロダクティブスキル)の2つに分類することができます。「リスニング」と「リーディング」が受容スキルに、「スピーキング」と「ライティング」が産出スキルにあたります。
「受容」にあたるリスニングやリーディングの場合には、使われている単語や文法の全てを正しく理解できていなくても、前後の文脈などから自然と内容を推測することができます。一方、スピーキングやライティングといった「産出」の場合には、自分で一から文章をつくり、組み立てる必要があります。そのため、英語をただ受容するとき以上に、正確な単語・文法知識が必要となります。
「英語を読めるけれど話せない」という場合、アウトプットに必要なだけのインプットができていないということがまず考えられます。
2. 持っている知識を使えない
前述の「知識が不十分で使えない」というケースに加え、「doとdoesの使い分けのような基礎的な文法でも、話すときには間違えてしまう」という声も多くの学習者から聞かれます。これはいったいなぜなのでしょうか。
認知心理学の観点からみると、「容量の限界」ということが原因として考えられます。スピーキング時には、文を組み立てるという作業以外にも、「相手の英語を聴きとる」「言いたい内容を考える」「発音を意識する」といった様々な負荷が同時にかかります。母語である日本語での会話では難なくこなせるこれらのタスクも、第二言語である英語の場合には、1つ1つの作業に脳のリソースの多くが割かれます。その結果、注意が向いていないタスクにおいては、ミスが起こりやすくなってしまいます。
日本国内のようなEFL環境(※)では、英語をアウトプットする機会はどうしても少なくなりがちです。しかし、「知識」を「使える」ようにするには、実際に繰り返し使って慣れることで、各タスクにかかる負荷を減らす必要があります。
※EFL環境:英語を母語としない人が、非英語圏で学習する環境のこと。English as a Foreign Languageの頭文字をとったもの。
3. 日本語のロジックで説明してしまう
3つ目の課題として、日本語でのロジック(論理)のままで英語の文章を並べてしまうということが挙げられます。
日本語ではしばしば、結論は話の最後に述べられます。一方英語では、最初に結論が述べられ、その後に理由が続きます。この違いを意識せずに日本語のロジックのままで英語を話すと、相手にとって伝わりにくい文章構成になってしまいます。
日本語のロジックで英語を話すことについて、留学経験なしでニューヨークタイムズの記者として働くまでの英語力を身につけた上乃久子氏は、著書『純ジャパニーズの迷わない英語勉強法』の中で、以下のように述べています。
日本語式にだらだらと前置き説明を続ける話し方は、結論を先に聞きたい英語話者にとっては、話の展開、結論がどちらに向かうのかわからなくなり非常に不安に感じるのです。
英語で話すときには、説明のロジックも同時に英語のものに切り替える必要があると言えます。
文章化スキルを鍛える方法
では、ここからは文章化のスキルを鍛える方法についてみていきましょう。
日本語を瞬時に英語になおすトレーニングを行う
文法知識の穴を埋め、さらに、その知識を瞬時に取り出す訓練としていくつもの英会話スクールで取り入れられているのが、シンプルな日本語の文を即座に英語になおすトレーニングです。市販教材での代表的なものには、ペレ出版の『瞬間英作文シリーズ』があります。
瞬間英作文にこれまで取り組んだことがないという人や、基礎文法から整理したいという人には、『どんどん話すための瞬間英作文トレーニング』がおすすめです。『どんどん話すための瞬間英作文トレーニング』では、「命令文」「現在完了形」「SVO+to不定詞」「SVOC」のように、例文が文法や文型ごとに分類されています。実際に数問トライしてみると、簡潔な日本語であっても、意外と、瞬時に正しく英語にできないことに気づく人も多いのではないでしょうか。
瞬間英作文のトレーニングを行うことで、自分がうっかりミスをしやすいポイントや、そもそもの理解があやふやな文法事項を整理することができます。また、繰り返し口に出して練習することで、知識を使う際の負荷を減らし、英語のスピーキングを自動化に近づけていくことができます。
より応用力をつけたいという人には、『スラスラ話すための瞬間英作文シャッフルトレーニング』がおすすめです。『スラスラ話すための瞬間英作文シャッフルトレーニング』では、前述の『どんどん話すための瞬間英作文トレーニング』とは異なり、様々な文型を使った文がランダムに出題されます。また、本の後半では、一文の中に複数の文型が使われたレベルの高いトレーニングも登場するので、より実践的なスピーキング力を鍛えることができます。
結論を先に述べる「型」を身につける
文章化における課題の3つ目で挙げたように、日本語でのロジックのままでは英語で話したときに伝わりにくくなるという問題があります。結論を先に述べる習慣を身につけることは、文章化をする際の大きな助けとなります。
短期集中型の英語コーチングプログラム「PROGRIT(プログリット)」を運営する株式会社プログリット代表取締役社長の岡田祥吾氏は、著書『英語学習2.0』の中で、「英語を話すときは結論ファーストで述べ、その後に理由を述べるというクセをつけることが大事」と述べています。また、英語の論理で話す習慣を身につけるための方法として、「何かを発言するときはいつでも結論と理由3つを述べる」のように、意見を述べるときにはフレームワークを使うことをすすめています。
前述の上野氏も「英語の会話は、常に結論から先に述べる癖をつけておかなくてはなりません」と『純ジャパニーズの迷わない英語勉強法』の中で同様に述べています。上乃氏は、会話の頭にはフラッグ(旗印)を立てる必要があるとして、具体的に以下のように説明しています。
話の冒頭で結論から先にはっきりと述べた上で、「There are three reasons.」「Firstly,~.」「Secondly,~」「Lastly,~.」(理由は3つです。第一に~。第二に~。最後に~。)と理由を付け加えていくのです。
結論をはじめに述べ後から理由をつけ足していくという「型」があれば、あとはそこに自分の考えを入れていくだけなので、文章化はぐっと楽になります。「どうやって説明しようか」と悩むことに脳のリソースを割く必要がなくなるため、文法などその他タスクへの注意も向きやすくなります。
「結論+理由3つ」などの型は、英語でエッセイを書く際などには既に使っている人も少なくないでしょう。同じことをスピーキングの際にも行うように意識することで、文章化や概念化のスキルを上げることができます。
まとめ
今回は、英語の文章化スキルを鍛える方法について取り上げました。「英語を読めるのに、それに比例するほど話せない」と感じる人は、一度、今回取り上げた課題の中であてはまるものがないかをチェックしてみてはいかがでしょうか。もし該当すると感じるものがあれば、今回ご紹介した学習方法や考え方をぜひ取り入れてみてください。トレーニングに取り組むことで、持っている知識を実際に運用できる力を着実に伸ばしていくことができます。
【参考書籍】『英語学習2.0』岡田 祥吾 著
【参考書籍】『純ジャパニーズの迷わない英語勉強法』上乃 久子 著
【参考書籍】『外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か』白井 恭弘 著
English Hub 編集部
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