言語を学ぶには、単語・熟語をはじめ、慣用表現、文法上の規則など、とにかくたくさんの要素を覚えなければ前に進めません。英語学習者なら、学んだことを正確に、いつまでも記憶しておくテクニックがあればと、一度は考えたことがあるのではないでしょうか。
人が母語以外の言語を習得するプロセスの解明を試みる第二言語習得の分野でも、記憶のメカニズムや物事を効果的に記憶する方法に関する考察は多く見られます。
学んだことを「記憶し続ける」というのは、つまるところ「忘れない」ということです。今回は、「エビングハウスの忘却曲線」について学び、学習したことを記憶に留めておくための効果的な方法について考えます。
エビングハウスの忘却曲線とは?
ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウス(Hermann Ebbinghaus)は、時間経過にともなう記憶の変化を研究し、人の「忘却」のメカニズムの解明に挑みました。エビングハウスが1800年代後半に独自の実験で見出した「エビングハウスの忘却曲線(forgetting curve)」は、今も尚、記憶を保つ効果的な方策を模索する人々に示唆を与え続けています。エビングハウスの忘却曲線のグラフの縦軸は「節約率」、横軸は「時間」を表しています。エビングハウスは、一度覚えた音節を時間を置いてから再び完全に覚え直す実験を通して、最初の学習と再学習に要した時間の差を記録しました。そしてそれをもとに、再学習までに経過した時間ごとの「節約率」を算出しました。節約率とは、大雑把な言い方をすれば、最初の学習に対して2回目の学習で時間を短縮できた割合です。つまり、節約率が高いほど、一度覚えたことを学び直すのにかかる労力が小さかったということになります。
忘却曲線に基づく洞察
こうして得られたデータから、節約率は最初に音節を覚えた直後は急速に低下し、その後は緩やかに低下していることがわかります。
- 20分後 – 58.2%
- 1時間後 – 44.2%
- 1日後 – 33.7%
- 6日後 – 25. 4%
- 1ヵ月後 – 21. 1%
節約率の大幅な低下を考えると、学んだことは早いうちに復習するのが賢明だと言えそうです。
最適な復習のリズムとは?
脳研究者の池谷裕二氏は自身の著書「受験脳の作り方」で、脳の中で記憶を司る海馬の性質を考慮に入れた「復習のプラン」を次の通り提案しています。
- 1回目の復習 - 学習した翌日
- 2回目の復習 - 1回目の復習から1週間後
- 3回目の復習 - 2回目の復習から2週間後
- 4回目の復習 - 3回目の復習から1ヵ月後
このように、最初の学習から少しずつ時間の間隔を広げながら全4回の復習を行います。この繰り返し学習により、脳に入ってきた情報を取捨選択する役割を果たす海馬が、学習した情報を「必要な記憶だと判定」するのだと言います。
まとめ
学習したことを忘れてしまったら、学習した意味はないのでしょうか?エビングハウスの研究から、一度学んだことは、忘却してもタイミング次第で初回よりも短時間で覚え直すことができることがわかりました。適切なタイミングで再学習すれば、記憶を呼び戻す労力を「節約」できるのです。忘却曲線にヒントを得て、効果的なタイミングで復習の機会を提供するアプリや教材も開発されています。
また、今回は学習時の復習をテーマにその効果的なタイミングについて考えましたが、記憶の定着率に影響を与えるのは、復習のリズムだけではありません。学ぶ時間帯、学習者のモチベーション、学習方法など、記憶したことをどれだけ保持していられるかを左右する要素は多岐にわたります。先人の知恵に学びつつ、自分に適した効果の高い復習の方法を工夫してみましょう。
【参照書籍】「受験脳の作り方」池谷 裕二著
【参照サイト】 Hermann Ebbinghaus – Forgetting Curve, Psychology Experiments, Time, and Psychology – JRank Articles
【参照サイト】記憶障害
AS
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