洋書多読におすすめ!日本文化を英語で紹介するなら必読の書8選

2019年4月1日、新たな元号として「令和」が公表されました。この名称は、はじめて日本の古典『万葉集』から採られた点で画期的であるとされ、英ガーディアン紙でも報道されています。

東京オリンピックは、「令和2年」に開催されることとなります。英語を通して日本的な「おもてなし」をするにあたっても、古典について英語で語ることができれば、より一層深みがあるコミュニケーションが取れるでしょう。

そこで今回は、あえて英語で読んでおくことで多文化的な対話の場面で役立つ、日本についての名著をご紹介します。

1. Tale of Genji (『源氏物語』)

史上初の長編小説として、世界中で称賛されてきた『源氏物語』ですが、平安朝に書かれた原文が読みにくいことでも知られています。与謝野晶子や谷崎潤一郎による「現代語訳」も助けになりますが、英訳で読むとむしろ読みやすい、というポイントがあります。「桐壷 (The Paulownia Pavilion) 」や「夕顔 (The Twilight Beauty)」などといった、有名なヒロインについての箇所を読むだけでも、日本文化のエッセンスに触れることができるでしょう。

2. Chushingura (『忠臣蔵』)

『源氏物語』がフェミニンな感性を極めた一方で、浄瑠璃劇 (puppet play) としての『忠臣蔵』は、侍たちの忠誠心を美学に高めた作品になっています。江戸時代の浄瑠璃劇は、原文だと非常に複雑です。先日惜しくも逝去したドナルド・キーン氏による英訳では、現代風に再構成されており、江戸文化をスムースに吸収するのに最適な1冊となっています。 “47 Ronin” としても名高く、近年はハリウッドで映画化もされている作品なので、ぜひ英訳のリーディングに取り組んでみましょう。

3. The Love Suicides at Sonezaki (『曽根崎心中』)

日本史を勉強したことがあれば、劇作家の近松門左衛門の名前は誰もが記憶しているでしょう。江戸時代の市井の人々の生活を題材にしながら、「義理 (social obligation)」や「人情 (humanity)」が生き生きと描かれています。特に”Four Major Plays of Chikamatsu“に収録されている「曽根崎心中」では、しきたりのため結ばれない恋人たちが心中 (love suicides) にいたる悲劇をテーマに、江戸社会の生きづらさが見事に表現されています。原文が「台本」のため英訳も読みやすく、また短さも魅力です。

4. The River Sumida (『すみだ川』)

Modern Japanese Literature: An Anthology ”は、明治から昭和にかけての短編小説が多数収録されている良書で、英訳も質が高いです。その収録作のなかでも最もおすすめしたいのが、永井荷風による短編「すみだ川」になります。近代化が急速に進む当時の日本社会で、伝統文化に生きるか、それとも明治の競争社会に身を投じるべきかという若者のジレンマが描かれます。

ドナルド・キーン氏は、「すみだ川」の素晴らしさについて、以下のようにコメントしています。

The River Sumida is probably Kafu’s most affecting work. It tells of a boy named Chokichi whose mother teaches tokiwazu music and whose uncle is a professional haiku master […]. Chokichi is the pathetic victim of his mother’s [modern] ambitions, but she in turn is a victim of the changes in society. (”A History of Japanese Literature” 第3巻より)

このように、日本社会が常に「伝統的」で「美しい」ものだったわけではないという視点も、グローバルな観点から日本を見つめる際にキーとなる洞察でしょう。

5. The Book of Tea(『茶の本』)

明治期に入ると、新渡戸稲造や内村鑑三といった知識人たちが、英語で日本について著すようになりました。その中でもとりわけ有名なのが、岡倉天心による『茶の本』です。茶道(teaism) についてのエッセイですが、ユーモアにあふれたスタイルで、英語の “a tempest in a teacup”(から騒ぎ)というイディオムを、茶碗 (tea-cup) と引っ掛けて

What a tempest in a tea-cup! […] But when we consider after all how small the cup of human enjoyment is […], we shall not blame ourselves for making so much of the tea-cup.(”The Book of Tea”より)

という気の利いたジョークを述べたりしています。The Project of Gutenberg のサイトでは、オンライン版を手軽に読むことができます。

6. Zen and the Japanese Culture (『禅と日本文化』)

岡倉天心と同じく、日本文化のエッセンスを英語で広めたのが、鈴木大拙です。岡倉が茶道について論じた一方、鈴木は「禅」と日本的美学について幅広く解説したパイオニアです。彼の功績により、“zen” という言葉が英語となりました。“zen”は、形容詞として次のように使うことができます。

“He never gets upset no matter what happens. He’s like a zen monk or something!”
“The style of her photography remains always simple but bold. It’s very zen.”

禅の境地にいたるのは難しいですが、これを機に “zen” という英単語だけでもマスターしてしまいましょう。 

7. Patriotism (『憂国』)

由緒あるPenguin社から2018年に発行された“The Penguin Book of Japanese Short Stories” は、村上春樹の英訳で知られるジェイ・ルービンの編集で、星新一による作品などが含まれた、ユニークなセレクションです。そのなかでもぜひ読んでおきたいのが、昭和の大作家・三島由紀夫の短編「憂国」でしょう。

226事件に参加できず、罪悪感から割腹自殺にいたる Lieutenant Takeyama が主人公です。「切腹」の過程が生々しく描かれ、読むのがためらわれるかもしれません。一方で、三島の華麗なスタイルが見事に英訳されています。1966年には映画化され、三島の代表作として世界的に認知されているので、一読の価値があります。

8. An Artist of the Floating World (邦題『浮世の画家』)

最後に、ノーベル賞作家のカズオ・イシグロによる小説 “An Artist of the Floating World”を挙げたいと思います。英ガーディアン紙による100 Best Novelsにも選ばれた秀作です(The 100 best novels: No 94 – An Artist of the Floating World by Kazuo Ishiguro (1986))。

様々なジャンルとテーマで執筆するイシグロですが、本作は彼の作品の中でももっとも日本社会にフォーカスしたものとなっています。戦後の占領下の日本を舞台に、時代の移り変わりに苦悩する浮世絵画家の姿が描かれます。テーマが日本文化であるので、しなやかなスタイルが特徴のイシグロ作品のなかでも、とりわけ日本人にとって読みやすく、共感できる小説だといえるでしょう。

まとめ

以上、日本文化について英語で表現するために役に立つ8冊を厳選して解説しました。文化について語るとなると、つい “It’s very hard to explain about Japanese culture…” と逃げてしまいたくなるかもしれません。しかし、英語を通して日本について「学び直す」ことで、英語力をアップさせるだけではなく、外国語を使うためにキーとなる「文化的な理解力」を深めることができます。英訳も優れたものが多く、日本文化のエッセンスを英語に置き換えて表現する参考としても有益です。新しい元号にあわせて日本文化を見つめ直しつつ、新たな学習スタイルを開拓してみましょう。

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茂呂  宗仁

茨城県生まれ、東京在住。幼少期より洋画に親しみ、英語へのあこがれを抱くようになる。大学・大学院では英文学を専攻し、またメディア理論や応用言語学も勉強。学部時代より英米で論文発表も経験。留学経験なくして英検1級、TOEIC970、TOEFL109を取得。現在は英会話講師兼ライター・編集者として活動中。

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