ここでは、数多くの有名女性作家の作品のなかでも、広く人気を博しているものや、世界的に高い評価を受けているものを厳選してご紹介します。
1. The Haunting of Hill House (Shirley Jackson著、1959)
「ホーンテッド・ハウス」は、ホラーの中でも根強いテーマで、スティーブン・キングによる『シャイニング』は日本でも長く人気です。その『シャイニング』に大きな影響をあたえたのがジャクソンによる本書『丘の屋敷』です。心霊現象の研究家を中心にしたグループが、ある古い屋敷を探索しているうちに、さまざまな怪奇現象に直面していくストーリーですが、謎めいた恐怖のエンディングは見事というほかないでしょう。最近ではNetflixで映像化され、人気が再燃している古典的ホラー小説です。
2. The Bell Jar (Sylvia Plath著、1963)
わずか30歳にして世を去ったアメリカの詩人のシルヴィア・プラスですが、詩集『エアリエル』に加えて、小説である『ベル・ジャー』も、今日にいたるまで大きな支持を得ている作品です。プラス本人がモデルとなっている都会の喧騒のなかで苦闘する若い女性を主人公として、彼女が次第に精神をむしばまれていくプロセスをつづった心理小説となっています。著者が詩人だけあり、英語学習者には文章を書く上での言葉選びの点でも参考になるでしょう。
3. The Joy Luck Club (Amy Tan著、1989)
中国系アメリカ人作家のエィミ・タンによる本書『ジョイ・ラック・クラブ』は、4つの中国人の家族が、第二次大戦を生きのび、最終的にアメリカへと移住する大河ドラマです。原著の出版以来、グローバル時代を代表する作品の一つとして称揚され、世界的ベストセラーとなりました。英語は平明で読みやすく、またアジア文化が世界でどのように受容されているのかを知るにも最適な1冊です。
4. Alias Grace (Margaret Atwood著、1996)
最近TVドラマ化された『侍女の物語(The Handmaid’s Tale )』で知られる、英ブッカー賞作家のアトウッドによる歴史ドラマが本作『またの名をグレイス』です。19世紀のカナダで実際に起きた殺人事件をテーマとし、その事件の「共犯」とされたグレイスと、彼女の秘密を探ろうとする精神科医を中心に物語が進みます。当時のカナダがいきいきと活写されるなか、女性の心理とアイデンティティに踏みこむ野心的な小説です。未来が舞台のディストピア小説であった『侍女の物語』とは、また一味違うテーマやアプローチが楽しめる1冊です。
5. White Teeth (Sadie Smith著、2000)
出版と同時にセンセーションとなり、著者のゼイディー・スミスを一躍スター作家としたのが本書『ホワイト・ティース』です。自身も移民の子どもであるスミスが、グローバル化の進む現代ロンドンに住む移民たちの悲喜劇をコミカルに描き、多くの読者から共感を呼んだ作品です。TIME紙によるAll-Time 100 Novels の1冊にも選ばれた小説で(http://entertainment.time.com/2005/10/16/all-time-100-novels/slide/white-teeth-2000-by-zadie-smith/)、Brexitや移民排斥に揺れる現代イギリスを理解するためにも欠かせない作品です。
6. Gilead (Marilynne Robinson著、2004)
オバマ前大統領が愛読書のひとつとして挙げているのが本書『ギレアド』です(https://www.nybooks.com/articles/2015/11/05/president-obama-marilynne-robinson-conversation/)。ピューリッツァー賞に加え、全米図書協会賞をダブル受賞した名誉ある1冊でもあります。アイオワ州の架空の町「ギレアド」を舞台として、牧師である老主人公が人生のさまざまな苦悩を見つめていく物語です。アメリカの田舎の風景が美しく描かれているのに加えて、著者自身によるエッセイとしての豊かな趣もある小説です。ぜひオバマ氏のお気に入りを手に取ってみましょう。
7. The Lowland (Jhumpa Lahiri著、2013)
ピューリッツァー賞受賞者で、インド系アメリカ人作家のジュンパ・ラヒリによる本書『低地』は、英ブッカー賞にノミネートされたものの、惜しくも受賞を逃した1冊です。60年代のインドで生まれ育った兄弟が主人公ですが、当時のインドを席巻していた政治活動によって仲が引き裂かれる悲劇となっています。中国と並んで超大国となりつつあるインドの現代史が、読みやすい英語でドラマティックに描かれており、インド社会になじみがなくとも強くおすすめできる秀作です。
8. A Tale for the Time Being (Ruth Ozeki著、2013)
日系アメリカ人の血をひくカナダ人作家で、禅僧でもあるルース・オゼキが、2011年の東日本大震災を題材として著したのが本書『あるときの物語』です。著者自身がモデルである主人公が、震災後のある日、カナダの浜辺に流れ着いた日本からの日記を見つけるところから物語が展開します。その日記を通して、日系アメリカ人のティーンエージャーが、禅僧である日本人の祖母とぎこちなく交流を深めるという「物語のなかの物語」が語られる、ユニークな構成の小説です。終盤は、「時とは何か」という問いを読者に投げかける、知的でかつユーモアにあふれた1冊となっています。日本人学習者にとっても馴染みやすいテーマが扱われており、おすすめの1冊です。
9. Circe (Madeline Miller著、2018)
本書(邦訳なし)は、つい2018年に出版され、アメリカ人読者のあいだでセンセーションとなった作品です。ギリシア神話の世界を舞台とし、太陽神ヘーリオス (Helios) を父とする魔女キルケー (Circe) の視点から、神々たちの愚かさが痛烈に描かれる物語です。日本でも知られている『オデュッセイア』の主人公 (Odysseus) なども登場しつつ、ギリシア古典のさまざまなエピソードが、女性の現代的な視点から語り直されます。ファンタジーが好きな読者なら、ギリシア神話に詳しくなくとも楽しめるエンターテイメントです。
10. The Silence of Girls (Pat Barker著、2018)
ブッカー賞作家のパット・バーカーによる久々の長編小説である本書(邦訳なし)は、上に挙げた Circe と同じくギリシア神話を題材としています。こちらは「トロイの木馬」の物語としても知られる『イリアド』、そしてその中心人物である「駿足の英雄」アキレウス (Achilles) にフォーカスがあたります。男性にとっては「英雄譚」として知られるサーガが、奴隷となった女主人公のまなざしから再考されることで、戦争のもたらす残酷さが明らかにされるという野心作となっています。
まとめ
「男性の視点」からは見えにくい社会の矛盾や苦悩を明らかにする女性作家の著書が、世界で支持を得ています。英語の広がりやグローバリゼーションは、女性がこれまでの「常識」に対して異議を唱えるきっかけになっているとも言えるでしょう。同時に、それらの小説は新しい視点から、新しい題材について書かれることで、読者に新鮮な驚きを与えてくれることもあります。グローバル社会で英語を学ぶ中で、女性作家たちによって書かれた本を手に取るのも、大切な学習のステップに違いありません。
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茂呂 宗仁
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