「英会話イーオン」と「株式会社ジャパンタイムズ」の共催セミナー「ジャーナリストに学ぶ世界で通用する英文ライティング」が2021年5月29日(土)にオンラインで開催されました。セミナー講師として、The Japan Timesの元編集局長でジャーナリスト・英文ライターの大門小百合氏と、イーオンで教務トレーナーを務めるZoe Boyd(ゾーイ・ボイド)先生が登壇。お二人から、実用的で洗練された英文を書くコツを学びました。
セミナーレポートの前編「英字新聞記者から学ぶプロのライティング術とは?」では、大門氏による「英文記事ライティング」の講義内容をまとめました。大門氏が英字新聞記者として培ってきた「読み手に届く英文」を書くノウハウが凝縮された内容で、メールやプレゼン資料作成など、ビジネスの場面においても応用できる情報が満載です。
レポートの後編は、Zoe Boyd先生(以下Zoe先生)によるレクチャー「Making Your Point: Tips from AEON ~説得力のある英語表現~」についてレポートします。また、セミナー終了後の取材では、大門氏とZoe先生に、英文ライティングについてのさまざまな課題や疑問点について質問。お二人からいただいた、学習者の背中を押してくれる前向きアドバイスをお伝えします。
大門 小百合氏
英字新聞の記者、編集者、報道部長を経て、117年のThe Japan Timesの歴史で女性として初めて、編集・デジタル部門のトップとして編集局を統括。論説委員を経て2020年9月に独立。在職中にハーバード大学特別研究員として、メディア、アメリカ政治を研究。育児休業中に研究員として招かれ、子連れでサウジアラビアの研究所で研究する。2014年から 2020年まで世界経済フォーラム主催のダボス会議のメディアリーダーとして参加。
イギリス出身。大学で言語学を専攻し、日本が舞台の小説を愛読していたことから、日本で英語を教えることを決心。2014 年にイーオンに入社後、スクール教師としてエルミこうのす校(埼玉県)、下北沢校(東京都)などで勤務し、キッズから大人まで幅広く会話クラスを担当。2019年より東京本社 教務課 トレーナーとしてイーオンスクールの教師育成に従事。外国人教師の新入社員研修やフォローアップ研修などを担当する。
ジャーナリストに学ぶ英文ライティング【後編】:講師 Zoe Boyd先生
英文ライティングにおける説得力のある英語表現とは?
講義の最初は、読み手に伝わる英文を書くために、学習者が知っておくべき心得をZoe先生がわかりやすく解説。その内容の一部を紹介します。
アメリカ人作家から学ぶ「言葉の力」
講義の始めにZoe先生から紹介された次の文は、アメリカの作家、リタ・メイ・ブラウン(Rita Mae Brown)の著書『Starting from Scratch – A Different Kind of Writers’ Manual』からの引用です。
メッセージを色々な形で伝える「言葉の力」について述べているこの一節を心に留め、まずは“a scrupulous reader”(几帳面な読み手)を目指しましょう。それは、作者の意図や背景といった、行間(実際に言葉になっていない部分)の意味を読み取れる読者になることを意味します。
そして、英文ライティングでは“eloquent and precise writer”(雄弁で正確な書き手)であることも必要とされます。自分が伝えたいことを正確に伝えるために、最も適した言葉を注意深く選ぶ必要があります。このように、優れた英文を書くためには、「几帳面な読み手」であり、「雄弁で正確な書き手」であることが大切になります。
「言葉選び」の重要性とは
言葉は小さな変化によって大きな違いが生まれるので、その選び方はとても重要です。同様のストーリー(意味)でありながら、ニュアンスが異なる2つのニュース見出しを例に見ながら考えていきます。
Tokyo Olympics to ban foreign spectators as COVID precaution.
【見出し②】
Japan to stage Tokyo Olympics without overseas fan.
2つの文はいずれも「東京オリンピックは海外の観客なしで開催される」という意味ですが、ニュアンスの違いに気がついたでしょうか。【見出し①】で使用されている“ban”は「禁止する」という意味で、正確に訳すと「海外からの観客の参加を禁ずる」と厳格です。それに対して、【見出し②】は“without”を使用することで「海外からの観客なしで開催する」となり、表現として和らぎます。
主語も異なります。【見出し①】は“Tokyo Olympics”なのに対して、【見出し②】では“Japan”です。つまり意思決定者が(オリンピックの)運営委員会なのか、あるいは日本政府なのかを伝えることができます。
「海外の観客」の表現の仕方にも違いがあります。【見出し①】では“foreign spectators”(外国の観客)となっており、これはすでに日本にいる外国人を含むことも可能です。【見出し②】の“overseas”はより明確に「海外から来る」観客を意味します。
このように、同じ出来事について書いた文章であっても言葉の選び方一つで、読み手の受け取る印象や解釈が異なります。
能動態と受動態を使い分ける
“active”(能動態)と“passive”(受動態)の使い方を理解することも、英文で意味を伝える上では重要です。
“Mary wrote the article.”(メアリーがその記事を書いた)【能動態】
この文を受動態で書き換えると次のようになります。
→“The article was written by Mary.”(その記事はメアリーによって書かれた)【受動態】
前者は「誰(書いた人)」に焦点をあて、後者は「記事(書かれたもの)」に焦点を置いています。このように、英語では、書き手がどこを強調したいのかによって、主語も変わっていきます。
能動態には文字数の削減、明確化、即効性といったメリットがあり、「誰が・どこで・何を」の情報を効率的に伝えるのに向いています。一方の受動態には、主語の省略、意味の強調、主語が不明な場合、科学的に表現したい時に使います。具体的にどのようにその効果を発揮するのか、以下の受動態の文を見て考えてみましょう。
About 4 million passenger cars are sold in Japan annually.(日本では毎年、400万台ほどの乗用車が販売されている)
この文では、車を売ったのは「車会社」だということは分かりきっているため、意味上の主語となる「車会社」は省略されています。ここで主語として強調されているのは“4 million passenger cars”(400万台の乗用車)です。車会社を主語にした能動態ではなく、受動態の文で「400万台の乗用車」を主語として強調することで、日本における自動車産業の大きさを示しています。
連語を使って効率的に情報を伝える
“fast food”や“global warming”といった習慣的に組み合わせて使用される単語を「collocations(連語)」と言い、一つの塊として扱います。連語は“make coffee”(コーヒーを淹れる)といった日常的に使用されるものから“new normal”といった流行語までさまざまです。
連語は多くの人に馴染みがある組み合わせで、効率よく情報を伝えることができます。文章の流れがより滑らかになり、さっと目を通すだけでも意味が伝わる文を綴れます。ヘッドラインや広告のキャッチコピーでも大きな効果を発揮するので、一つの塊として覚えてしまうと英文を書く際に役立ちます。
インタビュー: English Hub編集部によるQ&A
講義終了後、大門氏とZoe先生のお二人に取材を行いました。セミナーの内容で気になった点、日本人英語学習者が抱える英文ライティング上達に向けた課題についてお話を伺いました。
Q: 英文ライティングにおける日本人学習者の課題とは何でしょうか?
Zoe先生:日本人特有というより、課題は個々の学習者によると思います。意見を伝えるためにデータを使うなど科学的なアプローチを取る人もいれば、カジュアルな人もいて、そこには個性が出ます。完璧な英文を書くための形式はありません。大切なのは状況や伝える相手に合わせた英文を書くこと、すなわちコンテクスト(背景)とライティングスタイルを考えるということです。
もう一つ大切なのは、読み手に伝えたい言葉、「自分の声」を見つけることです。色々試して自分にとってベストな英文ライティングの方法を見つけてほしいです。
大門氏:The Japan Timesは日本人の記者が日本人に取材する機会も多いです。日本人の言葉を英語にしようとすると直訳になり、単語は合っていても、意味やニュアンスが伝わりにくいことがあります。その場合、一度日本語の意味をかみ砕いてから英語にしてみるのが大切です。英文ライティングは翻訳とは違います。日本人は翻訳に引きずられてしまう印象を受けますが、「わかりやすく、正確に伝える」という点では、意味を咀嚼してから相手に伝えることが最も大切です。
Q: わかりやすい英文を書くために、普段から心がけるべきことや、おすすめの学習法があれば教えてください。
Zoe先生:まず、自分がどのようなライティングを目指しているのかを決める必要があります。目標にするライティングを見つけたら、「手本」となる記事や文章を集め、共通するパターンを見つけるのが鍵です。そうすることで書きたいことや、自分に合ったスタイルが自然と分かるようになります。
Q: 「丁寧さ」を意識すると、説明過多になってしまい、かえって相手にニュアンスが伝わらないように思います。英文における本当の意味での「丁寧さ」とは何でしょうか?
Zoe先生:あいさつと結びが適切であること、内容がシンプルで伝えたいポイントが明快であれば、ほとんどの場合はそれ以上何も必要ありません。また、ビジネスシーンでは必要以上に言葉や情報が盛り込まれている文章は好まれません。カジュアルになり過ぎず、要点を得ていて“Hope you’re doing well.”(お元気にしていますか)といった個人的なコメントが最初にあれば、丁寧でフレンドリーだと受け取られるはずです。
大門氏:相手によって必要とされる丁寧さや書き方が異なるのではないでしょうか。インターネットで探せば、手本となる書き方がシーンごとに細かく紹介されているので、それらを見つけて覚えておくと書きやすくなると思います。
Q: 英文取材記事など、説得力のある文章を書くためには読むことも大切なのでしょうか?
大門氏 : 取材に行く前には、取材対象の内容と関連する英語表現について勉強をする必要があります。特に専門性の高い分野になると、自分の理解が不十分であることが露呈してしまいます。関連するインタビューや書籍、共通するトピックの記事を英語で読み、事前に理解を深めます。良質なアウトプット(書く)のためには、インプット(読む)がとても大切だと思います。
Q: 英語スキルを向上させるための、英字新聞のおすすめの使い方を教えてください。
大門氏:決して全てを読もうとしないことです。新聞は毎日届くものです。読んでいない新聞が積み重なっていくと、最後は嫌気がさしてしまいます。まずは興味のある記事だけを読んでみるでもいいのではないでしょうか。興味のあるトピックであれば内容や単語も頭に入ってきます。
また、ネイティブが書いた英文記事を読み、語彙・表現の幅を広げると、文章表現が豊かになります。日本で起きた出来事について英語で書きたい場合は、The Japan Timesなど日本のニュースを伝える英字新聞も役立ちます。日本語で書かれた出来事が、英語ではどう表現されているのかを参考にするのもライティングのスキルアップにつながります。
Q: 英字新聞の読解には英語レベルの高さが問われる印象があります。初中級の人向けの、ジャパンタイムズのおすすめ活用法があれば教えてください。
大門氏:その週に起こった出来事を英語学習コンテンツとして発行している「The Japan Times Alpha(ジャパンタイムズアルファ)」であれば、ニュースがコンパクトにまとまっていて、難しい語彙・表現には日本語の注釈や訳がついているので、英語学習者におすすめです。また、英字新聞は冒頭にエッセンスが詰まっているので、最後まで読まず、最初の1〜2パラグラフを読んで、内容を理解するのも、英文読解のトレーニングになると思います。
辞書にばかり頼ってしまうとリーディングが止まってしまいます。まずは辞書を使わずに内容を予測しながら読み、どうしても気になる単語のみ2回目に目を通す際に調べてみるのがおすすめです。
編集後記
The Japan Timesで日本人ジャーナリストとして活動されてきた大門氏、イギリス人であり、イーオンで英語教育に携わるZoe先生。それぞれに歩んできたキャリアや文化的背景は異なる二人の意見やアプローチの違いが、本セミナーの内容をより奥行きのあるものにしていました。
共通して言えるのは、いただいたアドバイスやノウハウはいずれもすぐに実行可能で、学習者の背中を押してくれる前向きな内容であったことです。前編で大門氏が掲げた「英文を書きやすくする5つの習慣」や、後編でZoe先生がすすめる「連語」の活用といったアドバイスを、頭の片隅に置いておくだけで、英文ライティングへのアプローチが変わるはずです。
「一番大切なこと、書きたいことは何なのか考える」(大門氏)、「どのようなライティングを(自分が)目指しているのか決める」(Zoe先生)と、お二人ともに「一番書きたいモノを書く」を強調したように、大切なのは自分の中にある「伝えたい」に想いを巡らせること。その熱量が学習への意欲を掻き立てる原動力になります。世界に通用する英文を目指す方は、「書く」ことに対するそもそもの動機・目的について、一度向き合うことが大切なのではないでしょうか。
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