毎年ノーベル賞の季節が近づいてくると、文学賞の候補者として必ず注目されるのが村上春樹でしょう。『風の歌を聴け』でデビューして以来、半世紀近くにもわたって世界中の読者を魅了してきた作家です。
英語文学から大きな影響を受けた村上作品は、英語で読むとよりしっくりとくると感じる人も多いかもしれません。ここでは、過去の村上作品の英訳を「テーマ別」にふりかえりつつ、日常の英語学習に役に立ちそうな本をご紹介したいと思います。
読みやすさ重視で選ぶ:South of the Border, West of the Sun
South of the Border, West of the Sun(『国境の南、太陽の西』)は、200ページに満たない短めの小説となっているので、村上作品に馴染みのない方にもおすすめできる作品です。バブル経済が絶好調であった東京を舞台としながら、裕福であることを追求するライフスタイルが、そこに違和感を感じる主人公の視線を通して批判的に描かれます。社会と個人の自由のあいだでの食いちがいという、村上作品に共通するテーマがコンパクトにまとまっている秀作です。
ファンタジー好きなら:Hard-Boiled Wonderland and the End of the World
本作(『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』)は、『ノルウェイの森』とならんで、初期の村上作品のなかでもひときわ人気の高い一作です。「世界の終り」と「ハードボイルド・ワンダーランド」という、ファンタジーと現実のあいだで2つのストーリーが交錯する展開はスリルに満ち、読む者をエンディングまで離しません。
歴史に興味があるならば:The Wind-Up Bird Chronicle
村上春樹というと、ファンタジーやロマンチックな作品が多い印象があるかもしれません。その中で、村上作品の持ち味をいかしながらも「歴史」という要素を絡めているのが本作(『ねじまき鳥クロニクル』)です。「猫の消失」という、とても村上的な始まり方をする本作ですが、第二次大戦中における日本軍の犯罪という重大なテーマが扱われています。ファンタジーと現実の歴史が絡み合う、とてもユニークな作品となっています。
現代社会を俯瞰してみたいなら:1Q84
英語版では900ページを超える超大作『1Q84』は、出版と同時に国内外でセンセーションを巻き起こし、多くの読者から村上作品のなかでも最高傑作だと見なされています。女主人公の「青豆」が、首都高でタクシーに乗ったまま、いつの間にか「1Q84」と呼ばれるパラレルワールドに迷い込むところから壮大な話が始まります。「オウム真理教」を思わせるようなカルト組織や、日本の現代作家たちへの批判的な眼差しを通して、今の社会がするどく描かれる1冊となっています。
記憶について考えたいのなら:Colorless Tsukuru Tazaki and His Years of Pilgrimage
『ねじまき鳥クロニクル』では、「国家」や「戦争」のレベルでの歴史が扱われましたが、「個人の記憶」という次元において過去が追求されるのが本作(『色彩をもたない多崎つくると、彼の巡礼の年』)です。高校時代にとくに仲の良かった5人組の友情の崩壊をふりかえりつつ、個人がどのように過去のトラウマ的経験を克服できるのか、という重い問題が、名古屋、東京、そしてフィンランドなど多彩な舞台を背景に語られていきます。
まとめ
今回は過去の村上春樹作品から、英訳版でおすすめの作品をご紹介しました。世界中で村上作品が愛読されている理由としては、読みやすさを失うことなく、「歴史」や「記憶」といった深いテーマを追求している点が挙げられるでしょう。あえて英訳で読むことで、日本文学を代表する作家が、世界ではどのように見られているのかを考える良いきっかけになるかもしれません。エンターテイメントとしても文学としても楽しみつつ、世界文学という視点で村上春樹を読んでみませんか?
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茂呂 宗仁
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