街へ出れば、海外からのツーリストとすれ違うことが多くなりました。観光地やお店で働く人の中には、世界中から訪問者を迎える楽しさとともに、言語や文化背景の異なるお客さんに応対する難しさを感じている人もいるのではないでしょうか。
お酒を飲みながら、廃材のアップサイクル体験が楽しめるという東京都台東区の「Rinne.bar(リンネバー)」は、上野や浅草といった観光スポットにほど近く、訪日中の外国人のお客さんがたくさん訪れるお店です。アップサイクルとは、不要だと思っていたものや廃棄しようと考えていたものにデザインなどの付加価値を加え、価値あるものに作り変えること。バーのテーブルには、スタッフと会話を弾ませながら、ものづくりに勤しむ人たちの姿があります。
今回はそんなRinne.barで、オーナーの小島幸代さん(写真左)と、RINNE PROJECT アシスタント・プロデューサーの山浦あかりさん(写真右)より、世界各地から訪れるツーリストへのおもてなしのヒントをうかがいました。
Rinne.bar(リンネバー)とは?
Rinne.barは、お酒やソフトドリンクを飲みながら、アップサイクル作品づくりを楽しめる、大人のためのエンタメスポット。誰でも手ぶらで訪れて、気軽にものづくりを楽しめます。といっても、お店での過ごし方は人それぞれ。自分のペースでクラフトに没頭する人がいれば、アートに囲まれた趣ある空間でただゆっくり語り合う人もいます。
海外からのお客さんについてもそれは同じ。「クラフト」「アップサイクル」といったコンセプトに興味があり、訪日前から予約をして来店する人がいる一方、たまたま近くを訪れ、バーでお酒を飲みながら旅の疲れを癒して帰る旅行客も少なくないといいます。
お店のサイトは日英バイリンガル仕様
では、海外から来店予約をするお客さんは、どこでRinne.barを知るのでしょう。
Rinne.barのWebサイトでは、日本語によるお店の紹介文に英文が併記されています。そのため、インターネットで地域名と「craft」「DIY」「upcycle」「ethical」などのキーワードを掛け合わせて検索した結果、Rinne.barのサイトに出会い、来店してくれるお客さんも多いとのこと。
英語圏のWebサイトをお手本に
日英バイリンガル表記でサイトを立ち上げた小島さんに、これから自社サイトのコンテンツを英訳しようと考えているお店へのアドバイスをうかがいました。
自分たちが何をしていて、なぜ来店してもらいたいのかを英語でうまく伝える術を知るために、英語圏における同業者の発信を参照すべき、というのが小島さんからの回答。英語を母語とする人たちのメッセージを参照し、そのコミュニケーションをお手本にすれば、普段から英語を使う人たちへ訴える発信が可能になります。
シンプルな英語で伝える
Webサイトのほかに、Rinne.barでは、お店のコンセプトを伝えるパンフレットや、クラフトプロジェクトの手順を示す制作マニュアルも英語版が用意されています。
英文マニュアルを手掛けた山浦さんは、海外留学経験もあり、英語が堪能。それでも自分たちが説明できないような難しい単語は使わず、できるだけシンプルな英語を使って手順を伝えることを心掛けたといいます。
察すること、尋ねることから始まるコミュニケーション
Rinne.barのWebサイトを読み、気付いたのは英文が日本語の紹介文の単純な直訳ではないということ。
Rinne.bar
バーについて不要だと思っていたものが、価値あるものに生まれ変わる「アップサイクル作品」づくりを誰もが楽しめる小さな「モノづくりBAR」です。
席数は12席。昔ながらの建具がコラージュされた不思議な玄関、なぜかトンカチが埋まったテーブル、新しいのに古く懐かしい雰囲気。
地球にも優しく、ちょっと人にプレゼントしたくなる、自慢したくなる手作り作品を、お酒(もちろんノンアルコールのドリンクも)を楽しみながら作ってみませんか?
陽気なスタッフもサポートします!Rinne.bar is an entertainment spot where you can casually enjoy making things while having a drink.
This bar originated in Japan, where unused and discarded items are transformed into upcycled works of art.
It started in February 2020 in Tokyo’s leading manufacturing district (Shin-Okachimachi, Taito-ku, Tokyo). It has become a place for old and new manufacturing with the spirit of “Mottainai”, craftsman culture, and consideration for the environment that Japan prides itself on.
( Rinnebar「バーについて」より )
お店のコンセプトを伝える日本文と対を成す英文には、台東区新御徒町という立地についての説明や日本に息づく「もったいない」精神、職人文化についての説明が添えられています。
海外からのお客さんに、作品づくりの背景にある日本の文化や「日本らしさ」について伝えると、バーでの体験により関心を持ってもらえると話す山浦さん。
Rinne.barの和文・英文のメッセージは、それぞれの読み手が求める情報を綴っています。
お客さんの関心事を知ることがコミュニケーションの始まり
英語での接客時によく口にするフレーズを山浦さんに尋ねると、“How did you find out about this place?”という問いかけを教えてくれました。
この質問への回答から、お客さんがどうやってRinne.barを知り、どんな点に興味をもって来店してくれたのかがわかります。そしてお客さんの興味関心に合わせて話題を展開させられます。
山浦さんは、何組ものお客さんが集う場では、お客さん同士の会話をつなぐことも意識しているといいます。日本語を話せない海外からのお客さんと、英語が苦手なお客さんが居合わせた場合でも、興味分野などの共通項があれば、自然と対話は育まれるとのこと。
その日、新たな出会いやコミュニケーションが生まれれば、お店でのひとときはお客さんにとってより思い出深いものになるでしょう。
海外からのお客さんを迎える前に、できること
国際色豊かなお客さんとのやりとりをいつも楽しんでいると話す小島さんと山浦さんが、英語接客の事前準備としてすすめてくれたのは「My単語帳作り」でした。
My単語帳には、自分が普段の接客で繰り返し使う英単語やフレーズをリストアップしておきます。いろいろな接客シーンを想定し、それぞれの場面で活用できるフレーズや適切な英単語をあらかじめ学んでおけば、いざというときに伝えたいことを無理なく英語で伝えられます。たとえば飲食店のお客さんからはメニューについての質問、訪日中のツーリストからは、お店周りの街についての質問を受けることが多そうです。
山浦さんは、お客さんの問いにうまく答えられなかったときはメモしておき、あとで調べて単語帳を補足しているといいます。日々の業務を通して覚えておきたい言葉が増えるごとに単語帳をアップデートすれば、コミュニケーションの幅がどんどん広がります。
編集後記
海外から来日するお客さんも旅という日常の中にいることを考えて、気負うことなくやりとりを楽しむのが大切だと話してくれた小島さん。たとえ英語力に自信がなくても、伝えたい想いや相手を喜ばせたいという気持ちは会話を通してきっと伝えられる、と話してくれた山浦さん。
取材を通して、Rinne.barでのバイリンガルなコミュニケーションの源泉は、来てくれたお客さん一人ひとりにお店での体験をめいっぱい楽しんでほしいというスタッフの想いなのだと感じました。
【参照サイト】アップサイクルなモノづくりBar「Rinne.bar」
【参照サイト】クリエイティビティを取り戻す。廃材のアップサイクルDIYバー「Rinnebar」の哲学(IDEAS FOR GOOD)
【参照サイト】Rinne.bar, where drinking and upcycling meet! (Zenbird)
AS
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