16世紀末までの間、英語はイギリス諸島(British Isles)だけで使われていました。しかし現在では、英語を母語とする人のおよそ70%がアメリカに暮らしています。かつて英語を話す人が全くいなかった土地に、どのようにしてこれほど英語は広まっていったのでしょうか。今回は、アメリカ英語の歴史を紐解きながら、その特徴と魅力について探っていきたいと思います。
アメリカ英語とは?
アメリカ英語の歴史
1492年のコロンブスの到着によって、北米大陸の存在はヨーロッパ諸国に知られるようになります。スペインやフランス、オランダなどに続き、1607年にイギリスも、アメリカに植民地を建設しました。現在のヴァージニア州にあるこの地は、当時のイギリス王・ジェームズ1世の名に因み、ジェームズタウンと名付けられました。
またこれとは別に、アメリカを目指したイギリスの人々もいました。当時イギリス本国で迫害を受けていた、ピューリタン(清教徒)たちです。ジェームズ1世は、イギリス国内で政治的、宗教的に抑圧を強めていました。そのため1620年に、清教徒を含む102人がメイフラワー号に乗ってアメリカへと渡りました。当初彼らはジェームズタウンを目指しましたが、船が風で流された結果、現在のマサチューセッツ州に到着します。彼らが上陸した土地は、出発したイギリスの港町の名前をとり、プリマスと名付けられました。
ジェームズタウンやプリマスを皮切りに、アメリカ東海岸に13のイギリス植民地が繁栄していきます。これらの植民地はやがて、イギリス本国から押し付けられる政策に反発をおぼえるようになります。そして1776年7月4日、ついにイギリスからの独立を宣言します。これによって、北米大陸に英語が根付いていきました。(現在、7月4日は独立記念日としてアメリカの祝日となっており、毎年各地で花火が打ち上げられます。)
アメリカ英語は、このような背景から生まれました。つまり、初期のアメリカ英語は、当時移り住んできたイギリスの人々が話していた英語だったのです。しかし、新しい環境のもとで、アメリカ英語は徐々に独自の変化を遂げていきます。例えば、新天地で出会ったネイティブアメリカンの人々の語彙や、既に北米に進出していたスペインやオランダの語彙が取り入れられました。また、イギリス英語自体も時を経て変化していきました。その結果、2つの英語の間には今日みられるような様々な違いが生まれることになります。
では、アメリカ英語の特徴について、イギリス英語と比較しながらみていきましょう。
アメリカ英語とイギリス英語との違い
1. 綴り
アメリカ英語とイギリス英語では、同じ単語でも綴りが異なるものがあります。例えば、「色」を表す「カラー」は、アメリカ英語ではcolor ですが、イギリス英語ではcolour となります。「カタログ」は、アメリカ英語ではcatalog、イギリス英語ではcatalogueとなります。これらは一例に過ぎませんが、アメリカ英語の方がイギリス英語に比べ、綴りが簡潔であることが分かります。このようなアメリカ英語のシンプルな綴りには、ノア・ウェブスター(Noah Webster,1758-1843)という人物の影響があります。辞書の編纂者で、愛国者でもあった彼は、アメリカ独自の英語の確立を目指しました。そして、読まない文字を綴りから排除し、より発音に近づけようと尽力しました。
2. 発音
アメリカ英語とイギリス英語の発音には、様々な違いがあります。代表的なものをみていきましょう。
- /t/の発音
- oの綴りの発音
- /r/の発音
アメリカ英語では、/t/が母音に挟まれた場合、日本語の「ら行」に近い音に変化します。たとえば、put it offは「プリロフ(もしくはプリラフ)」、set up は、「セラップ」のように発音されます。
イギリス英語では「オ」に似た音で発音されるoの綴りが、アメリカ英語では「ア」に近く発音されることがあります。たとえばアメリカ英語では、hotは「ハット」、coffeeは「カフィ」のような音で発音されます。
アメリカ英語では、語の末尾や子音の前で/r/を発音します。一方イギリス英語では、広い地域において発音されません。(たとえば「ドア」のdoorは、イギリス英語では「ドー」のような音で発音されます。)
実は、アメリカへの入植が始まった17世紀には、イギリスの人々も/r/を発音していました。アメリカ英語で/r/を発音するのは、その当時の発音の特徴が現在まで残っているためです。一方イギリス本国では、その後発音が変化していったため、現在のような発音の違いが生まれました。
アメリカ英語の発音の特徴について、イギリス英語と比較しながらみてきました。特に①や②に関しては、これらの音に馴染みがないと、知っている単語や表現であっても聴き取れないことがあります。逆に、この音声変化を理解し、さらに自分でも使うことによって、認識できる音を大きく増やすことができます。
3. 語彙
アメリカ英語とイギリス英語では、同じものを表すときに異なる語彙を用いることがあります。特に、アメリカがイギリスから独立した18世紀以降に発達した分野には、異なる語彙が多く存在します。
【例】
アメリカ | イギリス | |
エレベーター | elevator | lift |
地下鉄 | subway | underground/tube |
ガソリン | gas | petrol |
高速道路 | freeway/expressway | motorway |
掃除機 | vacuum cleaner | hoover |
このように綴り、発音、語彙などにおいて、アメリカ英語とイギリス英語には様々な違いがあります。アメリカ英語が生まれた背景を知ることで、これらの違いも理解しやすくなるのではないでしょうか。
アメリカ英語の魅力とは?
世界では、World Englishesと表現されるほど、様々な英語が話されています。「英語はコミュニケーションの手段であり、発音を気にする必要はない」という意見もよく聞かれます。確かに、発音や文法の正確性だけでなく、まずは「話そうとする姿勢」を持つことも重要です。しかし、アメリカ英語は、英語学習者が使う教材の多くで使用されており、幅広い人にとって馴染み深いものといえます。「地域を問わず英語を使いたい」と考えている方にとって、アメリカ英語の習得は決して不利にはならないでしょう。
また、「文法や語彙は身についているが、リスニングが苦手」という方の場合、アメリカ英語の発音の特徴を学ぶことで、聴き取れる音を増やすことができます。リスニングの力が伸びると、インプットできる情報量が大幅に増えるため、英語の総合的なスキルアップにも繋がります。以上の点から、学習者にとってのアメリカ英語の魅力は、特にその「発音」にあると言えるのではないでしょうか。
まとめ
アメリカ英語の特徴とその魅力について、アメリカ英語が誕生した背景を振り返りながらご紹介してきました。留学先としての選択肢も増えている今、行き先をどの国にしようかと迷われている方もいらっしゃるかもしれません。どの国の英語にも、それぞれの魅力があります。アメリカ英語は、「多くの人に通じやすい英語の習得を目指す方」や、「リスニング力をアップさせたい方」に、特におすすめです。今回ご紹介した情報を、ぜひ留学先を検討する際のヒントにしてみてください。
【参考文献】「世界の英語ができるまで」唐澤一友著
【参考文献】「そうだったのか!アメリカ」池上彰著
【参考文献】「イギリス英語Total Book」カールRトゥーヒグ著
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