英語学習者の中には、海外経験が豊富で流暢な英語を話すバイリンガルに憧れを持つ人も多いでしょう。しかし「外国語がスムーズに習得できるのは臨界期まで」といった話を耳にすると、日本で生まれ育ち、特に海外生活経験や留学経験を持たない学習者は、今からバイリンガルを目指すのは無謀なのではないかと諦めてしまいがちです。
実際には海外経験がない方が大人になってから英語学習を本格的に始めたとしても、バイリンガルになることは十分に可能です。もちろん、このように言い切るにはまず「バイリンガル」とはどのような言語能力を指すのかという定義が必要です。また、そこまで英語を使いこなせるようになるには相当の努力が求められることは確かです。
そこで、今回は日本で生まれ育ち、海外経験もない日本人が目指すべきバイリンガル像、そしてそれをどのように実現するのかについて詳しくご説明したいと思います。
バイリンガルの正確な定義
まずは「バイリンガル」とは何か、ということから見ていきたいと思います。一般的には「母国語なみの流暢さで外国語を使用できる人」と考えられているようですが、実はこれは誤った認識です。
言語学で定義されるバイリンガリズムとは「1つ以上の言語を使用できる能力」にとどまります。どれだけ上手に外国語を使用できるか、という上達度に関しては、実は問われていないのです。たとえ流暢ではなくとも、多少は話せるならばすでにバイリンガル、というのが言語学上の答えです。
そのため、「ネイティブ並みの英語力がある」ということがバイリンガルの条件ではないことを、ぜひ理解してください。バイリンガルになるためには、海外経験などは決して必要とはされていません。バイリンガリズムは、国内に住んだままでも十分に達成可能な目標であることを頭に入れておきましょう。
現実的に達成可能なバイリンガリズムを考える
言語学上のバイリンガリズムでは、第二言語スキルのレベルについては問われないと先述しました。しかし、文法も発音も適当で、語彙も十分には備わっていないようでは、やはり英語を運用する上で問題があります。ここでは、大人の学習者が目指すべきバイリンガリズムのレベルについて、現実的な観点から考えましょう。
最近、外国語能力の指標としてよく用いられているのが「ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)」という基準です。CEFRでは外国語能力はまずA、B、Cの3つのレベルに大きく分けられ、その3つがさらに2つの段階(A1、A2等)に分類されます。したがって、CEFRは「A1」から「C2」までの計6つの言語能力で構成されています。
「大人が日本国内でバイリンガルになる」という目標をCEFRで置き換えると、「C1」ないしは「B2」を目指すことが現実的だと思います。英語講師や通訳等、英語がメインの職業についていない限り、「B2」のレベルに達していれば、十分に「日英バイリンガル」と言えるでしょう。
CEFRのB2とはどのような能力か
CEFRによる言語能力の定義は、長くて非常に込み入っています。しかし、B2だけを取り出して一般化した定義をすると「多少のミスはあるものの、様々なトピック、特に自分が専門とする分野に関して、多少難しいセンテンスを使いつつ十分なコミュニケーションができる」と簡略化できるでしょう。
日本人が社会に出てから英語でコミュニケーションをとるのは、仕事上の機会が多いでしょう。B2の定義にあるように、自分が専門とするビジネスの場などで英語がスムーズに使えるようになることを第一の目的とするのが効果的です。
言い換えれば、あらゆる領域について英語で対話できるような能力は、そもそも必要ないわけです。日本語を母語とする私たちも、日本語なのに聞いていてさっぱり理解できないようなトピックがあります。映画に関心のない人なら、映画についての話題には日本語でもついていくことが難しいことがあるでしょう。サイエンスが苦手な人なら、科学の教科書は日本語で読んでも理解するのが難しいでしょう。母語の日本語においてすら理解できるトピックは限られていることを考えると、外国語でオールジャンルの対話ができるような能力はすべての英語学習者に求められるものではありません。
したがって、B2レベルの英語力を目指す上では、英語で対話するにあたってのトピックを取捨選択していくことが大切でしょう。「英語がペラペラになりたい」という漠然としたゴールではなく、「自分が日頃関わっている特定分野について、英語でそつなく論じられるようになりたい」といった、より具体化された目標設定が役に立ちます。
どうやって目標とするバイリンガル像に到達するか
ここからは、どうすれば大人がCEFR B2レベルの英語力を得られるのかを考えてみたいと思います。
まず、「臨界期」以前の子どもとは違い、大人は意識的な勉強をしない限り英語が上達しません。加えて、日本では英語が使われる場が極めて限られています。そのため、常日頃の勉強に加え、積極的に英語を使用するチャンスを見つけていくことが大切になってきます。
まずは、独学で勉強が可能なことを考えましょう。足りない語彙や文法の知識は、市販の参考書などを使うことで十分に補強できます。英検、TOEIC、TOEFLなどの参考書を同時に併用し、偏りのないような勉強スタイルを心がけましょう。また、リスニングについては、YouTubeなどインターネット上で手軽に素材を見つけることができます。自分の興味や必要性に合わせて、レベルに適したマテリアルに数多く触れてみてください。
独学でカバーしきれない点としては、主にスピーキングとライティングという「アウトプット能力」があります。「知識」として単語や文法を知っていたとしても、それらを実践的に運用できるかは別問題だからです。第二言語習得理論では、頭に入っているだけの知識は「宣言的知識 (declarative knowledge)」と呼ばれ、アウトプット能力の源泉となる「手続き的知識 (procedural knowledge)」と区別されています。後者を身につけていないと、アウトプットが円滑に行えません。
国内にいながら英語を上達させるためには、教科書等を勉強して手に入る「宣言的知識」を、実践の場で体得できる「手続き的知識」へとアップグレードする必要があります。英検の二次試験などでも、高いスピーキング能力が求められるので、この知識は非常に大切です。身の回りに英語話者がいて、普段から英語のやり取りをできる環境にいるならば問題ありませんが、そうでない場合は自分から英語を使用する場を探していかなくてはなりません。
英会話スクールは、アウトプットの質を高める場として使用するととても効果的です。しかし、ただ英語を「話す」だけではなく、自分のアウトプットの質をモニターする「メタ言語的意識 (metalinguistic awareness)」という能力を高めるようにも心がけてください。最近ではオンライン英会話など、自宅にいながらアウトプットの訓練をすることも可能な時代になりました。以上にあげたようなサービスやテクノロジーを積極的に活用して、手続き的知識を高めていきましょう。
まとめ
以上、海外経験のない日本人が日英バイリンガルになる方法を、バイリンガリズムの概念を再考しつつ論じてみました。「ネイティブのように話したい」という漠然とした動機よりも、到達可能で具体的な目標を持つほうが、現実的なバイリンガリズムへの近道であることが理解いただけたと思います。まずは自分の理想とするバイリンガル像を再定義したうえで、それに向けて日々の努力にいそしんでください。
【参照サイト】Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment. Structured overview of all CEFR scales.
【参照サイト】 Common European Framework of Reference for Languages: Learning, Teaching, Assessment (CEFR)
茂呂 宗仁
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