「英語ができるようになりたい」という気持ちはあるものの、忙しい日々を送る中で、具体的な行動に移せていないという人は少なくありません。また、勉強に取り組んでみたものの、思うほどの効果が得られず、学習が続かなかったという人もいるでしょう。
「遠回りはしたくない」「英語力を効率的にアップさせたい」と感じている人には、まず、現状の課題を見極めることをおすすめします。適切な学習方法を選択する上で、課題を把握することは欠かせません。第二言語習得研究の結果からも、「学習法が効果的であること」は、外国語学習に成功する学習者の特長の1つであることがわかっています。
そこで今回は、英語を話す際の3つのプロセスについてご紹介するとともに、各プロセスにおいて多くの日本人学習者に共通する課題を取り上げます。「最近英語学習が停滞してしまっている」「英語力の向上に壁を感じる」という人は、ぜひチェックしてみてください。
スピーキングのプロセス
スピーキングのプロセスは、第二言語習得研究に基づき以下のように分類することができます。
- 概念化:言いたいことを思い浮かべる
- 文章化:単語や文法知識を用いて文章を作る
- 音声化:作った文章を声に出して発話する
1つ目の「概念化」とは、言いたい内容を思い浮かべるプロセスです。続く「文章化」のプロセスでは、自分が思い浮かべた内容を、単語や文法知識を用いて文章に変換します。「音声化」は、作った文章を実際に声に出して発話するプロセスにあたります。
現状の課題がどのプロセスにあるかを認識し、その課題を解決するための適切な学習を行うことによって、英語力を着実に伸ばしていくことができます。
スピーキングのプロセス別課題
ここからは、スピーキング時の各プロセスにおいて、多くの学習者が共通して抱える悩みとその原因についてみていきましょう。
概念化に課題があるケース
まずは、概念化に課題があるケースをみていきます。
言いたい日本語を英語にできない
「言いたいことはあるのに、英語に直すことができない」という場合、しばしば「文章化」の部分のみにスポットが当たります。しかし、実はその前段階にあたる「概念化」のプロセスにも課題がある可能性があります。
【原因】言いたい内容を複雑な日本語で考えてしまっている
言いたい日本語を英語にできない場合、複雑な日本語で概念化をしてしまっていることが原因の1つとして考えられます。使い慣れた日本語で思いつく表現は、第二言語である英語で文章化できるレベルをしばしば超えてしまいます。
自然に思いついた日本語表現をそのまま英訳しようとするのではなく、意識的にシンプルな日本語にまず置き換えてみると、英語に文章化する難易度がぐっと下がります。
言いたいことが思い浮かばない
会話の中で相手から「why?」と尋ねられたときに、「うーん・・・」と固まってしまうという人も、概念化のプロセスに課題があることが考えられます。
【原因】理由を説明すること自体に慣れていない
「Why?」と理由を聞かれてもうまく説明できないという場合には、英語力だけの問題ではなく、理由自体を日本語でも思いつけないということが考えられます。
日本人の多くは、「理由を説明する」ということがあまり得意ではありません。社会人や大学生に向けて学習法を配信する人気メディア「Study Hacker」での連載(※2017~2018年)などで知られる、「英語職人」こと時吉秀弥氏は、「日本語と英語のパターンの違い」をその原因として挙げています。
時吉氏が説明するように、日本語での会話は、しばしば共感や協調をベースに進められます。そのため、会話中に「どうしてそう思うの?」と相手から改まって理由を聞かれると、「え、自分の意見に何か問題でもあるのかな?」と、不安を感じてしまうこともあるでしょう。
一方、英語の会話では、「なぜそう思うの?」と理由を聞くことは、相手の話に対する興味を示していると時吉氏は説明します。
英語のコミュニケーションにおいては、理由を尋ねられる機会が多く、しかもそれはネガティブな反応というわけではないということを頭に入れておきましょう。
英語を話す上で「概念化」は、続く「文章化」にも影響する、非常に重要なプロセスです。
概念化スキルを鍛えるには、「英語で言えなかったことは、日本語から見直す」ことや、「意見と理由をセットで考える習慣をつける」ことが有効です。(詳しくは、「英語で言いたいことが浮かばない?スピーキング力を左右する「概念化」はこう鍛える」を参照ください。)
「語彙や文法の知識はあるのに、スピーキングがどうしても苦手」と感じている人は、一度、概念化のプロセスに課題がないかを意識してみることをおすすめします。
文章化に課題があるケース
次に、文章化に課題があるケースについてみていきましょう。
英語を読めるのに、話せない
「英語を読めるのに、話せない」という悩みは、中級以上の学習者からしばしば聞かれます。
英語を「読む」にも「話す」にも、単語や文法の知識を使う必要があります。ではなぜ、英語を読めるのに話せないということが起こるのでしょうか。
【原因】文法知識が不足している
英語を読めるのに話せない原因の1つには、文法知識が不足しているということが挙げられます。「日本人の多くは英語の文法は身についている」といった考えはよく聞かれます。たしかに、英語の文章を「読む」のに必要な文法力を持った学習者は少なくありません。しかし、スピーキングの際には、リーディング時以上に高いレベルの文法力が必要となります。
リスニング、リーディング、スピーキング、ライティングという英語の4技能は、受容スキル(レセプティブスキル)と産出スキル(プロダクティブスキル)の2つに分類されます。
「リスニング」と「リーディング」が受容スキルに、「スピーキング」と「ライティング」が産出スキルにあたります。
リスニングやリーディングといった「受容」の場合には、題材に使われている単語や文法の全てを理解できていなくても、前後の文脈などから内容を推測することができます。一方、「産出」の場合には、自分で一から文をつくる必要があります。そのため、ただ受容するとき以上に、正確な単語・文法知識が必要となります。
「英語を読めるけれど話せない」という場合には、アウトプットをするのに必要なインプットが足りていないということが考えられます。
持っている知識を使えない
前述した「知識が不足しているために、自分では使えない(産出できない)」というケース以外に、既に理解できている文法事項でも、話すときには間違えてしまうということがあります。適切な時制や三単現のsなど、頭ではわかっているはずの知識を使えないのはなぜなのでしょうか。
【原因】各タスクの負荷が同時にかかり、容量を超えてしまう
認知心理学の観点からみると、「容量の限界」ということが原因として考えられます。
スピーキング時には、「相手の英語を聞きとる」「言いたい内容を考える」「発音を意識する」といった様々な負荷が同時にかかります。母語である日本語での場合には難なくこなせるこれらのタスクも、第二言語である英語の場合には1つ1つの作業に脳のリソースが割かれます。その結果、意識が向いていないタスクにおいては、ミスが起こりやすくなります。
「知識」を「使える」ようにするには、実際に繰り返し使って慣れることで、各タスクにかかる負荷を減らし、自動化に近づけていく必要があります。
文章化スキルを鍛えるには、日本語を瞬時に英語になおすトレーニングや、話す「型」を身につけることが有効です。(詳しくは、「英語を読めるのに話せない?スピーキング力を左右する「文章化」はこう鍛える」を参照ください。)
英語を読めるのに話せない?スピーキング力を左右する「文章化」はこう鍛える
上記の方法を学習に取り入れることで、知識を運用できる力に高めていくことができます。「英語を読めるのに、それに比例するほど話せない」と感じる人は、ぜひ試してみてはいかがでしょうか。
音声化に課題があるケース
最後に、音声化のプロセスに課題があるケースについてみていきましょう。
発音がネイティブに通じない
正しい単語や表現を使っていても、発音が原因となり、聞き手に思いが伝わらないことがあります。自分の話す英語の音を「何となく英語らしくない」「日本語っぽい」と感じている人もいるでしょう。では、英語らしい音との違いとはいったい何なのでしょうか。
【原因】余計な母音をつけてしまっている
原因の1つとしては、英語を発音するときに余計な母音をつけてしまうということが挙げられます。
大学で教鞭を執り、英語学習に関する書籍も多数執筆している野中泉氏は、著書『英語舌のつくり方 ――じつはネイティブはこう発音していた! (CD book)』の中で、「余計な母音の追加」を日本人が英語を話すときの最大の欠点として挙げています。
余計な母音を加えると意味が通じなくなり、リズム感も損なわれ、英語らしくなくなる、と百害あって一利なしです。
オンライン予備校「スタディサプリ」での「神授業」などで知られる関正生氏も、「余分な母音を入れずに子音だけで発音すると、各段に英語らしくなります」と、著書『CD付 世界一わかりやすい 英語の発音の授業』の中で述べています。日本人が英語を発音する際に余計な母音を入れてしまう原因について、関氏は以下のように説明しています。
日本語は全部「子音+母音」で構成されています(「ん」だけは子音のみ)。
たとえば「く」なら [k+u] です。
したがって、つい日本語のクセで余計な母音を入れてしまうのです。
子音に母音をつけないように意識することが、相手に伝わる発音に近づくための第一歩となります。
ネイティブの話す英語が聞きとれない
ネイティブの話す英語を「速い」「聞きとれない」と感じる人も、音声化に課題があることが考えられます。
【原因】英語の「音声変化」を知らない
ネイティブスピーカーが英語を話すときには、「連結(※)」や「脱落(※)」といった様々な音声変化が起きています。しかし、中学や高校の授業では教えられる機会が少ないため、多くの日本人学習者はこの音声変化についての知識が不足しています。
音声変化が起こると、学習者が想定している音よりもしばしば短くなるため、英語の音を「速い」と感じてしまいます。また、「自分が認識している英語の音」と「聞こえた音」が結びつかないことにより、読めば理解できる表現でも聞きとれないということが起こります。会話中に相手の発言をきちんと理解できなければ、適切に応答することはできないため、コミュニケーションが円滑でなくなってしまいます。
たとえば「~するべきだった」という意味の「should have~」という表現は、しばしば「シュダ(ヴ)」のように発音されます。「(~に)注目が集まる」という表現の「all eyes are on」の場合は、「オ―ライザオン」のようになります。
音声変化にはルールがあります。ルールを体系的に学ぶことで、相手に伝わる発音を身につけ、同時に相手の発言を理解できるリスニング力をつけることができます。
※連結:単語の最後の子音と、続く語の先頭の母音がつながって発音されること。
※脱落:本来あるはずの音が、一定の条件のもとで発音されなくなること。
音声化スキルを効果的に鍛えるには、前述した音声変化のルールを理解した上で、シャドーイングのトレーニングを行うことが有効です。(詳しくは、「スピーキング&リスニング力アップに効果大!英語の「音声化」はこう鍛える」を参照ください。)
スピーキング&リスニング力アップに効果大!英語の「音声化」はこう鍛える
音声化のスキルを鍛えると、スピーキングだけでなくリスニングにも大きな効果があります。また、発音に自信がつくと、英語学習全般に対して前向きな気持ちで取組みやすくなります。英語に苦手意識があるという人は、まず発音の改善から取り組んでみるのもおすすめです。
まとめ
いかがだったでしょうか。今回は、スピーキング時のプロセスにおいて、学習者が抱える悩みとその原因について取り上げました。「英語が話せない」と一口に言っても、課題は学習者ごとに異なります。自分にとっての課題に合った学習方法を選択し、実行することで、英語力を着実に向上させることができます。効果的な勉強法を探しているという人は、ぜひ参考にしてみてください。
【参考書籍】『英語学習2.0』岡田 祥吾 著
【参照サイト】英語のパーソナルジム ENGLISH COMPANY
【参考書籍】『外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か』白井 恭弘 著
【参考書籍】『英語はもっと科学的に学習しよう SLA(第二言語習得論)からみた効果的学習法とは』白井 恭弘 著
【参考書籍】『英語舌のつくり方 ――じつはネイティブはこう発音していた! (CD book)』野中 泉著
【参考書籍】『CD付 世界一わかりやすい 英語の発音の授業』関 正生 著
English Hub 編集部
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