英文法を学んでも英語が話せないのはなぜ?第二言語習得研究から考える、知識を会話力につなげるための3ステップ

英語での円滑なコミュニケーションを目指して日々、会話練習に励む学習者も多いでしょう。しかし、優れた英会話力を習得するには、英文法のしっかりとした理解も欠かせません。「意思の疎通ができればよいので、文法は重視しない」という学習スタイルもあるようですが、長期的な観点からバランスの良い英語力を培うためにはおすすめできません。文法理解があってこそ、正しい英文で滞りなく意思を伝える能力が身につきます。

しかし、文法はしっかりマスターし、TOEICなどでも高得点を獲得しているのに「会話が苦手」という学習者が多いのも事実です。今回は文法とは何かにフォーカスを当て、どのように文法と付き合えば会話力がアップするのかを考えてみたいと思います。

1.「英文法はなぜ日本人にとって難しいのか」を理解する

日本語を母語とする人が、英語を第二言語として学習していれば、日本語と英語は構造的にかけ離れていることに気づく機会があるはずです。言語学では、ある言語ともう一つの言語の違いの大きさは「言語間距離」と呼ばれます。日本語と英語の言語間距離はたいへん大きいと言われています。

「一般文法」などの概念を提唱した言語学者のノーム・チョムスキーは、言語間の違いを考えるために「主要部 (head)」という考えを導入しました。この考えに従えば、主要部が「前位 (initial)」にあるか、「後位 (final)」にあるかによって、文法は大きく変わってきます。Saville-Troikeによる著書 「Introducing Second Language Acquisition(第二言語習得入門)」では、英語と日本語とで主要部がどう変わるかが次のように比較されています。

  • John kicked the ball.
  • ジョンはボールを蹴った]

太字部が動詞句で、下線部がその句の主要部になります。これを見ると、英文法では「主要部前位 (head-initial)」であるのに対し、日本語ではそれが後ろに来ている「主要部後位 (head-final)」であることが見て取れます。

このように、英語と日本語では主要部の位置が逆転しています。これが、日本人にとって英文法が難しいものである大きな要因です。日英の言語間距離が大きいことも踏まえると、英文法の基礎をしっかりと頭に入れておくことの重要性がわかります。

2. 学んだ知識の「自動化」を意識する

英文法の仕組みがある程度わかっていても、スムーズな会話力に直結しないことはしばしばありますが、これはなぜでしょうか。分かりやすい例として、車の運転に例えてみたいと思います。

教習所で運転の練習をするわけですが、まずはハンドルの握り方やアクセル・ブレーキの踏み方、そしてギアの入れ方や仕組みなどを「知識」として教わります。しかし、いざ初めて運転してみると、アクセルとブレーキを混同したり、誤ってリバースに入れてしまったり、ハンドブレーキをオンにしたまま発車してしまったりと、トラブルが続発します。頭では「90度右折する」と分かっていても、ハンドルを切りすぎて脱線してしまったりもします。しかし、大多数の人々は、しばらく練習を重ねるうちに、「ギアはどこに入れるのか?」といったことを毎回考えなくても、スムーズな運転ができるようになります。

このケースでは、頭に入っているだけの知識が「宣言的知識 (declarative knowledge) 」と呼ばれ、対して実際に運転をするための知識が「手続き的知識 (procedural knowledge)」と呼ばれます。後者と前者の大きな違いは、手続き的な知識を使ったアクションは「自動化 (automatization) 」がなされていて、脳の処理スペースを大きく占有することがない、という点です。

運転初心者がパニックになりがちなのは、頭で「意識して」運転の仕方を考えてしまっているからです。いちいち「次はギアチェンジ、次はハンドブレーキ」などと考えていては、刻々と変わる道路状況に注意がなかなか追いつきません。これは「宣言的知識」を引き出すことだけで脳の処理能力が一杯になってしまい、他のことを考える余裕がないからと言えます。それに比して、ベテランの運転者が安全運転できるのは、「手続き的知識」を使って運転するので、脳の処理能力に余裕があるからです。

英文法の知識にも、全く同じことが当てはまります。以上の比喩と同じ流れで、優れた英語話者になるためには、「宣言的知識」として頭に入れた文法を「手続き的意識」へと変換していく「自動化」を行う必要があります。

3. 「アウトプット仮説」に学ぶ実践練習を積む

自動化を行うには、車の運転を上達させるのと同じように、英会話スクールなどで実践を積んでいくしかありません。しかし、英語はただやみくもに話していれば、上達するというものでもありません。「英会話スクールに通ったけれど上達しなかった」という声も多く耳にします。そのような事態に陥らないためにも、ここではスウェインという研究者が提唱した「アウトプット仮説(Output Hypothesis)」を参照しつつ、効果的な学習法を考えてみましょう。

イマージョン教育の成果を調査したスウェインが提唱したのは、インプットを通してのみでは第二言語習得には限界があるという点でした。インプットを受けるだけでなく、アウトプットもしなければ言語スキルは伸びない、というのがアウトプット仮説です。2005年の論文でスウェインが指摘したのは、アウトプットには「スピーチの生産」、「気づき」、「仮説検証」そして「メタ言語的意識」という4つの役割がある、という点です。

この仮説にのっとると、学習者は英語を話すうちに、文法知識や発音など、自分の理解が欠けている点に「気づき」ます。また、自分の知っている知識を応用して、それをアウトプット化することで知識が正しいかどうか「検証」します。それらを通して、学習者は英語に対してより一層「意識」を高めることになる、というのがポイントです。

英会話スクールなどで実践練習をする際には、これらの点がたいへん重要になります。まず、インプット(聞いている)だけでは上達しないので、自分から発話していく必要があります。発話と言っても、単に話すだけでなく「自分の英語知識には何が欠けているのか」ということを意識しながら行うことが大切です。そして、自分が知っている文法項目を用いて、どんどん文章を作り、それらが正しいかどうか検証することも求められます。

アウトプット仮説が提唱するようなやり方で実践練習を積み重ねていけば、会話の中でも文法知識をフルに活用するようになり、一層文法能力がアップしていきます。その回数をこなしていくことで、宣言的知識が手続き的意識へと順調に変換されていくでしょう。

まとめ

今回の記事では、「英文法を知っているにも関わらず話せない」という問題への解決策を、英文法自体の難しさ、そして宣言的知識と手続き的知識の比較などを通して考えてみました。

先述したように、宣言的なものから手続き的な知識へと自動化するプロセスでは、車の運転を上達させるのと同じように、場数を踏んでいく必要があります。しかし、ただやみくもに話すのではなく、アウトプット仮説が述べているように、自分の知識をつねに自己分析しながら練習すると、より高い効果が得られます。知識と実践の両方のバランスを意識しながら、優れた英語話者になることを目指してください。

【参考文献】「新編 英語教育指導法辞典」米山朝二著
【参考文献】「 Second Language Acquisition Myths: Applying Second Language Research to Classroom Teaching.」Steven Brown著、Jenifer Larson-hall著
【参考文献】「Introducing Second Language Acquisition. (2nd Ed).」 Muriel Saville-Troike著
【参考文献】「Handbook of research in second language teaching and learning」Eli Hinkel編集

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茂呂  宗仁

茨城県生まれ、東京在住。幼少期より洋画に親しみ、英語へのあこがれを抱くようになる。大学・大学院では英文学を専攻し、またメディア理論や応用言語学も勉強。学部時代より英米で論文発表も経験。留学経験なくして英検1級、TOEIC970、TOEFL109を取得。現在は英会話講師兼ライター・編集者として活動中。

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