英語学習では、文法書やボキャビル本だけでなく、ネイティブが日ごろ接している「活きた英語」をどれだけ活用できるかも重要になってきます。しかし、いざ教材から離れ、活きた英語を求めて洋書や洋雑誌、英語ニュースに触れるとなると、溢れる情報の中から何を選び、どこから始めればよいのかを見極めるのは容易ではありません。
ここでは、生の英語を消化するにあたって役に立つ「Narrow Reading」、そしてそれに付随するListeningやViewingなどのアプローチ法をご紹介します。いずれもネイティブが触れている英語に接しつつ、無理なく英語力、特に語彙力を向上させることを目指す学習法です。
“Narrow” の意味とは?
“Narrow” というと、通常は通路などが「狭い」という意味で用いられますが、ここでは「トピックを絞ってフォーカスを当てた」という意味になります。したがって “Narrow Reading / Listening / Viewing” は「読む・聞く・観るトピックを制限することで、よりスムーズに語彙力をアップさせる」テクニックです。以下に、Narrow Reading についての定義を引用します。
(Narrow Readingとは)同一のトピックについての、様々なテクストを読むこと。このアクティビティは、背景知識を豊かにし、また語彙的にも負担が少ないので、理解度向上に寄与する」
(「How Vocabulary is Learned」 Stuart Webb、Paul Nation著、282頁より)
ここでキーとなるのは、「トピック」を賢く選ぶことで、「新しい語彙」をよりスムーズに習得することができ、それがより深い「内容理解」へとつながる、という点です。これはリーディングだけでなく、リスニング、そして映画やTVの視聴にも当てはまります。
以上を踏まえつつ、どのような学習法が考えられるかを、見ていきましょう。
「トピック」の選び方
「多読・多聴」といっても、手当り次第ランダムに乱読・乱聴するのは、語彙習得の観点からはおすすめできません。効率的にボキャブラリーを増やすためには、トピックを絞ることで、同一の英単語に繰り返し触れるようなストラテジーが有効です。
さらに、「背景知識 (background knowledge)」の大切さも見逃せません。例えば、TOEICのためにビジネス英語を学びたいのなら、自分が(日本語を通して)持っているビジネスの知識が扱われているマテリアルを選ぶことがポイントになります。自分はどのような分野に詳しいか、そしてその知識をいかに英語習得に活かせるのかを前もって考えておくことが、よりスムーズな学習につながるでしょう。
マテリアルの探し方
では、実際にNarrow Reading/Listening/Viewing のためのテクストをどのように探すかを考えてみましょう。
まず、先述したように自分の興味がある分野のテクストを選ぶことがキーとなります。すでに持っている背景知識が活かせるだけでなく、興味を通して「統合的モチベーション (integrative motivation)」を高めることが期待できます。ここで、考えられるトピックの一部を列挙してみましょう。
【フィクション】
- ロマンス・歴史もの
- アクション/スリラー
- ホラー/SF
- 純文学
【ノンフィクション】
- 政治・経済(時事ニュース)
- ビジネス・自己啓発
- 歴史・地理・文化
- サイエンス/テクノロジー
以上のようなトピックから、自分にとって興味があり、かつ背景知識をすでに持っているマテリアルを見出せれば理想的です。例えば「AI」に興味があるなら、テクノロジーについての英語記事やニュース動画、書籍、そしてAIがテーマであるSFなどから選ぶことができます。
実践してみる①:『ドラキュラ』編
ここで、人気ジャンルの「ホラー」、とくにバンパイアものに興味があるとして、それをどのように Narrow な学習法につなげられるか考えてみましょう。
まずは、本家であるブラム・ストーカー著 “Dracula ” を手に取ってみましょう。19世紀末に書かれたホラー小説の元祖で、当時としては平明な英語で書かれているのが特徴の名著です。
ここで、いきなり19世紀のオリジナルに取り組むのはためらわれた場合には、学習者向けにリライトされているPearson English Readers版から始めてみましょう。
さらに、Listening や Viewing を組み合わせて、より背景知識やイメージを深め、着実な語彙力アップを目指してみましょう。このケースでは、原作に忠実に映像化されている、フランシス・コッポラ監督の『ドラキュラ』がおすすめです。
オスカー俳優のゲイリー・オールドマンとアンソニー・ホプキンス、そして若き日のキアヌ・リーブスが共演した豪華作品なので、入門にはうってつけでしょう。当時のヨーロッパの雰囲気が、色彩ゆたかに再現された名作です。
「バンパイア」の物語は、ブラム・ストーカーの原作だけにとどまらず、独立したジャンルとなっています。さまざまな本、映画、TVドラマによって取り上げられてきたため、トピックのフォーカスを失うことなく多彩なアプローチが可能なジャンルだと言えるでしょう。
ここで、1990~2000年代にアメリカで旋風を巻き起こし、現在の #MeToo ムーブメントへの足がかりを築いたドラマ『バフィー/恋する十字架(Buffy the Vampire Slayer)』を取り上げ、いかに “Narrow” と呼ばれる学習スタイルが、実際には幅広いものになりえるかについて考えます。
(YouTubeチャンネル「MsMojo」 からの紹介画像)
本ドラマは、カリフォルニアの「サニーデール高校」に、バンパイア・スレイヤーの少女バフィーが転校してくるところからはじまる、全7シーズンの長寿番組です。バフィー、彼女の家族と友人たち、そして悪役のキャラクターや舞台のセッティングなどがシリーズを通して一貫していることも、英語での理解を助けてくれます。
さらに、「背景知識」の観点からキーとなるのが、このドラマは「バンパイアもの」かつ「アメリカの学園もの」として、2つのテーマが盛り込まれている点でしょう。ホラーを楽しみながらアメリカの若者生活について背景知識を得ることができる、“Narrow” な学習スタイルでありながら2重の意味で効率的なマテリアルとなっています。
実践してみる②:時事英語編
ここでは、時事英語を効率的に学べるマテリアルをご紹介したいと思います。
「時事英語」というと、TOEICの参考書に出てくるような「堅い」感じの学習スタイルをイメージするかもしれません。堅めのトピックを扱う場合は、たとえばそのトピックについてのコメディやお笑いをマテリアルに学習すれば、爆笑しながら英語力の向上が狙えます。
アメリカでは、ニュース番組であるかのような設定で、時事問題についてスタンダップコメディの観点から風刺するスタイルが人気です。ここで、特に人気のある3人のコメディアンによる番組をご紹介します。ここでのトピックは、 Robert Mueller検察官による、トランプ大統領の関与が疑われている「ロシア疑惑」の追及です。
Daily Show with Trevor Noah
南アフリカ生まれのTrevor Noah は、自伝である 「Born a Crime: Stories from a South African Childhood」が最近刊行されたこともあり、日本でも知名度が高いコメディアンです。アフリカ系アメリカ人ならではの、人種問題についての鋭い切り口が特徴です。
Closer Look by Seth Meyers
ノアによるダイナミックなお笑いのスタイルとは対照的に、真面目な顔をしながらギャグを連発するのがSeth Meyersの特徴です。アメリカのポップカルチャーへの言及もしばしばで、そういった背景知識を深めるのにも役立つでしょう。
The Late Show with Stephen Colbert
Stephen Colbertは、リラックスしたスタイルながらも際どいギャグを繰り広げるコメディアンです。本動画では “exculpate(無罪とする)” という、ネイティブにも馴染みがない単語が議会で使われていることを皮肉に笑い飛ばすのが見どころです(動画2:46 ~ 3:26)。しかし、英語学習の観点からは、この単語が文脈や画像を通してスムーズに頭に入ってきます。
以上のように、これら3人の大人気コメディアンは、政治問題をコンスタントに風刺する点で一貫しています。彼らのショーを定期的に視聴していけば、「政治」のような取っ付きにくいトピックであっても、「コメディ」というフィルターを通して楽しく学ぶことができます。ユーモアを楽しみながら、背景知識を深めるのも有益な学習法と言えるでしょう。
まとめ
“Narrow” な学習方法とは、あくまで「焦点を絞った」スタイルの学び方であり、必ずしも「視野の狭さ」を意味するものではないことがお分かりいただけたと思います。加えて、自分の持っている興味と背景知識をうまく組み合わせることで、1つのトピックから際限なくマテリアルを探し出していけるのも大きな強みです。自律した学習者として、自分の英語学習をデザインするにあたっても、たいへん参考となるメソッドだと言えるでしょう。これを機に、自分の興味や関心を、どのように英語学習の促進に活かせるかを見直してみませんか?
【参考書籍】「How Vocabulary is Learned」 S. Webb & P. Nation著
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茂呂 宗仁
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