洋書多読におすすめ!物語と海外文化を英語で楽しむ歴史小説10選

司馬遼太郎のような作家の人気に示されるように、「歴史小説」は、日本でも最も愛されている文学ジャンルの一つです。優れた歴史小説からは、物語を読むことで、ストーリーを楽しめるだけでなく、その背景となる歴史、そして今は失われた過去の文化を吸収することができます。

英語で歴史小説を読めば、海外の異文化の背景を楽しみつつ身につけることができます。ここでは、世界的に認知度が高く、スリリングな読書体験ができるような歴史小説をご紹介したいと思います。各書を読み終えるたびに、海外旅行とタイムトラベル、そして歴史のレッスンを同時に体験したかのような感覚が得られるでしょう。

1. I, Claudius(Robert Graves著 1934)

まずは古代ローマを舞台にした小説群の中でも、最も広く知られている I, Claudius (邦題『この私、クラウディウス』)をご紹介します。近年は歴史家メアリー・ビアードの『SPQR ローマ帝国史』の人気によって、ローマ帝国への関心が高まっているようです。

本書は、第四代ローマ皇帝で病弱であったクラウディウスの視点から、波乱に満ちた彼の人生が語られます。ゲルマン人との戦争や政治家の暗殺などといったシリアスな史実、そしてスキャンダルにまみれたローマの世界を、クラウディウスのユーモラスな語り口を通して楽しむことができます。笑いながら史実を学ぶのに最適な書かもしれません。

2. Gone with the Wind(Margaret Mitchell著 1936)


映画版の人気もあいまって、本書(邦題『風と共に去りぬ』)はおそらく、最もよく知られた歴史小説でしょう。ヒロインであるスカーレット・オハラや、彼女の求婚者のレット・バトラーといった名前を聞いたことがある方も多いかと思います。南北戦争時の荒廃したアメリカをたくましく生き抜くスカーレットの姿は、今でも色あせません。

近年のアメリカでは、「白人至上主義者」と呼ばれる人々が暴力を振るうことが大きな問題となっています。本書は、奴隷制を支持したアメリカ南部人の視点から書かれており、アフリカ系アメリカ人に対して差別的とされる描写も見受けられます。その問題を十分に踏まえつつ、愛と戦争のからみあう壮大なドラマに浸ってみてください。

3. The Jewel in the Crown(Paul Scot著 1966)

インドが1940年代まで大英帝国による植民地であったことはよく知られています。イギリスによるインドの支配を “Raj” と呼びますが、それを背景に、白人の支配者と抑圧された現地の人々の葛藤を描き出したのが本書(邦訳未刊)です。タイトルの「王冠の宝石」とは、大英帝国の誇りであった当時のインドを意味するフレーズです。

当時の人種差別観によって、インド人は支配者たちから「劣等」な存在として扱われ、両者は常に緊張関係にありました。その中で、無実のインド人青年がイギリス人によって逮捕されてしまうことから物語が展開します。人種と権力、異文化のからみあいを通して、マハトマ・ガンジーに象徴されるような抵抗勢力が生まれてきた背景が読み取れることでしょう。

4. The French Lieutenant’s Woman(John Fowles著 1969)


本書(邦題『フランス軍中尉の女』)はヴィクトリア朝時代のイギリスを舞台にしたロマンスですが、そのストーリーラインは、読者の度肝を抜くような展開を見せます。ネタバレを避けるために詳しくは述べませんが、映画『ラ・ラ・ランド』のような凝った構成のラブストーリーが楽しめた方にはぴったりでしょう。

タイトルにある「フランス軍中尉の女」とあだ名されるミステリアスな女性、そして彼女に徐々に惹かれていく知的で裕福な若者の二人が物語の軸となります。イギリスの浜辺の光景が美しく描かれているのも魅力です。1981年の映画版は、原作に大胆な解釈をしたことで話題となりました。映画をあわせて見ることで、作品世界への興味がいっそう深まるでしょう。

5. Sophie’s Choice(William Styron著 1979)

ナチスドイツによって開始された第二次世界大戦は、ユダヤ人大虐殺(ホロコースト)という惨事を生み出しました。それを背景に、ポーランドに生まれた女性ソフィーのトラウマと悲劇を描いたSophie’s Choice(邦題『ソフィーの選択』)は、全米図書協会賞を受賞しました。

物語は戦後まもなくのアメリカで、作家志望の青年とソフィー、そして彼女の恋人との出会いから始まります。過去を語ることを最初は拒むソフィーですが、交際が深まるにつれ、徐々に彼女が隠さねばならなかった戦争の残酷さが浮かび上がってきます。終盤になり、ソフィーがおこなった「選択」の意味が読者に明かされますが、その衝撃は読むものから離れることがないでしょう。

6. Midnight’s Children(Salman Rushdie著 1981)

インド系の作家サルマン・ラシュディによるMidnight’s Children(邦題『真夜中の子供たち』)は、出版とともに大きな反響を呼び、同年にイギリスで最も権威ある文学賞の一つであるブッカー賞を受賞しました。数多くあるブッカー受賞作の中でも、代表的作品とみなされている一冊です。

本書の主人公は、イギリスからのインド独立の前夜、午前零時に生まれたサリームです。不思議なことに、彼はその時間に生まれた他の「真夜中の子供たち」とテレパシーによって交流する力を身につけています。彼と他の子供たちが、動乱に満ちた20世紀の現代インドとともに成長する姿がコミカルに、ダイナミックに、そして時に悲しく描かれる現代文学の傑作です。

7. When We Were Orphans(Kazuo Ishiguro著 2000)

2017年にノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロは、様々なジャンルで執筆することで知られています。そんな彼が著した歴史小説が本書(邦題『わたしたちが孤児だったころ』)です。主として第二次大戦中の中国を舞台に、白人で私立探偵であるクリストファーが主人公です。

クリストファーは、幼少期から母親の謎めいた失踪に苦しめられてきました。日本軍と中国軍が戦いを繰り広げるなかで、失われた母親の行方を追求する彼の奔走が軸となり話が進みます。加えて、クリストファーと日本人青年との感動的な友情も、物語のキーとなります。そして、ついに彼が発見する母親の真実は、読むものに鮮烈な印象を残すことでしょう。

8. Absolute Friends(John le Carré著 2003)

著者のジョン・ル・カレは、『寒い国から帰ってきたスパイ』を始めとした文学的スパイ小説で知られる世界的ベストセラー作家です。本書(邦題『サラマンダーは炎のなかに』)は、第二次大戦後のパキスタンで生まれたイギリス人男性が、60年代のドイツで社会活動家の若者と出会い、彼らの友情がやがて東西冷戦、そして911テロ後の世界と絡み合う物語となっています。

スパイ小説の権威であるル・カレだけあり、冷戦中に「ベルリンの壁」を通して亡命者を西ドイツへと入国させる方法や、旧東ドイツのスパイ工作など、エンターテイメントとしての要素が満載です。一方で、徐々に暴力的になるアメリカの外交政治が生み出す混乱が、痛烈に批判されるという一面もあります。冷戦やテロとの戦争といった、歴史のハードな側面に触れてみたい方に強くおすすめできる作品です。

9. His Bloody Project(Graeme Macrae Burnet著 2015)

本書も19世紀イギリスを舞台とした作品ですが、通常イメージされるような「イングランド」とは大きく異なる文化を持つスコットランドで話が展開するのがユニークな点で、ブッカー賞候補ともなりました。1860年代のスコットランドの村で起きたとされる残酷な殺人事件をテーマに、犯人とされる若者の証言、そして「殺人」という「過去の出来事」を再構築する難しさが大きなテーマとなります。

物語の前半が犯人による事件の釈明書、そして後半が当時の裁判の描写となります。ここで、異なるバージョンの「過去」のはらむ矛盾に読者は直面させられることになります。歴史スリラーとしてだけでなく、「物語」として過去について語ることとは可能なのかというテーマを読者に問いかける秀作です。

10. Paris Echo(Sebastian Faulks著 2018)

最後に、つい昨年に出版されたセバスチャン・フォークスの最新作(邦訳未刊)をご紹介します。フォークスは、娯楽性と文学性の両方をかねそなえた作品を書くことで、広い人気を博しているイギリス人作家です。その彼が、パリを舞台として「現在」と「過去」が混じり合う世界を描いたのが本作です。

第二次大戦中、パリはナチスの占領下にありました。その当時の人々の生活に、現代に生きる主人公たちが、異なる時間が交錯する都市空間の中で次第に引き込まれていくという、野心的な作品となっています。忘れられかけている過去の生活や悲劇が、現在に「こだま “echo”」としてよみがえる、極めてユニークな歴史小説です。過去と未来が混在する、大都市パリの描写に惹きつけられること間違いないでしょう。

まとめ

今回は、英語で歴史小説を読むにあたって強くおすすめできる作品を10冊厳選してご紹介しました。10冊すべて、歴史へのよりいっそう深い理解の大切さ、過去を生きた人々への強い共感、そして戦争や悲劇への強い怒りなどを生き生きと描き出している作品ばかりです。読み進めるうちに、英語力はもちろん、歴史への興味が高まることでしょう。加えて、英語という異なる言語を通して、異なる時間の世界を生きてみるという素晴らしい経験のとりことなってしまうかもしれません。

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茂呂  宗仁

茨城県生まれ、東京在住。幼少期より洋画に親しみ、英語へのあこがれを抱くようになる。大学・大学院では英文学を専攻し、またメディア理論や応用言語学も勉強。学部時代より英米で論文発表も経験。留学経験なくして英検1級、TOEIC970、TOEFL109を取得。現在は英会話講師兼ライター・編集者として活動中。

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