英国情報部(MI6) のスパイ、ジェームズ・ボンドが活躍する「007シリーズ」は “Vodka martini — shaken, not stirred” などの名台詞で知られています。次回作 “No Time to Die” の撮影もはじまり、2020年の公開に向けて世界の映画ファンが注目しています。
“Bond 25″は、人気俳優ダニエル・クレイグがボンドを演ずる最後の作品となり、また女性が脚本チームに加わったことでも話題です。これまで6人の俳優がボンドを演じてきましたが、今回はユーモアとウィットにあふれる、ボンドの本質に切り込むようなセリフをご紹介したいと思います。
1. Goldfinger(1964)
初代ボンド俳優ショーン・コネリーの代表作が『ゴールドフィンガー』です。ボンドの愛車となるアストン・マーティンがはじめて登場した作品でもあります。
ここでは、悪役ゴールドフィンガーに捕らえられ、レーザーによってボンドが処刑されそうになる、以下のシーンに注目しましょう。
- Bond: I think you’ve made your point, Goldfinger. Thank you for the demonstration.
- Goldfinger: Choose your next witticism carefully Mr. Bond. It may be your last.
下線を引いた “make one’s point” は「〜の意見をはっきりと述べるという意味になります。ここでボンドが言わんとするのは「お前の意図はわかった(=降参だ)」ということです。
次に、ゴールドフィンガーの返答のしかたに注目して、“Choose your next…carefully. It may be your last.” の日常での応用を考えてみましょう。
- A: My girlfriend dumped me! This is my third time to be thrown over.
(また彼女にフラレちゃったよ。もう3回目だ) - B: Choose your next girlfriend carefully. It may be your last.
(次は慎重に相手を選べよ、もう先はないかもしれないぞ)
このように、相手に慎重に行動するよう促したいときに “It may be your last” と付け加えると、いっそう効果的になるでしょう。
2. On Her Majesty’s Secret Service (1969)
コネリーの後継となったジョージ・レーゼンビーによる、唯一のボンド映画が『女王陛下の007』です。 “secret service”というと「米大統領のボディガード」というイメージが強いですが、イギリスでは「情報部・スパイ組織」という意味で使われます。
海外では007映画の最高傑作の一つと見なされている名作で、ハードなアクションと本格的ロマンスが融合した、男女問わず楽しめる1作です。ここでレーゼンビーのボンドが発する最初のセリフに注目しましょう (動画0:55)。
- Bond: This never happened to the other fellow.
これは、ボンドがヒロインの窮地を救ったにも関わらず、彼女があっさり立ち去ったことを嘆いているセリフです。ここでの “the other fellow(別の/例のアイツ)”とは、コネリーのボンドのことを指すジョークです。
このセリフをどのように応用できるか考えましょう。
- A: Your boyfriend is flirting with another girl again?
(あなたの彼氏、また他の女と浮かれているの?) - B: I know! This would never have happened to the other fellow.
(本当にそう。他のあの人を選んでおけば、こんなことはしなかっただろうに)
これは「仮定法過去」を用いた “If I had chosen the other fellow, this would never have happened” (もしあの人のほうを選んでおけば、こんなことにはならなかっただろうに)を短くした言い方です。
「驚愕」や「後悔」を表現する際に “This never happened to…” は便利な表現なので、ぜひ丸ごと覚えておきましょう。
3. The Spy Who Loved Me (1977)
2017年に世を去ったロジャー・ムーアは、コミカルな演技でシリーズの方向性に大きな影響を与えました。7作でボンドを演じた彼ですが、3作目の『私を愛したスパイ』は、当時シリーズの記録を塗り替える大ヒットとなりました。
失踪した潜水艦の行方を追うボンドですが、敵国ソビエトの女性スパイ、アーニャとコンビを組むことになります。ラストシーンで、アーニャとボンドがベッドを共にしているのに驚愕した上司と、ボンドの会話を見てみましょう。
- Boss: Bond! What do you think you’re doing?
- Bond:Keeping the British end up, sir.
下線を引いた “keep one’s end up” という表現に注目しましょう。“end”という言葉には、「終わり」や「目的」に加えて、「タスク」や「役割」という意味があります。そのため “keep one’s end up” は「〜の仕事を果たす」というイディオムです。
“Keeping the British end up” は、「イギリスのために仕事をしています」と訳せますが、ここでは「ロシア人女性に、イギリス人男性の魅力を伝えている最中です」という、二重の意味のジョーク(double entendre)となっています。
日本人ならば“keep the Japanese end up” となり、「日本精神を見せる」と表現できます。どのように使えるか考えましょう。
- A: I’ve started taking kimono lessons.
- B: Wow, that’s cool!
- A: I always try to keep the Japanese end up.
(いつだって日本人の魂/伝統に忠実なんです)
これからは “traditional culture” や “Japanese spirit” のような言葉だけに頼らず、ボンド流に日本文化をアピールしてみましょう。
4. The Living Daylights (1987)
ムーアにつぐボンド役のティモシー・ダルトンは、気品にあふれたイギリス英語を話すのがポイントです。東西冷戦やアフガニスタン戦争をテーマとした『リビング・デイライツ』では、陰謀に巻き込まれた女性チェリストのカーラを救ったボンドが、武器満載のアストン・マーティンで窮地を切り抜けます。
ボンドの用いる秘密兵器に混乱するカーラと、ボンドの間で交わされる以下のジョークを見てください(動画0:19)。
- Kara: What is this?
- Bond: I’ve had a few optional extras installed.
「これは何なの?」と戸惑うカーラに、ボンドは「(この車には)いくつかのオプション (“a few optional extras”) が搭載されているんだ」と返します。ミサイルやレーザーなどの秘密兵器を、カーナビのような「オプション」として表現しているのがポイントです。
ここで下線を引いた “have” は「使役動詞」で、「〜を…の状態にする」という役割を果たしています。次のような応用例を考えてみましょう。
- Mother:Your room is always so messy!
- Son:You’d better hire a maid or something. They’ll have the room cleaned.
(メイドでも雇ってくれれば、きれいにしてもらえるんじゃない?)
次に “I’ve had a few optional extras installed” を直接引用できるシチュエーションを考えましょう。これは「サプライズ」の感じを出したいときに有用です。
- A: You moved to a new apartment?
- B: Yes, and I’ve had a few optional extras installed too.
- A: What are they?
- B: A new boyfriend, and he’s got a nice job and a car!
このように、「新しいものをゲットした」ことをユーモラスに伝える際に重宝するフレーズなので、ぜひ活用してみましょう。
5. GoldenEye(1995)
90年代のボンドとして登場したのがピアース・ブロスナンです。デビュー作『ゴールデンアイ』は、初めて上司の “M” が女性となり、ボンドを “sexist dinosaur” と言い放った画期的作品です(動画1:32)。
楽しいセリフが満載の作品ですが、ここで米批評家のRoger Ebertを驚かせた(参照:Goldeneye Movie Review Film Summary (1995) | Roger Ebert )ジョークをご紹介します。ロシア軍に捕らわれたボンドが尋問される際のやり取りを見てください。
- Mishikin: So, by what means shall we execute you, Commander Bond?
- Bond: What, no small talk? No chit-chat? You know, that’s the trouble with the world today. No one really takes the time to do a really sinister interrogation anymore. It’s a lost art.
「どう君を処刑 (execute) しようか」と切り出すロシア人に、ボンドは「おしゃべり(small talk/chit-chat)もなしで?それが問題だ。おっかない尋問 (really sinister interrogation) は失われた芸術になってしまった」 と言い返します。これは、先に紹介した『ゴールドフィンガー』での尋問シーンへのオマージュと言えるでしょう。
この “No…? That’s the problem with the world today” を、どのように日常で使うかを考えてみましょう。
- A: What books have you read lately?
- B: Actually, I haven’t read anything for a long time…
- A: What, no Murakami? No Hemingway? You know, that’s the trouble with the world today. No one really takes the time to read good books anymore!
このように「最近は〜されなくなった」と大げさに嘆いてみせる際に効果的な言い回しです。ジェネレーションギャップなどを感じたときに特に役立つセリフです。
6. Skyfall (2012)
ボンド映画に新たなリアリティを加えたのが、『カジノ・ロワイヤル』にはじまるダニエル・クレイグ主演作品です。その中でも『スカイフォール』は、ボンドの過去に踏み込むことで、キャラクターに新たな深みをもたらしました。
脚本チームに John Loganが加わったことで、鋭いアイロニーに満ちた名言が多数生まれた作品です。悪役シルヴァによる男同士のセクシャルな尋問シーンは特に有名です。
- Silva: Well, first time for everything, yes?
- Bond: What makes you think this is my first time?
ゲイの関係をほのめかし「何にでも初体験 (first time) はある」と誘惑するシルヴァに、ボンドは「これが俺の(男同士の)初体験だとどうして思うんだ?」と切りかえします。
ここでの “make” は「使役動詞」で、目的語のあとに動詞の原形をとって「(目的語)に〜させる」という文法となります。 “What makes you think ?” という疑問文は、反語的に「〜と思うあなたは間違っている」という表現です。
「(男性が女性に対し)偉そうに説明してみせる」という “mansplaining(man + explain)” という新語が広く使われるようになったので、ここで併せて使ってみましょう。
- Man:You’ve got a new smartphone? Let me help you, women suck at high-tech stuff…
- Woman:What makes you think this is my first time to use a smartphone? Stop mansplaining!
このように、「相手の思い込み」に対して異議を唱えたいときに便利な言い回しです。「初心者扱いしないで」と言いたいときに、ぜひ使ってみましょう。
まとめ
007映画というと、荒唐無稽な男性のためのアクション映画というイメージがあるかもしれません。しかし、セリフをよく観察してみると、巧みに英文法やイディオムを駆使した実用的な英語表現が、数多く使われていることに気づくことでしょう。新作の公開を来年にひかえた今、これまでの作品を英語学習の題材として振り返ることで、「ボンド映画」のエッセンスを再確認してみませんか?
【関連ページ】【映画に学ぶ英会話3】「ミッション:インポッシブル」シリーズで学ぶビジネス英語表現
【参照サイト】 Phoebe Waller-Bridge: new Bond film must ‘treat women properly’ – even if he doesn’t | Film | The Guardian
【参照サイト】On Her Majesty’s Secret Service | Far Flungers | Roger Ebert
茂呂 宗仁
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