海外留学や移住時に必要な英語の運用能力を測る試験として、幅広く活用されているIELTS(アイエルツ)。IELTSは、試験を上手く解くためのテクニックだけで一朝一夕に攻略できるものではなく、対策に頭を悩ませている学習者の方も多いでしょう。IELTSでのスコアアップのためには、継続的な学習を通じて、英語力の基盤と応用力をしっかりと養うことが不可欠です。
4つの試験科目のうち、リーディングセクションでは、文章の細かなニュアンスの解釈に注意が必要な問題も出題されます。限られた試験時間内でテキストから解答の根拠を見つけ出すには、要点を素早くつかみ、必要に応じて詳細部分も読み込みながら内容を正確に解釈する力を身につけることが重要です。
しかし、はじめからスピード重視でとにかく速く読むことだけを意識していると、肝心の内容の理解が疎かになってしまう可能性があります。「テキスト全体の話の流れはなんとなく把握できても、細かな情報の理解については自信がない」という場合は、まずは時間をかけてでも英文を正確に読む力を鍛えることが最優先です。
そこで今回は、筆者がIELTSのリーディングで9.0のスコアを取得するまでに、読解力向上の観点において最も効果があったと感じた英文の精読法を紹介します。
目次
精読とは
精読とは、一つひとつの語彙や文法に注意を払いつつ、文章の意味を丁寧に解釈し、その内容を正確に捉える読み方のことです。
英文を精読する際は、未知の単語があればその都度意味を調べ、主語と述語の関係や、文脈の展開なども入念に確認しながら読み進めていきます。そのため、単に英文を流し読みする場合と比べると、より長い時間を必要とします。
しかし、精読を通じて英文の読解力を高めていけば、副次的にリーディング時のスピードアップも期待できます。
精読を繰り返し、単語や文構造の解釈に関する知識が身につくと、初めて読んだ文章の中でもそれらの要素を瞬時に認識しやすくなります。結果的に、英文を読む際の負荷が軽減され、スピーディーかつ正確に内容を理解できるようになるでしょう。
英文精読 ― 学習法のステップ
ここからは、英文の精読を実践する際の具体的な手順を解説します。
ステップ1:自分の英語レベルに合った精読の題材を選ぶ
精読の題材選びは、学習の成果を左右する重要なポイントです。難易度が高すぎるリーディングテキストを選ぶと、思うように学習が進まず、途中で挫折しやすくなる一方、簡単すぎる場合も新たな学びや知識が効果的に得られません。
精読のための題材は、自分の現状の英語力よりも少し上のレベルのものが理想的です。個人的には、精読を始める前に文章全体にざっと目を通し、未知の単語や複雑に感じる文構造など、「なんとなく引っかかる箇所」がいくつか出てくるレベルの文章を目安としていました。
難易度が低すぎてはじめからスラスラ読める、あるいは単語一つひとつの意味をその都度調べなければ読み進められないほど難しい文章の場合は題材選びを再考する、というポイントを意識しておけば十分かと思います。
無料で読めるテキストを探すなら、英国の公共放送であるBBCのニュースサイトや、英語レベル別のニュース記事が読めるNews in Levelsなどが便利です。
IELTSでのスコアアップを目指すなら、科学、環境、ビジネス関連のトピックなど、実際の試験で頻繁に扱われるテーマを中心に選ぶとより効果的でしょう。
題材を選んだら、文章をノートに書き写したり、印刷したりと、精読をしながら単語の意味やメモを書き込める状態にしておきます。
筆者の場合は、本文を手書きで紙に写す作業に手間をかけたくなかったため、パソコン上でDrawboard PDFというアプリを使用していました。気になるニュース記事を見つけたら、本文をコピーして一度Wordファイルなどに貼り付け、PDF形式で保存します。保存したファイルをDrawboard PDFで開くと、ペンやマーカーの機能を使って文字や線を直接書き込めます。
Drawboard PDFは、さまざまな拡張機能が使える有料プランもありますが、英文を精読する際の簡単なメモ書き用として使う分には、無料版の機能でも十分だと感じました。
ステップ2:題材を読み進めながら、複雑で長い英文をチャンクで区切る
準備ができたら、精読用の題材を読み進めていきます。
途中、複雑な英文や理解につまずく部分があれば、意味のまとまり(チャンク)ごとに文を区切ります。チャンク分けをすることで、長い文も小さな意味の単位に分解できるので、文全体の要点をつかむための構造が見えやすくなります。

Drawboard PDFを使い、英文にスラッシュを入れてチャンクに区切った例
チャンクの区切り方がわからない場合のヒント
チャンクの区切り方にはたった一つの正解があるわけではなく、読み手によってチャンクの大きさや区切りを入れる箇所が異なります。しかし、そもそもどこでチャンクを区切ればよいのかわからない場合は、下記のポイントを参考にしながら意味のまとまりを見つけてみてください。
- カンマを目印にする
カンマ(,)がある箇所は、文が一旦区切れるポイントです。ここを一つの意味のまとまりとして捉えます。 - 関係詞の箇所で区切る
関係代名詞(which, that, whoなど)、関係副詞節(when, where, whyなど)は、先行詞に何らかの説明を加える意味のまとまりとして機能するため、一つのチャンクとして区切ります。
例:I bought a book / which explains English grammar. - 接続詞の箇所で区切る
and、because、thatなどの接続詞が出てきたら、その前後でチャンクを分けると理解がしやすくなります。
例:She stayed at home / because it was raining.
例:He said that / he would come later.
※チャンクの大きさに応じて、他の区切り方も存在します。
ステップ3:文の主節を見つける
いくつかの節が連なった長い複文の場合、修飾部分や背景情報の説明に気を取られすぎると、文の核となる主節を見失ってしまうケースがあります。そのため、英文をチャンクに区切ったら、文の骨格を作っている主節を見つけ出すことが大切です。
主節は、その文のメインポイントである主述を含んでおり、最も重要なメッセージを表します。そのほかの補足的な情報を削っていったとしても意味が通じ、単独で文として成り立つ部分が主節です。

英文の中で主節にあたる部分にハイライトを引いた例
上記の文では、ハイライトで示した「多くの教育者は、効果的なデジタル教育の鍵は、魅力的で双方向性の高いコンテンツの作成にあると主張している。」という意味の部分が主節にあたります。
ステップ4:主節とそれ以外の部分が果たす役割を整理する
文の主節を見つけたら、それ以外の部分が果たす役割とともに意味を紐解いていきます。その他の要素がどのように主節を補強しているかを読み解くことで、文全体の意味をより正確に解釈できます。
同時に、単語の意味や文法項目について調べた内容を簡潔に書き込んでいきましょう。これらのメモは、自分自身のために英文を読みやすくするガイドなので、綺麗にまとめることにこだわる必要はありませんが、ある程度色分けのルールを決めておくなどするとスムーズです。

単語や文法に関するメモを書き込んだ例
この場合の文頭のGivenは「~を考慮すると」という意味で、主節の前提となる情報を示しています。which以降に続く関係代名詞節は括弧書きでくくり、何について説明しているかがわかるように、先行詞のthe rapid expansion of online learning platformsを四角でマークします。
さらに、緑色の下線を引いたcreating engaging and interactive content(魅力的で双方向性の高いコンテンツの作成)と、コンマを挟んで続くa goal(目標)は同格であり、「コンテンツを作ること」と「目標」はイコールでつながる関係と捉えられます。
a goal以降には再び関係代名詞節が登場するので、文の前半部分と同様に先行詞を四角で囲み、補足説明の部分には括弧を書き入れました。
また、engagingの単語の上に“adj.(=形容詞の意)”とメモしたのは、creating engaging and interactive content…という部分の中で、動名詞“creating”の次に同じく~ingという語尾を持つ形容詞の“engaging”が並んでおり、それぞれの品詞の判別が一見紛らわしいと感じたためです。
これらの解釈を踏まえて文全体を整理すると、下記のような意味になります。
オンライン学習プラットフォームの急速な拡大を背景に、教育の提供方法が大きく変化する中、多くの教育者は、効果的なデジタル教育の鍵は魅力的で双方向性の高いコンテンツの作成にあると主張している。しかし、それ(コンテンツの作成)は多くの教育機関にとって依然として難しい目標である。
※日本語訳は一例です。
このように、複雑に見える英文も、段階を踏んで精読をしていくことで正確に解釈できるようになります。どんなポイントについて、どれほど細かくメモを書き込むかは学習者個人の英語レベルによって異なりますが、はじめは品詞の種別を漏れなく書くなどして、基礎から固めていくのも一つの手です。
続けていくうちに文構造の特定や品詞判別のスピードがアップし、毎回辞書で調べなくとも自分で判断できる範囲が広がっていくのがわかるでしょう。
筆者個人としては、1,000語程度の文量の英語ニュースや読み物を毎日一つ精読し、それを1~2ヶ月続けた頃から読解力の向上を実感し始めました。読解力のベースができると、初見の英文で未知の単語が出てきた時も、その他の部分を丁寧に読み解くことで文脈から単語の意味を推測できるケースが増えたように思います。
まとめ
IELTSのリーディングセクションでは、馴染みのないテーマに関するアカデミックな内容の英文を読解し、設問に答えなければならない場面も少なくありません。しかし、テーマに関する専門知識が求められるわけではなく、あくまでも重要なのは「本文に書かれている内容を正確に読み取る力」です。文章中の情報を注意深く精査し、設問に適切に答える力を養うために、精読は非常に有効な学習方法となります。
地道に精読に取り組むことで得られるのは、文の中で最も重要なポイントを的確に察知してそこに焦点を当て、それ以外の部分は適度にズームアウトした「引きの視点」で読みながら、複数の情報を効率的に処理するスキルだと感じます。
精読による学習効果を実感するまでには、一定の時間が必要であり、腰を据えてじっくり取り組むことが求められます。しかし、IELTSの試験対策に直結するだけでなく、難易度の高い初見の英文も読み解けるだけの思考力も習得できる点を考えると、精読はむしろ本質的な英語力の強化につながる近道といえるかもしれません。
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English Hub 編集部

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