「ソフトバンク孫社長から学んだ、プロジェクト式の英語学習法」トライオン株式会社代表 三木雄信氏/特集インタビュー第3回

自身の努力で英語力を身につけ、今では世界を舞台に活躍している日本人の方に英語学習の秘訣を聞くインタビューシリーズ、「世界を体験した日本人に学ぶ英語学習法」。

第三回は、かつてソフトバンクで社長室長を務め、孫正義社長の右腕として活躍された三木雄信氏。独立後にトライオン株式会社を設立し、現在は自身が生み出した独学英語勉強法を凡用性あるメゾットに磨き上げ、英会話スクール「トライズ(TORAIZ)」を運営するまでの英語との向き合い方についてお伺いしてきました!

英語とは無縁だったという日本生まれ日本育ちの三木氏が、どのように英語と出会い、最終的に英会話スクールの立ち上げまで至ったのか。三木氏が編み出した効率的な英語学習方法は、時間のないビジネスマンの方が参考にすべきヒントが満載です。

話者プロフィール:トライオン株式会社 三木雄信氏

1972年福岡生まれ。東京大学経済学部卒業。三菱地所を経てソフトバンクに入社。27歳で同社社長室長に就任。孫正義氏のもとで「ナスダック・ジャパン市場開設」「日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)の買収」「Yahoo!BB事業」などにプロジェクトマネージャーとして関わる。現在は、自身が編み出した独学英語勉強方法を磨き上げ、英会話スクール「トライズ(TORAIZ)」を運営。著書に『海外経験ゼロでも仕事が忙しくても英語は1年でマスターできる』『世界のトップを10秒で納得させる資料の法則』『人生最後の英語鬼速やり直し』などがある。

英語とは無縁の人生だった

Q: 最初に社会人としてのキャリアの始まりについて教えてください。

東京大学経済学部を卒業後、三菱地所に入社しました。もともと不動産や建物に興味があり、海外赴任や英語を使って働くということに対してはあまり関心がありませんでした。

また、その頃はちょうどバブルがはじけて日本企業が世界から撤退するときだったので、世界に向けてビジネスをするようなタイミングではありませんでした。そのため、まさかその後に自分が英語を使って仕事をすることになるとは思ってもいませんでした。僕は出身も福岡なので外国人と接する機会もほとんどなく、学校の先生も「This is a pen」と、漢文と同じような考え方で受験英語を教えているような状況でしたからね。

その後、25歳の時に転職しソフトバンクへ入社することになります。元をたどれば、高校でソフトバンクの孫正義氏の実弟である孫泰蔵氏と同じクラスだったということもあり、孫社長にお会いする機会がありました。

そのときに「三木くん、事業が300年続くために一番必要なことはなんだと思うかね?」と聞かれ、「多様性だと思います。」と、答えました。「虫を見てください。虫は一番長く生きていて、それは多様性があったからなのです。」そのような話をしたら、多様性を大事にしているソフトバンクにとっては僕が異色の存在だったようで、ご縁もあって入社することになりました。

きっかけは「日常会話程度なら」の一言

Q: 英語を本格的に学ぼうと思ったきっかけは何かあったのでしょうか?

ソフトバンクへ入社後の面接で、孫社長から「三木くん、英語は話せるかね。」と聞かれました。そのときに「はい。日常会話程度なら。」と、あまり深く考えずに答えてしまったのですが、その何気ない一言から、僕と英語学習の戦いが始まりました。

実際に「日常会話」と言っても、レベルは様々です。僕は「旅行会話程度なら」というつもりで伝えたのですが、孫社長は僕が英語を話せるものだと思ってしまったようです。

社長室に配属された後、最初は孫社長のかばん持ちから始まり、その後孫社長が参加する全てのミーティングに同行するように言われました。そのままアメリカ出張にまでついて行くことになり、ヤフーとの商談に参加しました。商談中、孫社長の話す簡単な英語だけは理解できたのですが、それ以外は全くわかりませんでした。そんな中、ついに相手から意見を求められて、しどろもどろになりながら立ち尽くしていたところ、ヤフー初代CEOのティム・クーグルから「こいつは恐ろしいやつだ!」(You are a scary man!)と馬鹿にされてしまったのです。

それを聞いた孫社長が「いや、こいつはそんなに馬鹿じゃないんだ!」とかばってくれて、当時僕が3日で作成した1万語の経営用語の英単語辞書を相手に見せながら、僕が無能ではないことを証明してくれたのです。

「社長に弁護してもらっているようではもうダメだ」と奈落の底へ落ちるような経験をして、そのときに英語の学習を本格的にやることを決心しました。

Q: 当時、ソフトバンクではどのようなお仕事をされていたのでしょうか?

27歳で社長室長に就任し、孫社長の秘書として膨大な仕事をこなしていました。ナスダック・ジャパン市場の開設で1年半プロジェクトにたずさわりニューヨークへの出張や証券資料の作成をこなしたり、本再建信用銀行(現・あおぞら銀行)の買収案件を担当したりと、単純なスケジュール調整にとどまらず、数々のプロジェクトを任せてもらっていました。孫社長のプレゼンの資料も、僕が作成していました。

自身で生み出した、プロジェクト式の超最速英語学習法

Q: 当時、社長室長としてかなりお忙しかったと思いますが、いつ英語学習をされていたのでしょうか?

当時は毎朝、英会話学校の朝クラスに通っていました。学校に朝の7時半に行くとすると、家を出るのが朝6時でまだ真っ暗なんですよね。真っ暗で辺りが見えない中、シャドーイング学習をしていました。

夜は孫社長と11時頃まで残業して、それから資料作成をしたりで家に帰るのは夜の12時を過ぎるという生活を送っていました。そのため、学習時間として確保できたのは朝と通勤時間、そしてランチなどの隙間時間でした。通勤時間は片道およそ1時間半だったので、往復で3時間の学習時間を確保することができました。

Q: 限られた時間の中で、どのように効率的に学習をされていたのでしょうか。

ソフトバンクでは様々なプロジェクトマネージャーを務めていたので、当時のソフトバンク流の仕事術をそっくりそのまま英語学習に応用しました。英語学習も仕事と同じで、プロジェクトを成功させるためには「ゴール」「納期」「コスト」の3つの要素を決めることが大切です。この3つさえ決まっていれば、あとはそれを実行すればいいだけなので、1番効率がいいのです。

まず大事なのは、ゴールを決めることだと思っています。当時、僕のゴールは「英語で交渉をして、ジョイントベンチャーや投資の契約をまとめることができるようになること」でした。そのため、契約書の作成などは弁護士の方にお任せするので僕はできなくてもいいと割り切り、やることとやらないことを明確にしました。

とにかく「どのような目的で英語を学ぶのか」を考えることが大切です。例えばお医者さんが英語を勉強する場合でも、目的は人によって細かく分かれます。「英語を使って学会で発表したい人」と「英語で診察したい人」とでは、また英語の勉強法が違ってきますよね。そこを決めずに、ただ漫然と英語学習を行っていても、いつまでたっても成果は出ません。ゴールさえ決めれば、あとはそれにたどり着くためにいらない学習は切り捨てて、必要な学習をしていけばいいのです。

Q: 学習方法としては、具体的に何を切り捨てたのでしょうか。

僕は、発音学習は切り捨てていました。孫社長と一緒に仕事をしてわかったのは、使える英語を話すうえで「発音は関係ない」ということです。実際、孫社長の英語はかなり日本語なまりで、文法も単純な中学文法しか話していませんでした。

しかしそんな英語でも、スティーブ・ジョブズやプーチン大統領などの大物と商談をしていて、それでも問題ないところを見ると、やはり発音は重要ではないのだと思いました。日本人は発音まで完璧にしようという人が多いのですが、発音を完璧にしようとしたら、なかなか思うようには話せません。

Q: 逆に、どの学習を重点的にやられていたのでしょうか?

リスニング学習教材は映画『ウォール街』の音声テープを聴きながら、英語学習者向けのシナリオ本を読みました。英語を聞いた後、即座に復唱する「シャドーイング」と、英語を聞くと同時にテキストを声に出して読む「シンクロリーディング」を徹底的に行いました。

本当に仕事で英語を使いたいと考えている人は、ネイティブが実際に日常で使っている英語を聞いて学んだほうがいいです。例えばTOEICのリスニング教材などは、アナウンサーがきれいな英語で文章を読んでいるので実際に現場で使う英語とは異なります。生きた英語を学ぶという意味では、映画の教材などが適しています。どうしても最初からそれが難しいという人は、準備体操として簡単な教材を使ってもいいとは思いますが、基本的に映画のDVD1本を完璧にシャドーイングすることができて、そのシンクロリーディングも全部できる段階までくれば、英語が聞けないという人はほとんどいないのではないでしょうか。

Q: プロジェクトによっては専門用語も多いと思いますが、単語やイディオムはどのように覚えたのですか?

結局、ゴールから逆算してやらなければならないので、フレーズ暗記はタスクベースでやっていました。覚える単語を減らすために、交渉に関する英語の本を1冊購入し、その中から限られたものだけを覚えていきました。あとはその文章の名詞を場面に応じて入れ替えるだけで会話ができます。今だと「瞬間英作文」といういい本がありますよね。全部のフレーズを必要以上に覚えようとするのはあまりおすすめしません。

例えば、TOEICの頻出英単語を何千語も覚えようとするのは、時間がないビジネスパーソンには効率が悪いです。大人になると、基本は自分が必要だと思っていることしか覚えられないので、本当に必要だと思うものだけ選んで覚えたほうが効率がいいです。

僕の場合、ソフトバンク時代はブロードバンド事業の立ち上げをやっており、モデムの品質管理本部長も担当していたのですが、品質管理に関する英単語など、ほとんど知りませんでした。そのため、ミーティングなどで自分の言いたいことをその場で言えるように、品質管理に関する単語をA4の1枚の紙に事前にまとめていました。それを見ながら発言をすれば、単語も間違えません。使った英語はやはり忘れにくいので、その回数を重ねていくうちにどんどん専門用語の英単語を覚えることができます。自分がミーティングをする前に、必要な英単語だけをピックアップして、それを覚えていくことを続けていけばいいのです。

日本の英語学習はなぜか「学習」として存在していますよね。大事なことは、実務と学習との間できちんと必要なことを抽出して、それをうまく学んでいくことだと思います。

志の高い仲間が英語学習のモチベーションになった

Q: お仕事と英語学習を両立する中で、モチベーションはどう維持していたのでしょうか。

やはり、一緒に英語学習をしていた仲間の存在は大きかったです。意志が弱い人は、マンツーマンよりもグループレッスンをおすすめします。

英会話教室に毎朝集まるような人はよほど切羽詰まっているので、みんな英語に対して本気で取り組んでいました。それぞれ必ず目標があり、毎朝予習もしっかりしてきます。そういった意味では、志の高い人たちと一緒にやれてよかったと思います。最終的にはみんな英語を話せるようになり、それぞれが転職したり、新しい人生を切り開いています。当時の仲間とは今でもつながっていて、毎年クリスマスに集まっています。

Q: 世界の舞台で活躍する上で必要なマインドセットはありますか?

一番大切なことは、まず「何を言うか」だと思います。英語の能力はあまり関係がなく、そもそも英語力以前に、日本語で話す内容がきちんと頭にあるかどうかが大事です。

孫社長は「結論から言うこと」をいつも大切にしています。社内で孫社長に話しかければ、必ず「結論から話せ」と、言われます。まずは日本語をシンプルにする訓練が必要で、グーグル翻訳にかけたときに簡単に英語になるようなシンプルな日本語を話すことが大切です。

英語を話せるだけで人生は劇的に変わる

Q: 事業をやる上でも色々な選択肢があったと思いますが、その中で英語教育を選ばれた理由はなんでしょうか?

僕はもともと教育事業しかやるつもりがありませんでした。そもそもトライオンという会社も、ネットカフェ難民が大勢あふれていた時代にExcelやWordのスキルを身に付けるeラーニング事業を始め、ネットカフェに向けて配信したのが始まりでした。

やはり教育こそ人の人生を拓くものだと思っています。僕も、勉強したことで田舎から東京に出て来ることができましたし、ソフトバンクに入社して英語を学んだことが今の事業に繋がっていますので、教育の大切さを身にしみて感じています。

Q: 「教育事業をやりたい」という思いが、最終的にトライズの立ち上げにつながったのですね。

そうですね。英語を話すことで人生は劇的に変わると思っていて、トライズで英語を学んでいる方たちが、自分の人生を拓くことが僕の喜びです。例えば、世界一の技術を持っているにもかかわらず、日本語しか話せなかったドクターが、英語を話せるようになったことでアメリカで病院を開設することになったり、日本語しか話せなかった建築家の方が英語を習得したことで、今では海外の学会を飛び回って発表していたり。みんな、人生が拓いています。英語を話せるようになると、今まで見てきた世界とはまったく違う世界に出会えるのです。島国である日本は孤立してしまっていて、なんだか損しているように思います。それはやっぱり、もったいないですよね。

Q: 最後に英語学習を考えている方に向けてメッセージをお願いします。

孫社長流に言えば、人生50年計画というのがあります。20代で、自ら選択する業界に名乗りを上げ、会社を起こす。30代で、軍資金を貯める。40代で、何かひと勝負をする。50代で、事業をある程度完成させる。60代で、事業を後継者に引き継ぐ。

孫社長の行動からは、目標を明確化することの重要性がわかります。みんな人生の計画を立てるべきです。その中に、英語が必要だという選択肢を入れれば、計画の幅も広がりますし、一度英語学習を始めれば、モチベーションも続くと思います。

編集後記

これまで様々なプロジェクトを経験されてきた三木氏だからこそ編み出すことができた、プロジェクト式で学ぶ英語学習方法。三木氏がお話の中で強調されていたのは、英語学習における「ゴールの明確化」です。最短距離で英語を学ぶためには、英語学習を始める前に、一度立ち止まって目標をさらに細分化し、そのゴールに対して本当にやるべきことを決めることが重要です。

孫社長のもとで働き、世界の舞台で様々な大物ビジネスパーソンとお仕事をされてきた三木氏。実は最初から英語が堪能だったわけではなく、ソフトバンクに入社されるまで、英語とは無縁の生活だったというのは意外でした。どんなに忙しくても、目標さえ明確に決まっていれば、1年間で英語をマスターすることができると勇気付けられた方も多いのではないでしょうか。

また、モチベーションを保てた方法として当時の「勉強仲間」の存在をあげていたことも印象的です。三木氏が運営するトライズでは、コーチングレッスンだけでなくグループレッスンも開講しており、自分の英語学習目的に近い仲間を見つけることもできます。三木氏の考えに共感し、効率的な学習方法で1年で英語を身に付けたいという方は、ぜひトライズの扉を叩いてみてはいかがでしょうか。

【サービス紹介ページ】トライズ(TORAIZ)の評判・口コミ

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