第二言語習得理論からみた「外国語習得に成功する学習者」が持つ5つの特徴とは?

私たち日本人は多少の個人差はあるものの、ほぼ確実に「母語」である日本語をスムーズに習得できます。その一方で、第二言語 (second language) である英語については、一人ひとりによって習得力に大きく差が出てきます。この個人差は、環境による変更不可能な要素と、個人の努力によって変更可能な要素の組み合わせに由来します。

ここでは、第二言語習得理論から得られる知見を参考にしながら、どのようにすれば第二言語である英語の理想的な習得法にたどりつけるかを考えてみたいと思います。日本人学習者がつい陥りがちな偏った学習法を避けながら、サイエンスを基とした英語学習について考察します。

1. 5つの習得ファクター

まずは、第二言語を習得するにあたって有利となる、代表的ファクターを5つ挙げてみましょう。

まずは「①年齢」です。「臨界期仮説 (Critical Period Hypothesis) 」が提唱するように、高い第二言語能力を習得するためには、思春期前後までの取り組みがキーとなります。臨界期を何歳までとするかは諸説あるものの、幼少期の学習が有利に働くことは間違いないでしょう。

次に「②言語間の距離」があります。例えば、ヨーロッパ系の言語を母語とする人にとって、英語は母語からの「距離が近い」ので、比較的スムーズな習得が期待できます。逆に「英語と日本語」の組み合わせでは、しばしば正反対の関係にあると言われるほど両者は隔たっています。したがって、日本語話者にとって英語が難しいのは、言語同士の関係上しかたのないことと言わざるを得ないでしょう。

また「③適性(aptitude)」があると、習得がより速く、より容易になると考えられています (「 Second Language Acquisition Myths: Applying Second Language Research to Classroom Teaching.」130頁参照)。例としては、「音」「文法への敏感さ」「パターン把握」「暗記力」などが挙げられます (同131頁参照)。最近では、脳の「作業メモリ (working memory)」の容量なども、適性のひとつとして注目されています。

「年齢」や「言語間の距離」、「適性」などは、学習者にとっては変更できないファクターです。しかし、第二言語の習得を左右する残り2つのファクター「④動機づけ (motivation)」と「⑤効果的な学習法」については、個々人が各々の言語学習をデザインするにあたって変更可能な要素です。

ここからは、「動機づけ」そして「学習法」の2つについて考えてみたいと思います。

2. 動機づけの分析

私たち日本の英語学習者にとっての「動機づけ」について考えるには、まず「なぜ日本人が英語を習得したいのか」を考えなければなりません。

モチベーションの2つの種類

国内にいる限り、日本語だけでほぼ事足りる日本人にとって第二言語の習得においては、「道具的モチベーション(instrumental motivation)」が大きな役割を果たしてきました。これは、「テストに合格するため」や「昇進・昇給のため」といった、言語とは関わりのないゴールを達成するための「道具」として英語を学習する際のモチベーションになります。

その一方で、「その言語が話されるコミュニティの一員となりたい」という動機は「統合的モチベーション(integrative motivation)」と呼ばれます。こちらは、外国語を学ぶプロセスそのものが楽しみとなるような動機づけなので、道具的なモチベーションよりも習得の助けになることが証明されています。

日本の学習者にとってのモチベーションを考えなおす

モチベーションには2つの種類があると述べましたが、一般の学習者にとっての現実は、より複雑なはずです。「受験に合格したい」という道具的理由を主として英語を学ぶ生徒にとっても、「世界の人々と交流したい」という統合的なモチベーションがゼロなわけではないでしょう。逆に「映画を字幕無しで楽しみたい」という統合的な動機が強い学習者にとっても、英語ができれば学校や職場で有利に違いありません。

ここで注目したいのが、Zoltan Dornyei らによって近年提唱されている「理想的な外国語の自我 (Ideal L2 Self)」という考え方です (「Second Language Learning and Language Teaching」155頁参照)。これによると、外国語の習得でキーとなるのは、「将来の自分がどのようにありたいか」という「ビジョン」であり、それに向けてのモチベーションが有効だとされます。

これを参考に日本人学習者について考えると、「学校・仕事で必要だから」(道具的)や「外国人の友達を作りたいから」(統合的)などがのモチベーションがある一方で、視野の長期性に欠けている傾向にあるのではないでしょうか。「テストに受かるため」や、「海外で交流するため」といった短期的ゴールのためのモチベーションだけでなく、英語を通して「将来の自分の理想像」を描き、それに向かって長期的な努力をする、という態度がより好ましいものだと言えるでしょう。

3. 効果的な学習法とは?


「動機」について考え、「外国語で理想的な自我」を実現するための長期的な努力が望ましいと述べました。この「英語を使っている理想の自分」を達成するための長期的努力はどのようなものであるかを念頭に、学習法を考えてみましょう。

「将来の理想的自我」といっても、10年以上かけて学習プランを構築するのは、一般の学習者にとってはなかなか難しいかもしれません。ここでは、まず自分にとっての「長期的な目標」とは何かを自分で考え、そこから逆算して、日々の学習ペースやスタイルを導き出してみましょう。

ここで、英語を学ぶにあたっての(統合的)欲求や(道具的)必要性は、様々なものでありえます。また、10代の学習者にとっての理想の自我と、ビジネスパーソンが目標とするような自我は、大きく異なるはずです。「個々人によって理想とする将来の自我は異なる」のであれば、個々人にとっての効果的学習法も異なる、といえるでしょう。

どのような長期的学習法が効果的か

CEFRでのC2能力のような「ネイティブに匹敵する英語力」を理想とする人と、「仕事でTOEICを受ける必要に迫られている」という人では、学習方法に大きな違いが出てきます。すなわち、語彙・文法・発音などの基礎的知識の習得を除くと、「誰にとっても効果的な学習法」は存在しないと言えるでしょう。ここで、理想の将来像に向けて、一人ひとりがユニークな学習方法を自分で見つけ出すことが重要となります。

ではどうすれば自分に適したユニークな学習法をデザインできるでしょうか?まず、自分が「統合的」タイプか、それとも「道具的」タイプなのかをじっくり考えてみましょう。例えば「昇進のためにTOEICスコアが必要」というケースならば、自分は「道具的モチベーション」がメインのタイプであるとカテゴライズできます。

ここで、仮にTOEICで800点が必要で、それに向けての学習法を設計したいとしましょう。まずは、「TOEIC800点の取得」だけが自分の最終目標(=「理想の外国語自我」)なのかを判断しましょう。答えがYESなら、道具的スタンスから、公式問題集や単語帳などを活用しながら「テスト勉強」に徹することが最短で効果的な学習法となるはずです。

もし答えがNOだとしたら、「TOEIC800点」という道具的ゴールに縛られず、自分が本当に達成したい「英語話者としての理想」を具体化してみましょう。ここで、「海外ニュースを理解したい」や「外国人の同僚と楽しく談笑したい」といった「統合的」な動機を、道具的な動機にブレンドさせていきましょう。道具的モチベーションだけに縛られると、どうしても「理想の外国語の自我」が狭いものとなりがちです。ここでは、将来の理想像をふくらませることを通して、学習方法の多様化をはかってみましょう

この場合の「学習方法の多様化」とは、テキストブック中心の学習法から、映画、読書、音楽などを通して得られる文化的興味が中心の、統合的な学習法へとシフトしていくことを指します。たとえば第二言語習得論では、「インプット (input)」 は 「インテイク (intake)」と異なるものだと定義されます。前者のインプットが、「学習者が触れる外国語のサンプル」であるだけなのに対し、インテイクは「注意が払われているインプット」であり、成功する学習者は、学ぶ事柄をただ「インプットする」のではなく、注意・興味を通して「インテイクする」とされます。多様化された学習方法は、文化的な興味を深めることを通し、学ばれる英語を「インテイク化」していくことだと言えるでしょう。

まとめると、「効果的な学習法」とは、理想とする英語話者のレベルに達するための、個々人によって異なる学習スタイルのことだと言えるでしょう。ここでキーとなるのは、どのように「道具的」な動機と、「統合的」な動機を組み合わせていくかということです。どちらか一方にかたよると、バランスよく英語力をアップさせることが難しくなるでしょう。英語を使うことで得られる楽しみを忘れないこと、そしてテスト勉強で得られる正確な知識や社会でのアドバンテージも忘れないこと、この2つを自分にとって適切に配分することが、成功する学習者になるための大きなステップとなるでしょう。

まとめ

ここでは、英語の習得に成功する学習者になるために必要なステップについて、特にモチベーションを中心に考えてみました。

「自分はなぜ英語を身につけたいのか」をまずは熟慮することで、英語使用者としての理想の将来像が思い浮かぶようになります。それをもとに日々の学習を独自にデザインし、実践していくことで、道具的/統合的モチベーションの両方の長所を組み合わせた学習が実現できます。「テスト勉強だけ」や「日常会話だけ」といった、極端にシンプルな目標を掲げるよりも、英語を学ぶことで自分をどのように高めることができるのかを常に念頭におきながら、自分にとって最も効果的な学習法をカスタマイズしてみましょう。

【関連ページ】第二言語習得研究(SLA)に基づく効率的な英語学習法
【参考書籍】「 Second Language Acquisition Myths: Applying Second Language Research to Classroom Teaching.」Steven Brown著、Jenifer Larson-hall著
【参考書籍】「Second Language Learning and Language Teaching (Fifth Edition)」Vivian Cook 著

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茂呂  宗仁

茨城県生まれ、東京在住。幼少期より洋画に親しみ、英語へのあこがれを抱くようになる。大学・大学院では英文学を専攻し、またメディア理論や応用言語学も勉強。学部時代より英米で論文発表も経験。留学経験なくして英検1級、TOEIC970、TOEFL109を取得。現在は英会話講師兼ライター・編集者として活動中。

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