留学・海外赴任先から帰国後も英語力を維持するために知っておきたい3つのこと

国内では「英語力をいかに向上させるか」という課題に多くの人の関心が集まっています。その一方で、海外に長期滞在した人々は、滞在先で培った英語力を帰国後にいかにキープするか、という課題を抱えています。子連れで海外から帰国した親たちには、子どもの英語力をどうすれば保持できるのかという悩みもあるでしょう。ここでは、海外での長期滞在を通して高い英語力を身につけた大人や子どもが、日本に帰国してからもその英語力をキープし、一層向上させていくにはどうすればよいのかを考えます。

1.「言語喪失」とは

「外国から帰ってきてから、現地で習得した言語力が落ちてしまった」という現象は、第二言語習得理論では「言語喪失 (language attrition)」と呼ばれます。まずはこの現象について概観してみましょう。言語喪失は、外国語だけではなく母国語についても起こり得ます。しかし、ここでは「言語喪失」のもう一つの例である、外国語能力を失うことについて焦点を当ててみたいと思います。

日本で生活していれば、英語が必要となる場面は多くはありません。海外で高い英語能力を習得しても、帰国後は英語を使う機会の少なさから英語力が低下することが十分に考えられます。また、帰国子女の場合は、周囲の目が気になって一般的な環境では英語をあえて使用しないよう意識した結果、英語力が失われてしまうケースもあるようです。帰国後の英語力衰えの要因は、単に「忘れてしまう」ことだけではないのです。特に子どもの場合は、社会的なプレッシャーなども十分に考慮する必要があります。

ここからは、そのような複雑な背景も考慮した上で、帰国後に英語力をキープする方法について具体的に考えてみたいと思います。

2. 大人の英語力、どうやって維持する?


まずは大人(思春期以降の人々)が英語力を維持する方法について見てみましょう。ここで、大人がどのようにして英語を身につけたかを振り返っておくのはとても重要です。

大人の場合、「臨界期」に達していない子どもとは違い、「自然に」英語を習得することは困難です。一部の例外を除き、海外にどんなに長く住んでいたとしても、この事実は変わりません。したがって、海外にいるあいだ英語力を高めたとしても、大人は主として母語を通した知的アプローチと発達した言語処理能力によって英語を学んだということになります。

Saville-Troike は「Introducing Second Language Acquisition」の中で、外国語を習得する上で大人が持つ長所を以下のように挙げています。

  • 学習能力 (Learning capacity)
  • 分析能力 (Analytic ability)
  • 語用論的スキル (Pragmatic skills)
  • 母国語の優れた知識 (Greater knowledge of L1)
  • 現実世界に関する知識 (Real-world knowledge)

このリストからも、大人は一般的に「頭を使った」英語学習に長けていることがわかります。大人は母語の理解がしっかりとしているので、その知識を活かして外国語を習得する傾向にあります。また、子どもと違って「学習」というスタンスを強く意識しながら英語に「分析的に」取り組むことができます。

したがって、大人の習得する英語は、国内であろうと海外であろうと、発達した知性を活用した「学習」の産物であることに違いはありません。そのため、帰国後も分析的な学習能力を用いた学習法を続ける限り、英語力をキープすることは比較的容易だと言えるでしょう。分析的知性をフルに活かすためには、会話のみならずリーディングやライティングといった、より高度な知性が求められるアクティビティを積極的に行う必要があります。

リーディングに関しては、TIMEやEconomistといった英語雑誌を購読したり、洋書を読む習慣を身につければ、日常的に楽しみながら英文に触れることができます。言語喪失において最も起こりやすいのは語彙の喪失 (lexical attrition) であると言われています。多読を通してできるだけ多くのインプットを確保していくのは、極めて重要です。

また、ライティングを通して、学んだ語彙やフレーズを自分からアウトプットしていくことも求められます。現地で知り合った友人とのSNSやEメールでのやりとりなどで英文を書くことが日常になるよう心がけましょう。

3. 帰国子女の英語力維持は大人より困難?


思春期以前の子どもが英語力を維持する方法は、大人の場合とは大きく異なります。まず、知的能力を用いて英語を習得した大人と違い、幼い子供ほど母国語を介さずに英語を直接に身につける傾向にあります。先に引用した Saville-Troike が述べているように、これは臨界期以前の子どもの脳が、高い可塑性 (plasticity)を備えているからです。また子どもは一般的に、大人と比べて外国語を話すことに抵抗感 (inhibitions) が少なく、日本人としてのアイデンティティも比較的希薄です。そのため、外国語が話される環境によりスムーズに溶け込んでいけます。

その一方で、帰国後における英語力の維持は、大人の場合よりも困難であると言えるでしょう。大人の場合、発達した処理能力によって自分一人でも英語力をキープすることが可能ですが、子どもはそうではありません。英語が話される環境で自然に言語を吸収した子どもの場合、国内においても環境をコントロールする必要があります。

まず、子どもの場合は言語喪失が大人よりも早く発生する傾向にあると言われています。決定的な原因については未解明のようですが、おそらく子どもがより一層社会的プレッシャーに屈しやすいことも関係しているでしょう。特に均質性が高い日本社会では、「英語を話せる」ことはまだまだ稀な能力です。そのため、集団生活の中で子どもが自ら英語力を隠す、極端な場合は放棄する、といったことも考えられます。また、年齢とともに母語能力が発達し、結果として英語力が必要なくなることも挙げられるでしょう。

そのような事態を防ぐためには、帰国子女を積極的に受け入れている学校を探すのもひとつの手段です。子どもが抵抗なく英語を使用できて、かつ同じようなバックグラウンドを持つ他の生徒たちと交友できる環境にいることは、子どもの英語力低下に対して有効な歯止めとなるでしょう。また、そのような環境では英語の使用が必要なので、母語の発達による英語力の低下が防ぎやすくなります。近年ではインターナショナルスクールに加え、通常の学校でも帰国生を受け入れるシステムが整ってきているので、適切な環境が見つけやすくなっています。

これに加えて、子どもの帰国後の長期的な英語力の発達にも注意を払う必要があるでしょう。先述したように、子どもは柔らかな脳を用いて英語を吸収し、優れた発音や流暢さを示します。その一方、読み書きなどで必要とされる高度な英語能力はまだ身についていません。そのため、大人になっても通用するような高い英語力を得るための学習デザインを設計していくことが大切です。

中学生ぐらいになれば、ネイティブの子どもが使用する教材、とくにボキャブラリービルダーなどを与え、高度な処理能力が求められる英語学習へと移行していくことが望ましいでしょう。代表的な教材には、「Word Power Made Easy」 や「 Merriam-Webster’s Vocabulary Builder」 などがあります。特に後者は、高校や大学レベルのネイティブにとって必須な英単語が、語源などの詳しい解説とともに掲載されているので、思春期以降の英語学習の強い味方となるでしょう。

まとめ

今回は、言語喪失によって英語力が低下することを防ぐ有効な手段を、大人と子どもの学習パターンの違いに配慮しながら考えてみました。大人の場合、勉強方法によっては帰国後により一層の英語力向上を達成することも十分可能です。一方で、子どもの場合は、集団生活などで直面する可能性のある圧力をいかに回避しながら英語力を保持していくかが鍵となってきます。

国内でも努力次第で高い英語力を維持・向上させることは十分可能ですので、自分にとってベストな方法を開拓してみてください。

【参照サイト】「バイリンガルの言語喪失を語るための基礎知識」湯川笑子
【参考書籍】「Introducing Second Language Acquisition (2nd Ed).」Muriel Saville-Troike著
【参考書籍】「Word Power Made Easy 」Norman Lewis
【参考書籍】「 Merriam-Webster’s Vocabulary Builder 」Mary W. Cornog

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茂呂  宗仁

茨城県生まれ、東京在住。幼少期より洋画に親しみ、英語へのあこがれを抱くようになる。大学・大学院では英文学を専攻し、またメディア理論や応用言語学も勉強。学部時代より英米で論文発表も経験。留学経験なくして英検1級、TOEIC970、TOEFL109を取得。現在は英会話講師兼ライター・編集者として活動中。

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