英語など外国語を勉強している方の中には、「語学力を生かして働きたい」と考えている方も少なくないでしょう。しかし、「自分の語学レベルで通用するのだろうか」「そもそも、どんな仕事がしたいのか分からない」と、悩んでいる方もいるかもしれません。
そこで今回、English Hub編集部は、書籍『外国語をつかって働きたい!』著者の小島さなえさんにインタビューを実施。大学で外国語を専攻していた小島さんが就職活動時に直面したという「言語はツール」問題や、実践的な語学力を養う方法、語学力を生かして働きたい人へのアドバイスなどを伺いました。
1980年生まれ。大学で中国語を専攻し、1年間の語学留学を経験。卒業後は翻訳・校正スタッフや大学職員として10年間サラリーマン生活を送る。35歳でイラストレーターとして開業し、書籍や広告など様々な媒体にイラスト素材を提供。本書の出版にあたり、漫画家「小島さなえ」として活動開始。
インタビュー目次
『外国語をつかって働きたい!』著者・小島さなえ氏インタビュー
Q:『外国語をつかって働きたい!』を書かれた背景について教えてください
私自身、若い頃から語学が好きで、将来語学力を生かして働こうと必死で勉強していたのですが、就職活動をする段階で「言語はツール」問題に直面しました。当時、私の中では「語学力を生かせること」が仕事探しの最優先条件で、「語学力を生かしてどんな仕事をしたいのか?」という肝心な点を、なかなか明確にできなかったのです。
外国語を使う仕事のイメージを掴もうと、書店の語学コーナー周辺をウロウロしたものの、あるのは通訳・翻訳関連の本ばかり。それ以外の業種・職種について具体的に紹介するような本は見つけられませんでした。
そういう悩みを持つのはきっと自分一人ではないはずだと思い、若い頃の自分が「こんな本が欲しい」とイメージしていた内容を、自分自身で漫画にすることにしました。
Q:「言語はツール」という考えについて、どう思われますか?
ビジネスの世界において「言語はツール」というのは、ある種の真実だと思います。例外的に、通訳や翻訳といった言語サービスの業界では、語学力そのものが商品やサービスの質に直結するので、単なる「ツール」だとは言い切れない面もありますが。
例えば、海外の取引先となんらかの交渉が必要となった場合に、「語学は堪能だが、人見知りで交渉が苦手な人」と、「語学は若干カタコトだが、社交的で交渉が得意な人」のどちらかを選ぶとしたら、後者を欲しがる会社の方が多いと思います。
ビジネスの現場では、どんなに流暢な外国語を話せても、仕事の目的を達成できなければ評価はされません。自分で外国語を話せなくても必要な時だけ通訳者を雇えばいい、と割り切っているビジネスパーソンも多いでしょう。
ただ、その理屈で「外国語を勉強しても役に立たない」などと考えるのは、極論だと思います。外国語学習は語学力の向上だけではなく、異文化に対する理解を深めることにもつながります。ネット社会では、複数の言語を理解できれば入手できる情報量が何倍にも増えますし、「海外から見た日本」の姿にも目が向くので、少なからず視野が広がります。
仮に学習成果が思うように出なくても、言語習得の大変さを体験することで、外国で暮らす人々の苦労なども想像しやすくなり、異文化を柔軟に受容する素地を養える気がします。語学学習によって培われるそのような気質は、きっとビジネスの世界でも役立つと思います。
Q:語学力を仕事で使えるレベルにまで高めるためには、何が必要だと思われますか?
「仕事で使えるレベルの語学力」は仕事の種類によって違うので、手短に答えるのは難しいですね。
例えば、私の知人のベテラン実務翻訳者はTOEIC990点を持っており、難解な文書でも正確に読み解いて分かりやすい日本語に変換することができます。一方で、会話力は決して高くなく、今でも英会話教室に通っています。彼の場合、高度な翻訳をこなすスキルはあっても、通訳のスキルはありません。
逆に、ある優秀な通訳者に翻訳を頼んだところ、誤字脱字や文法的誤りだらけの雑な訳文が上がってきた、というケースもありました。
私の実務経験の範囲で話すと、日本の大学職員として留学生対応をする上では、英検2級ぐらいの英語力があれば十分こなせると思います。ちなみに、私が配属された大学院では、英語で授業が実施されていたので、日本語を話せない留学生が大多数でした。分からない言葉には日々出会いますが、その都度調べたり同僚に聞いたりできますし、留学生の多くは英語のネイティブではないので、会話のスピードもゆっくりでした。
しかし、もし海外の企業や団体で現地の人を相手に仕事をするなら、そんな語学レベルではとても通用しないでしょう。
このように、「仕事で使えるレベルの語学力」は、本当に多種多様です。ただ、どんな仕事をするにしても、基本的な文法をある程度習得した後は、語学教材だけに頼らず、日常生活の中で生の外国語に触れる機会を増やしていくのが良いとは思います。
例えば、「PCやスマホの言語設定を外国語にする」「SNSやYouTubeで海外のアカウントをフォローする」「海外の映画やドラマを字幕なしで見る」「英字新聞や洋書を読む」など。
語学教材は基礎的な力を築くために必要ですが、実際に外国人とコミュニケーションをとってみると、訛りがあったり、文法が正確ではなかったりと、教材通りにいかないことがしばしばあります。それに慣れていくことが「実用」の第一歩かもしれない、と個人的には思います。
Q:外国語を使う仕事において、「語学力」以外で求められることが多いスキルや要素は何でしょうか
これも仕事によって様々です。前述のように、ビジネスの世界では多くの場合「言語はツール」にすぎません。「語学」をいったん脇に置き、国内向けのビジネスと同様に考えれば、どういう仕事でどういう能力が求められるのか想像しやすいのではないでしょうか。
例えば、営業職であれば交渉力やプレゼン能力、接客業ならおもてなしの心やサービス精神、事務職なら情報処理能力、研究開発職なら技術的な専門知識、クリエイターなら作品自体の魅力・・・というように。
なお、通訳・翻訳のような言葉の専門家であっても、語学だけ勉強していれば良いというわけではありません。訳す分野のことをその都度調べる必要がありますし、通訳者・翻訳者の適性はそれぞれ異なります。
- 通訳者:頭の回転の速さ、語彙力、瞬発力、滑舌の良さ、体力、打たれ強さ、度胸 etc.
- 翻訳者:文章表現に対する探求心、慎重さ、繊細さ、注意力、調査能力、検索能力 etc.
「外国語を使う仕事」にも適材適所があるので、それを踏まえて自分に向いた仕事を検討するのがミスマッチを防ぐ上で重要な気がします。
Q:「外国語を使って働きたい」と考えている方に向けて、メッセージをお願いします
外国語を学ぶ人の中には、「こんな仕事をしたい」という目標が既にある人もいれば、語学自体が好きだから学んでいる人もいるはずですが、後者の場合はまず自分がどんな仕事をしたいのかを明確にすることが就職活動において肝要だと思います。
「外国語を使う仕事」は世の中に数えきれないほどあり、求められる人物像は業種・職種により様々です。「スキル」だけではなく、「性格」などもよく考えて、自分に合う仕事を見つけてもらいたいと思います。
もし結果的に外国語をあまり使わない仕事に就いたとしても、努力が無駄になる訳ではありません。語学を学ぶことで得られる異文化への理解や広い視野は、生きていく上で必ず役立つと思います。仕事でなくとも、語学は趣味として私生活で楽しむこともできますし。
どんな形であれ、言葉を学んで人生が豊かになれば、とても素敵なことだと思います。
インタビュー後記
外国語を学ぶ過程では、言語そのものや、関連する文化に愛着が湧いてくる場合が少なくありません。小島さんが就職活動時にぶつかったという「言語はツール」問題に、まさに今直面しているという方もいるのではないでしょうか。
やりたい仕事が分からないまま、「とにかく、内定をもらわないと」とやみくもに応募を重ねるも良縁に繋がらず、焦りがつのってしまうケースもあるかもしれません。
今回お話を伺った小島さんの著書『外国語をつかって働きたい!』には、自身の就職活動時のエピソードや、英語・中国語を駆使した実務経験に加え、外国語を使って様々な業界で活躍するビジネスパーソンへのインタビューも掲載されています。
実務翻訳者や翻訳文学編集者、商社の海外駐在員、製造業の人事担当者ほか、外国語を使って働く多様な事例をすべて漫画で読めるので、「自分に合った仕事を見つけたい」「言語に携わる仕事のイメージを掴みたい」という方は、ぜひ本書を手にとってみてはいかがでしょうか。
『外国語をつかって働きたい!』概要
商品名:外国語をつかって働きたい!
著者:小島さなえ
定価:1,870円(税込み)
発売日:2022年12月26日(月)
単行本(ソフトカバー): 176ページ
出版社:左右社
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English Hub 編集部
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