英語コーチに聞く、社会人が英検を受けるメリットとは?英検1級二次試験の勉強法も

インタビュー前編(『英検1級&TOEIC満点コーチに聞く、英検とTOEICで身につく英語力の違いとは?』)では、英語コーチの星名亜紀さんに、英検1級一次試験に向けて取り組んだ学習内容を伺いました。

後編では、英検1級の二次試験突破に効果的だった学習方法や、勉強中に苦労された点、英検1級に合格する前後での英語力の変化などについてお話ししていただきました。

話し手:星名 亜紀氏(英語コーチ/TOEIC講師)

TOEIC L&Rテスト990点。英検1級。大学卒業後は全日本空輸株式会社で客室乗務員として勤めたのち、外資系企業にて外国人役員秘書を経験。現在は完全マンツーマンの英語コーチのほか、専門学校のエアライン科や企業研修でTOEIC講師として活動中。大学・企業研修講師の濱崎潤之輔氏とともに、オンラインサロン「濱崎TOEIC研究所」も運営。

インタビュー目次

初挑戦の英検1級二次試験は不合格 – 敗因を自己分析 –

Q:英検1級の二次試験に向けて行った対策について教えてください

英検1級一次試験はなんとか一発で合格できましたが、二次試験(英語での面接)に向けた学習はかなり手こずりました。

スピーキングテストの対策経験がなかったため、とりあえず思いついたものからあれこれ手を出してみるものの、どんどん空回り。途中からは、もはや何の対策をしているのかすら分からなくなり、「時間を費やして勉強したつもりになっているものの、実は何も身についていない」という状態でした。

案の定、初めて受けた二次試験の結果は、不合格。特にショートスピーチは散々な結果で、スコアは10点満点中の「5」。試験の最中に、不合格であることが自分でも分かるほどの出来だったので、納得の結果でした。

1度目の二次試験対策を振り返って、失敗だったと思うことが大きく2つあります。

理由①:予習・復習をせずに英会話レッスンを受講

1つ目は、英語面接対策として受けていたオンライン英会話で、予習復習をせずに、レッスンの数だけを沢山こなしていたことです。

スピーキング対策として何をすればいいのかよくわからなかった私は、まず2社のオンライン英会話サービスに登録をします。1社目では、英検対策に特化したレッスンを週2回受け、2社目では、毎日2回・計50分間、フリートーク形式のレッスンを受けていました。

サービス自体は2社とも素晴らしく、特に英検対策に特化したレッスンでは、英検について熟知した講師から、試験本番と同様の形式でレッスンを受けられるなど、低価格ながら満足度の高い内容でした。

それにも関わらず、スピーキング力を思うように伸ばせなかったのは、しっかりと予習復習をしてからレッスンに臨めていなかったためです。英語コーチングをしている生徒さんには、いつも「オンライン英会話は、ただ受けるだけでは上達しないので、必ず予習・復習をしてくださいね」と伝えていたのに、それを自分が実践できていなかったのです。レッスンをたくさん受けていると、それだけでつい勉強している気になり安心してしまいがちですが、大事なのはレッスン前後の自己学習であることを改めて痛感しました。

理由②:一次試験での英作文対策不足

もう1つの敗因は、一次試験の英作文対策を手抜きしてしまったことです。

英検1級の一次試験では、「リーディング」「ライティング」「リスニング」のスキルが測定されます。各技能の満点は850点ずつですが、リーディングは全41問、リスニングは全27問なのに対し、ライティング(英作文)の問題数は1問(※)。1問あたりの得点の比重が大きいため、受験者の方の中には、英作文対策に特に力を入れる方も多いと思います。

※問題形式のリニューアルにより、2024年度第1回検定以降の英検1級の一次試験は、リーディング35問、リスニング27問、ライティング2問の構成となっています。

一方で私は、単語学習や語彙問題対策を経て、リーディングとリスニングのパートに自信があったことから、残る英作文の対策を怠ってしまいました。

英作文の学習経験がなく、有効な対策を確立できていなかった当時の私は、どんなトピックでも使いまわせるようなテンプレートをとりあえず暗記しました。あとは、問題集に載っている文章をいくつか書き写して、音読するだけ。自分の意見を述べるために必要な背景知識を増やす努力をしなかったのです。

英検1級のライティングでは、様々な社会問題に対する自分の考えを英語で述べる力が問われます。トピックに関する背景知識や興味がないと、アイデア自体が浮かびません。

ライティング問題が出題されるのは一次試験のみですが、英作文対策で得られる知識やスキルは、二次試験のスピーチに直結します。一次試験対策の時点で、二次試験のスピーチ対策を見越して、英作文の練習をもっとするべきだったと反省しました。

英検1級突破を目指している方は、ぜひ私の反省点を参考にしていただき、一次試験の段階でしっかりと英作文対策に取り組むことををおすすめします。

勉強方法を見直し、英検1級二次試験に合格

1度惨敗してからは、それまでの勉強方法を見直しました。週2回受けていた英検対策に特化した英会話レッスンは週1回程度に、毎日50分受けていたフリートークのレッスンは1日25分に減らし、その代わりに予習復習をしっかりと行いました。

「今日のレッスンでは、これについて話す」と事前にしっかり決め、話題に関する背景知識も、YouTube動画などを活用して調べておきます。また、動画の中でスピーチで使えそうな表現を見つけたら、学んだ背景知識とともにノートにまとめていました。

レッスン後には、その日のトピックに対する自分の考えを、改めて英語で書き出します。自分でも納得がいくスピーチ文が完成したら、今度はその英文を暗記するまで何度も音読しました。

私は海のすぐ近くに住んでいるので、昼休みにサクッとランチをとったら海に移動し、浜辺でスピーチ練習をしていました。海にはほとんど人がいない上、波の音で自分の声がかき消されるので、一目を気にせず大きな声でスピーチができるんです。

気持ちを込めてスピーチすると、ただ音読するよりも断然、スピーチのアイデアやセンテンスが記憶に残りやすくなります。「貧困をなくすために、世界はもっと一丸となって課題に取り組むべきだ!」「私たちは、環境問題にもっと真剣に取り組むべきだ!」など、一人で熱く語っていましたね。

学習法を見直して、3ヶ月間しっかりと対策をしたうえで再チャレンジした二次試験のショートスピーチでは「8」を取れ、無事に合格できました。

英検1級対策を経た英語力の変化とは

Q:英検1級合格前と現在を比較し、英語力にどのような変化を感じますか?

最も感じている変化は、語彙力とスピーキング力の向上です。

変化①:語彙力

よく、「英検1級の単語なんて、難しすぎて英語ネイティブも使わないのでは?」と尋ねられますが、そんなことはありません。

確かに、英検1級対策の単語帳に出てくるいくつかの単語については、イギリス人の友人から「少し古い表現だから、私たちの世代はもう使わないかも」「アメリカでは使うかもしれないけど、イギリスではそれほど使わないよ」と言われたこともあります。

しかし、実際に英語圏のニュースやTEDなどのスピーチを聞いていると、英検1級の単語はたくさん使われています。私自身、英検1級の単語帳に取り組み始めてから、英語ニュースの理解度が確実にアップしました。英検1級対策を始める以前は、英語ニュースを耳からの情報だけで正確に理解するのは難しく、映像を頼りに想像力を働かせることも少なくありませんでした。

また、ニュースやTEDに限らず、6歳の娘がNetflixで観ている「バービー」の中でも、主人公たちは英検1級の単語をたくさん使って会話しています。洋書を読んでいても英検1級の単語がたくさん出てくるので、「勉強したおかげで、この本がすんなり理解できる!」と嬉しくなることもよくあります。「英検1級レベルの単語を覚えても無駄」などということは、全く無いと断言できます。

変化②:スピーキング力

英検1級を受ける以前から、旅行や趣味の話題といった日常英会話程度であれば、ネイティブ相手でも困ることはほぼありませんでした。しかし、テーマが社会問題などになると、話は別です。自分の意見を尋ねられても、“I don’t know…”や “Maybe…”しか言えずに、恥ずかしい思いをしたこともありました。

これは、英語力の問題というより、社会問題に対する私の知識や、問題意識の低さが原因だったと感じています。英検1級対策を開始する以前は、「原子力発電は廃止すべき?」「テクノロジーによって、教育は良い方向へと向かっていると思う?」といった質問に対して、たとえ日本語であっても、明確な意見を述べることができませんでした。

日本で日常生活を送る中では、社会課題に対する自分の意見を求められる機会はそれほど多くないでしょう。少なくとも、私個人の経験ではほぼありませんでした。一方で、海外には、国際問題や環境問題、教育、ジェンダーなど、様々な問題に対する自分の意見をしっかり持っている人が多いと感じています。実際に、イギリス人やアメリカ人、ポーランド人の友人らに「死刑は廃止するべきだと思う?」「動物実験は仕方ない?」「日本は女性のリーダーを増やすべき?」などの質問をぶつけてみたときも、”I don’t know.” と返されたことは一度もなく、それぞれの意見を熱く語ってくれました。

グローバル化が進む世の中において、「英語を話せる力」はもちろんですが、それ以上に「自分の意見をしっかりと主張できる力」が重要であることを、私は英検1級対策をきっかけに再確認できました。まだまだ未熟ではありますが、英検対策を通して、世界の様々な課題に対して自分なりに意見を述べられるようになったのは大きな変化だと感じています。

Q:社会人の英語学習者にも、英検の受験はおすすめですか?

もちろんおすすめです!実際に、私が英語コーチングをしている社会人の生徒さんの中にも、英検に向けて勉強されている方がいます。その方は、最初はTOEICの勉強をされており、1年でスコアを570点から840点にまで伸ばされた後に、英検準1級対策をスタートされました。英検の勉強を始められてからは、「TOEICとはまた違う魅力がある」と、気持ちを新たに英語学習に取り組まれています。

TOEICの場合は、ビジネスシーンや日常生活で使われる英語が中心ですが、英検ではアカデミックなトピックにも触れることができます。これまで勉強したことがなかった英作文についても、難しさとともに、やりがいを感じてくださっていますね。

また、グローバル化が進む今、異文化を理解したうえで、自分の意見を相手にしっかり伝えられるコミュニケーションスキルはますます重要になっています。

私が現在読んでいる『The Culture Map』の中でも触れられているように、世界でも有数のHigh-context(文脈を読む)文化の日本では、自分の意見をはっきり主張することに慣れていない方も少なくないでしょう。

先ほども述べた通り、私は英検1級の英作文やスピーチ対策を通して、「自分の意見を明確に相手に伝えられる力」を伸ばせたと感じています。英検の受験は、社会人の方がグローバルなコミュニケーションスキルを磨く良いきっかけになると考えています。

英語学習者へのメッセージ

Q:英検1級を目指している方や英語学習者に向けて、メッセージをお願いします

私は、英検1級に挑戦して本当に良かったと思っています。特に、試験対策を通して、英語で自分の意見を明確に主張するスキルが身についたのは、大きな収穫でした。また、これまではつい避けてしまっていた単語学習にも真剣に取り組んだことで、語彙力も鍛えられました。

資格を取ることは学習のゴールではありませんが、試験対策を通して身についたスキルは、必ず皆さんの今後の人生にプラスになると信じています。英検1級は難易度の高いテストなので、最初は少し勇気がいるかもしれませんが、得られるものは大きいです。英検1級に挑戦するか迷っている方は、まずは初めの一歩を踏み出してほしいと思います。

試験勉強中に、SNSなどで他の人の学習量やスコアを目にすると、比較して落ち込んでしまうこともあるかもしれませんが、周りと比べる必要はありません。一人一人、目標もゴールも、これまでの英語学習歴もライフスタイルも、得意・不得意も全て違います。英語学習を楽しむ気持ちを忘れずに、マイペースにコツコツと、学習に取り組んでみてください。


英検対策を通して、英語力だけでなく自分の意見を述べる力が身についたという星名さんの言葉が印象的でした。TOEICとは異なる魅力がある英検。星名さんのお話を聞いて興味が湧いた方は、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。

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佐藤 千嘉

中学2年時にニュージーランドの現地校へ1年間留学。高校進学後、オーストラリアへ交換留学で再び1年間留学。高校在学中に英検1級、TOEIC965点、TOEFL iBT106点を取得。早稲田大学国際教養学部に現役合格。英会話講師やTOEICコーチの経験を経て、現在はフリーライターとして活動している。

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