「英語を使って働きたい」と漠然と考えてはいるものの、英語を使う仕事にはどのようなものがあるかや、どういった仕事が自分に向いているかが分からず、具体的なイメージや目標を抱けずにいる方は多いのではないでしょうか。
また、興味がある仕事はあるものの、「自分の英語力で大丈夫だろうか」「今から頑張っても難しいのでは」と、挑戦する勇気が出ない方もいるかもしれません。
そこでEnglish Hubでは、実際に英語を使って働く様々な業界の方に、仕事内容や求められる英語力、現在の仕事に就くまでの英語学習方法などを聞くインタビューシリーズを開始します。
連載第1回目となる今回は、アメリカの音楽業界で働くりみさんにお話を伺いました。
目次
今回のゲスト:りみさん
名前 | りみさん |
職業 | 音楽会社勤務 |
居住地 | アメリカ・ロサンゼルス |
主な学習法 | 映画、音楽鑑賞 |
英語を使って音楽業界で働く
Q:現在の職業と仕事内容を教えてください
ロサンゼルス拠点の音楽会社に勤めています。主な仕事内容は、アーティストの発掘や、音楽ファンに向けた様々な企画の資料作成、音楽業界で働きたい人に向けたセミナーの運営などです。
アメリカや日本だけでなく、世界中にクライアントがいますが、仕事中は主に日本語と英語の2ヶ国語を話します。
現在(2021年9月取材時)、日本と比べるとアメリカは新型コロナウイルス感染防止対策の規制が緩和されてきていますが、ほとんどの仕事は今もリモートで行っています。
Q:音楽業界で働こうと思ったきっかけは?
もともと、幼稚園の時に約1年半と高校2年生の時から、日本でダンスを習っていました。ただ、プロのダンサーになろうとまでは考えておらず、高校卒業後は短期大学に進み、幼児教育について学んでいました。
そんな中、短期大学在学中に、日本であるアーティストのコンサートバックダンサーとして、大きなステージで踊らせて頂く機会があったんです。その時にバックステージを見て、音楽業界の裏方の仕事に興味を持ったのがきっかけです。
「音楽を学ぶのであれば、アメリカがベストな国」と考え、アメリカへの長期留学を決意しました。語学学校に約3年通った後、ロサンゼルスにある音楽カレッジ「Musicians Institute」で約2年、音楽ビジネスを学びました。昨年カレッジを卒業し、現在はOPT(Optional Practical Training)の制度を活用してアメリカで働いています。
Q:音楽カレッジでは、どのような勉強を?
「ミュージックビジネス学科」で、SNSを含むマーケティングや、音楽に関する法律、ツアーマネジメントなどを学んでいました。今振り返っても、実際に音楽業界で働く際に役立つクラスばかりだったと感じます。
中でも、特に仕事に活きていると感じるのは、「ビジネススキル」というクラスで学んだ内容です。このクラスでは、ライブ会場などで出会う音楽業界関係者とのコミュニケーション方法や、仕事に対するアプローチ方法を学びました。カレッジの先生が音楽会社社員という設定でロールプレイング練習を行ったり、自分がマネジメントするアーティスト(架空の人物)についてパワーポイントを作成してプレゼンテーションをしたりしていました。
また、ミュージックビジネス学科では、音楽に直接は関連しない「ビジネスコミュニケーション」クラスの受講も必須でした。当時は、「音楽に関係するクラスだけ受講したいのに」と思っていましたが、今では、働く上で必要な基礎知識をそのクラスで学べたと実感しています。
ビジネスサイドの勉強の他、レコーディングなど音楽制作についても学びました。
Q:卒業後は、どのような経緯で現在の会社に?
もともとカレッジ在学時に、現在の会社でインターン生として働かせていただいていました。
きっかけは、カリフォルニア州で数ヶ月に一度行われる音楽著作権のカンファレンスです。当時の私のチューター(家庭教師)に誘われて、なんとなくついて行ったカンファレンスが、私の音楽人生を変えました。現在勤める会社の社長と、その会場で出会ったんです。
ただ、その場では、数分程度の会話をして、連絡先を交換しただけでした。私のカレッジでは「音楽会社での半年間のインターン」が単位の取得条件となっていたので、カンファレンスから半年ほどたった頃、勇気を出して社長に初めて連絡。学業と両立しながらの、インターン生活がスタートしました。半年間、音楽業界で必要なスキルを身につけ、カレッジを卒業後、その会社で働かせてもらえることが決まりました。
Q:音楽カレッジの卒業後は、実際に音楽業界で働く方が多いのでしょうか?
これは、あくまで私の個人的な感想ですが、日本と比べるとアメリカでは、「自分が本気で学びたいことを見つけてから進学する」という方が多い印象があります。音楽カレッジも、専門スキルを身につける場所なので、卒業後は多くの方が音楽業界で働いていると思います。また、既に音楽業界で働きながら、スキルアップのためにカレッジに通っている、という方も周りにいらっしゃいました。
ただ、私が就職活動を開始した2020年12月、アメリカは非常事態宣言中で、curfew(夜間外出禁止令)が発令されていました。音楽業界でも、会社がいくつも倒産し、多くの方が解雇され、面接はもちろん、話すら聞いてもらえないことが多いような状況でした。
パンデミックの状況が少し落ち着いてきた今でも、希望する就職先が見つからず、就労ビザを取得できたにも関わらず帰国する方もいます。今、こうして働けることは幸運だと感じています。
もしアメリカでの就職を考えている方は、英語力の向上に励むのはもちろんのこと、人脈作りを積極的に行うとよいと思います。日本語で「コネ」というと、ネガティブな印象を持たれますが、アメリカではコネクションは、仕事をする上でとても大切なものです。コネクションがあるほど信頼につながることが多く、チャンスを掴みやすくなります。
また、アメリカには、スキルが多少不足していても一生懸命に取り組んでいれば、認めてくれて、チャンスをくれる文化があると感じます。頑張っていれば、必ず道が開けると思います。
状況に関係なく、やる気があれば夢を叶えることができると私は信じています。いつ、どこに、どんなチャンスがあるかは分かりません。今後留学や、海外で働くことを考えている方は、大きなチャンスを逃さないよう、たとえその瞬間は気分が乗らないようなときでも積極的に行動することをおすすめします。
りみさんの英語学習の軌跡
Q:英語に最初に触れたのはいつですか?
母親がマイケル・ジャクソン( Michael Jackson )などの洋楽が好きだったので、家の中では邦楽よりも洋楽がよく流れていました。
その影響もあり、幼少期からカートゥーンネットワーク(CARTOON NETWORK)などの海外アニメはよく観ていました。特に好きだったのは、『パワーパフガールズ(The Powerpuff Girls)』と『テレタビーズ(Teletubbies)』。パワーパフガールズは、今でも空き時間に観たりします。子供向けのアニメですが、大人でも楽しめるので、英語初心者の方におすすめのアニメの1つです。
また、私が小学生の頃に、テレタビーズのパソコン用英語教材ゲームソフトがあり、家にいる時にはそのソフトでずっと遊んでいた記憶があります。アルファベットも分からないのに、手探りで遊んでいましたね。
ただ、大人になるまで英語そのものに興味を持ったことはなく、渡米するまでは全く英語が話せませんでした。兄は私と正反対で、幼少期から英会話スクールに通い、小学6年生で英検3級を取得するなど積極的に英語を勉強していたので、「同じ環境で育っても、こんなにも違うものなんだな」と、よく感じていました。
Q:英語の勉強を本格的に始めたのはいつから?
アメリカに1ヶ月間ダンスの短期留学をした、19歳の時です。
中学・高校では、英語を全く勉強していませんでした。英語の音読が子守唄のように聞こえてしまい、6年間、英語の授業は寝て過ごしました(苦笑)。そのため、先ほども述べた通り渡米時には全く英語が話せず、言えたのは「Yes」「No」「Hello」の3つだけ。「S」や「Z」を鏡文字で書いてしまう程の英語力だったので、アルファベットから勉強を始めました。
「中学や高校の時に少しでも授業に耳を傾けていれば、大人になってこんなに苦労することはなかったな」と本当に後悔しました。ホームステイをしていたのですが、ホストファミリーとは、ボディーランゲージとGoogle翻訳でコミュニケーションをとっていましたね。
Q:英語を習得する過程で、特に苦労したのは?
発音では、未だに苦労することがあります。いくら単語やフレーズを知っていて、どのように伝えたらよいかまで分かっていたとしても、正しい発音ができていないと相手に理解してもらえません。聞き取ってもらえない時には、伝えたい単語の意味を英語で説明するようにしています。
つい最近、友人とカフェを訪れた時に、友人が「コブサラダ」をオーダーしたのに、その数分後テーブルに置かれたのが「クラブソーダ(炭酸水)」だったことがあります。店員さんに「私たちがオーダーしたかったのは、クルトンが乗っているサラダだったの」と説明すると、「あー、コブサラダだったのね!」と。食べたかったコブサラダを、無事オーダーすることができました(笑)。
Q:英語力を維持・向上させるために、日々実践されていることはありますか?
起床後や就寝前、移動時間には洋楽を聴くようにしています。英語学習をしている方の中には、「邦楽を聴くのを辞めた」という方も多くいらっしゃるのですが、私自身は邦楽・洋楽どちらも聴いています。私の場合、無理に洋楽ばかりを聴くようにしていると、音楽がBGMのようになってしまい、英語を聴こうとする意識が薄れてしまうためです。
仕事では、クライアントにメールでコンタクトを取る時に、定型文をコピー・ペーストするのではなく、毎回自分なりに文章を考えたり、異なる表現を使ったりするようにしています。毎回定型文を使用していると、どうしても表現が固くなってしまうように感じます。ビジネスメールの表現は何百通りもあるので、新しい表現は積極的に取り入れるよう意識しています。ビジネス用語については語学学校であまり学ばなかったので、もっと勉強しておけばよかったなと思います。
私と同じように、「無理に勉強しようとすると、飽きてしまって継続できない」という方は少なくないのではないでしょうか。英語学習初心者の方であれば、携帯の言語表記を英語に設定したり、移動時間などに洋楽を聴いたり洋画を観たりするのがおすすめです。英語学習をする上で一番大切なのは、勉強を継続することです。音楽、映画鑑賞、読書など、自分に合った勉強方法を見つけて、楽しく英語に触れてみてください。
Q:「英語を使って働きたい」と考えている読者に向けて、メッセージをお願いします
私は、19歳の時にレベル1どころか0から英語学習をスタートしました。今でも、「英語を話せる」と自信を持って言うことはできませんが、そんな私でもカレッジを卒業できましたし、現在アメリカで働いています。
母国語ではない言語を用いて仕事をすると、想像を超えるほどのプレッシャーがかかる時もありますが、それ以上に大きな達成感を味わうことができます。また、海外では、仕事でたとえミスをしてしまったとしても、一生懸命働くことをより評価してくれる方が多いと感じています。
「英語を使って働きたい」と考えている方の中には、海外で働くことに恐怖心を抱いてる方もいると思います。でも、絶対に大丈夫です。慣れるまでは精神的にきついかもしれませんが、そこを乗り越えたら、充実した日々を送ることができると思います。一緒に頑張りましょう!
インタビュー後記
今回は、アメリカの音楽業界で働くりみさんにお話を伺いました。英語が全く話せなかった状態から、世界中にいるクライアントと日々コミュニケーションをとれるまでに英語力を伸ばされたりみさん。英語を使って働きたい場合、「自分は何をしたいのか」を明確にすることが、英語力以上に大切であると感じました。
連載第2回以降も、英語を使って様々な業界で働く方のインタビューをお届けします。